第三章 ラオス戦争
生きるか死するか――それが問題である
ウィリアム・シェイクスピア
ラオス――インドシナ半島内陸部に存在していた国。東南アジア唯一の内陸国であったこの国は、現在二つの国に分かれている。
一つは北部を拠点とするラオス人民共和国。CHARU勢力下にはいり、中国からの支援を受けている共産主義国である。もう一つが南部を拠点とするラオス王国。ルワンパバー王家を国際同盟が復位させ、北のラオスと対立させるために作り上げた国家である。
このように、各勢力ごとに分断された地域は、他に南北西に三分割されている朝鮮半島や、ソマリランドとソマリア共和国に分割されているソマリアなどがある。
そしてこのラオスで、飛将と呼ばれる一人の男が戦争を起こす。
さて、この時代の戦争とはどういったものになっているのだろうか? 簡単だ――技術がさらに進歩し、戦術は中世へと退化したことにより、再び新しい進化を行った。すなわち、電子兵の登場により、中世の如き白兵戦が主体となりながら、その白兵戦を補佐する近代技術が存在する――中世と近代が混然一体となった時代――この米中戦争から始まった第三次世界大戦は、それ故に後世にこう呼ばれている。
繚乱時代
と。
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ラオス中部に存在するナムグム川南岸。ここにラオス王国将軍、カイソーン・レンサヴァットが陣を作っていた。彼は中国・北ラオスの連合軍が、ラオス王国の最大都市にしてかつてのラオスの首都、ビエンチャンに迫っている、と斥候より報告を受けたのだ。
「風に土の香りは乗らず、か」
レンサヴァットは鼻を大きく開いた後そう言った。もし敵の大軍が接近しているのなら、土がかき乱されて、土中の有機物の香りがするはずである。湿った土地ならではの判別法だ。
「レンサヴァット将軍、周辺に敵の影は無し。もしかしたら斥候が婆を掴まされたかもしれません」
レンサヴァットの副官、ブンニャイ・ヤートートゥーは走り寄り、告げる。
「むぅ……ならば北ラオスの村を焼き討ちして、王都に帰るか?」
その報告を受けて、レンサヴァットは考える。現在、かつてのラオスは二分割されている。双方狙うは、自勢力を中心としたラオスの再統一である。
「焦るのは禁物かと。敵が周囲に隠れている可能性もあります」
レンサヴァットにそう告げるのは、ベトナムより派遣されているチャン・ロー・フェイ。国際同盟よりの援軍である。
「ふむ、それも考えてはいるのだが……どうすればよいかのう」
そういうと、フェイは立ち上がった。
「ならば私が行きましょう。幸いにして我がプログラムは斥候に優れているが故に」
それを聞き、レンサヴァットは無言で頷く。
「ふむ、それでは行きましょう、ラオスとベトナムの共栄の為に」
そう言った後、雄々しく立ち上がり、フェイは銃を握った。そして呟く。
「行こうか、ズン」
そういうと、彼のプログラムが起動する。彼のプログラムの名は、ヴァン・ティエン・ズン――ヴォー・グエン・ザップと並んでベトナム戦争におけるベトナムの勝利に寄与した、名将軍である。
『ふむ。行こうか、フェイ』
ズンはそう言った。フェイは頷き一人密林へ消える。
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ラオス王国本陣より北に四キロ。
「おい、オリガ。まだか?」
中華人民共和国より、ラオス人民共和国への援軍としてきた袁覇という男はそう問いかける。
「まだですよ、覇。王国側の警戒は未だ解かれていません」
金髪の女性――名をオリガ・チェルノヴァという――は、そう言いながら袁覇の前に座る。
「ちっ、まだか……流石はレンサヴァット。隙がねぇな」
そう言いながら袁覇は川蟹を火で炙ったものを食べる。
「ええ、流石の老将です。餌に食いつけばいいのですが――なかなかうまくはいきませんね」
そう言いながらオリガも炙った川蟹を食べる。ナムグム川でとれた新鮮な蟹を炙ったものだ。
「正直レンサヴァットをここで潰さなきゃ、貧弱な共和国兵じゃ勝てねぇ。あの爺の強さは異常だ――何度か戦ったが、あの男の強さは梓時宗、城親豊に匹敵する」
「ですね。城親豊と言えば、彼の戦術はいやらしかったですね……彼が死んで、中国の北部が安定したのがよくわかります」
「ああ、ただ……あの野郎は中国から大事な物を奪ったけどな」
「……ですね」
オリガがそう言った時だった。オリガは急に蟹を置く。
「覇、草がいます」
それを聞いて、袁覇は眼を見開く。
「ほう」
オリガは小さい声で言う。
「私が花を摘みに行くふりをして、侵入者を排除します。今のうちにレンサヴァットに奇襲を」
袁覇は頷く。
戦争が始まる――
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「不味いな、急ぎ戻らねば」
フェイは敵の駐留を認め、急ぎ撤退しようとした。その時である。
「草刈りをしなければいけませんね」
冷たい声がする。
「っ!」
フェイは銃を取り出し、撃つ。相手も銃を撃ち、空中で銃弾が激突した。
「中々の実力だな」
フェイはそう言いながら、女の方に飛び掛かる。ベトナムはその主戦場が密林故に、立体的な動きが軸となっているのだ。
「甘いですね」
オリガは着地点を予想してそこに銃弾を撃ちこむ。その場所が急に爆発した。
「っ!」
フェイはとっさに防御態勢を取る。しかし、彼はナムグム川の支流に叩き落とされてしまった。
「草刈り、終了ですね」
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「っ! ヤートートゥー! 全軍に知らせろ、敵が来る!」
異常に気が付いたのはレンサヴァットであった。ヤートートゥーは急ぎ頷き、電子兵のシステムを利用した内線で連絡を取る。基本的に、この時代は電子兵以外も含む全ての兵士がプログラムを所有している。と言っても、時宗などの様に、電子兵として歴史上の偉人を自身のプログラムとしている例は少数だ。偉人に選ばれなかった大半の者は、汎用プログラムと呼ばれるものを所有している。
「敵襲か!」
「腕が鳴るぜ!」
「共産かぶれ共に死を!」
ラオス王国兵は慌てることなく、戦へと備える。
ラオス――この国の国民性の最大の特徴は、生真面目さである。生真面目で、上司の言うことにいち早く従う。
「者ども! 来るぞっ! 銃兵戦列、展開っ!」
その国民性の表れか、レンサヴァットの声に冷静かつ迅速に対応し、銃を持ったラオス兵が短時間のうちに真っ直ぐ横一列に並んだ。
各兵固唾を飲んで銃を構える――
「掛かれええええええええええええええっ!」
彼らの銃口の方向より声がしたかと思うと、真紅の騎兵――袁覇を先頭とした中華騎兵隊が迫る。勇猛果敢な、中国最強の騎兵隊である。
「奥の青い鎧を着た兵士を集中砲火せよ!」
レンサヴァットがそう指示した瞬間、ラオス兵たちは無言でその兵士を集中砲火する。
「があああっ!」
青い鎧の兵士――袁覇の副官である趙廉民が頭蓋を吹き飛ばされ、息絶える。
「ちっ、廉民がやられたか」
袁覇はそう言って舌打ちする。この時代において、一般兵と電子兵の差は大きい。たとえ汎用プログラムを所有していたとしても、歴史上の人物のプログラムを入れている電子兵には遠く及ばない。故に、そう言った差を埋めるための戦術が発達した。このレンサヴァットが得意としているのは雑兵に目もくれず、部隊の要となる者を集団で砲撃することで連携を崩してゆく戦術――ラオスで最も戦争を経験し、電子兵として優れているが故に、要を瞬時に見極められるレンサヴァットだからこそできる戦術である。
ここまで早く自戦力の大きな部分をつぶすとは、やはりレンサヴァットはただ物ではない。袁覇はそう思った。次の瞬間――
「よそ見をする暇はあるのかのう?」
声がする。とっさに矛で防御するものの、機装馬から叩き落とされた。
「ぐっ!」
かろうじて空中で回転し、直ぐに戦闘態勢に移る。彼を叩き落としたのは無論、ラオス最強の電子兵レンサヴァット。使用するプログラムはセーターティラート――ラオスの主要民族であるラオ族の民族的象徴の王朝、ラーンサーン王国の名君サイセーターティラート王である。
「ちっ、容易に勝利はくれねえか」
矛を構え、袁覇は愚痴を言う。じっとしていれば薄らと汗ばむほどの湿気の中、袁覇とレンサヴァットは向かい合う。
同時期、中華騎兵隊とラオス王国歩兵隊は激戦を繰り広げていた。
「敵の電子兵、片方は殺し片方はレンサヴァット将軍が対処している! 勝利の糸は手繰り寄せられたぞ!」
ヤートートゥーは大声で鼓舞する。彼の電子兵はクーン・ロー。西暦700年頃ラオスで活躍した名将である。その特性は電子兵には極めて珍しい、一般歩兵補助である。彼の士気の元、歩兵達は怖れを忘れた猛者となる。それこそが、若輩のヤートートゥーが名誉あるレンサヴァット隊の副官を務める理由だ。
「退くな退くなっ! ここで退けば我等を信じたラオスの同朋が死ぬぞ! それは中華の名誉にかけて許されぬ! 勇姿を見せよ、誇りを示せ!」
一方、汎用プログラムを組み込んだ、中華騎兵隊員たちは慌てていた。真っ先に趙廉民が電子兵であることを見抜かれ、ラオスの兵卒に初手で潰された、これほどの痛手はない。
ラオス側は少数ながら完璧な連携を見せていたのに対し、中華騎兵は趙廉民を失った穴が埋め切れておらず、動揺を隠しきれず連携がおろそかになっていた。だが、まだ中国側にも勝機は十分にある、そう中華騎兵隊員は信じていた。
何故か? それは――
「ああああああああああああああああああああっ!」
「らあああああああああああああああああああっ!」
袁覇、彼という人物が強いからだ。
「ぬうううん!」
「はっ!」
レンサヴァットは矛を剣で逸らし、袁覇の首を狙う。袁覇は矛で剣を叩き潰そうとする。一進一退。武の極地に至った者同士の戦い。
電子兵の関わる戦場ではどうしても一騎打ちが多くなる。奇策を用いない限り一般兵では電子兵を抑えきれないからだ。一騎打ちが多くなるが故に、この時代の電子兵に求められる要素は三つ。
絶対的なカリスマ。
正確にして速い決断力。
そして――勝利を諦めない姿勢。
この三つを持たねは歩兵を使う事さえも難しい。
「らっ!」
「しゃっ!」
草木を薙ぎ倒し、表土がめくれるほどの激戦は続く。互いにもう何度撃ちあったかわからない。そして、互いに求めあう。戦争の高揚を、自己の名誉を。
「いけええええええええっ!」
袁覇は薙ぎ倒した木をレンサヴァットの方に飛ばす。
「小癪なっ!」
レンサヴァットはヤマネコを思わせるような動きで避ける。そして、レンサヴァットはそのプログラムの特性を発動する。かつてラオスに栄光をもたらした、一人の偉大な王の特性を。
「蛮人よ、エメラルド仏の光により剣を置け」
瞬間、レンサヴァットの持つ剣がエメラルド色に輝く。それは戦意を失わせる光――セーターティラートが作り上げた、エメラルド色の仏像の光を再現したもの。敵の戦意を失わせ、その隙に敵の首を斬るというものであった。だが、袁覇もただ者ではない。
「ルィブ! 断ち切れっ!」
『我を洗脳なぞ笑わせるわ、愚物がッ!』
袁覇はプログラムに干渉させ、その光の効果を断ち切った。
「っ!」
レンサヴァットは唇を噛む。
「毎度思うが、爺! てめーもうちょっと正々堂々戦いやがれ!」
それに対してレンサヴァットは不敵に笑って答える。
「はは、不意打ちは戦争の花じゃぞ?」
袁覇は明らかに不快感をあらわにする。
「わかってるけどよ、それでも腹が立つわ!」
そう言いながら矛を構えたその時である。プログラムにオリガから連絡があった。内容は、ラオス人民共和国とベトナムの国境に大量のベトナム兵。至急撤退し防衛せよ、というものであった。
「ちっ」
袁覇は舌打ちし、後ろに下がる。
「むっ!?」
レンサヴァットは何が来るかわからず、防御態勢を整えて様子を見る。次の瞬間――
「撤退だ!」
袁覇は乗り手を失った自軍の機装馬に乗り、撤退の指示を出す。
「「「「「応っ!」」」」」
中華騎兵隊は全軍反転し、撤退する。それを見たレンサヴァットは叫ぶ。
「深追い不要! 全軍撤退ぞ!」
こうしてナムグム川岸の戦争は終わりを告げた。
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ラオス人民共和国とベトナムの国境。そこにはベトナム兵五万がいた。
「フエの防衛部隊全てを費やすとは、全くなんというギャンブルか」
ベトナムの都市、フエ防衛隊のグエン・ラン・ザップは肩をすくめる。しかし、彼の傍に仕える女性は言う。
「しかしながら、北ラオスの連中は現在ラオス王国しか見ていないのでしょう? これを機にラオス北部を併合すべきというのがハノイの上層部の考えだそうですよ?」
それに対し、ザップは呆れたような顔になる。
「全く、北ラオスの領土はラオス王国に返還するのが筋だろうに……。うちの国の強欲もここまでくると呆れるな」
女性は苦笑いしながら答える。
「はは、取れる時に取っとけってやつですよ。占領すれば、併合するにしろ返還するにしろ、利益が入りますからね。うちの国は商売人気質ですし」
ザップは困ったような顔で言う。
「しかし、多分北ラオスはこっちに矛先を向けると思うけどな」
女性は言う。
「まぁ、それはそれで戦力を分断したとして友邦を助けたという口実にできますし、どちらにしろベトナムにとっては利益みたいですよ」
「動かされるこっちの身にもなってほしい」
そう言ってザップは国境沿いの兵を整える。
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ラオス人民共和国、ナムグム川北方の軍事拠点。
「ちっ! ベトナムの鼠めがっ!」
帰還するなり袁覇は机を蹴り砕く。
「袁覇、落ち着いてください。今回のベトナムの兵配置は正に妙手です。冷静さを欠くとやられるかと」
オリガは袁覇を宥める。だが、その顔は心底悔しそうであった。グエン・ラン・ザップ率いるベトナム兵五万が、国境付近の村を焼き払ったのだ。南方に気を取られていたラオス人民共和国と、袁覇の失態であった。
さらに厄介なことに、ベトナム軍はほとんどラオス人を殺さずに、逃がすことで、都市まで誘導した。生産拠点である小規模農村を百近く潰し、その住民を国内難民として都市に流入させることで、食糧不足を起こそうという策だ。
「慰めはいらねぇ。失態はでかすぎる……」
そして、袁覇もこの意味を十二分に理解していた。すなわち、中華人民共和国からラオスへの食糧援助。
「ただでさえもうちの国は食料が足りねぇっつーのに」
頭を抱える。現在、CHARUの盟主である中華人民共和国の台所事情は厳しい。常に国際同盟とEAUの干渉により、チベット人やウイグル人、チワン族などの反乱が日常茶飯事に起きている。特に、チベット、ウイグルは亡命政府が国際同盟に加入しており、最先端の電子兵技術を修めた反乱軍がいるのだ。
そんな風に困り切っていた彼の元に、一本の電話がかかる。
「私が取りましょうか?」
オリガの申し出に対し、袁覇は首を横に振って、電話を取る。
「もしもし、此方中華人民共和国ラオス方面軍ですが」
そうすると、電話の向こうから声がする。
《やぁ、君かぁ》
「その声……韓か」
聞こえてきたのは蛇の様にねちっこい、一種独特の粘っこさを含んだ声だった。韓梁歳という、北京方面を守っている軍団長だ。袁覇はこの人物の事を嫌っていた。謀略を好み、敵だけではなく味方の中の疑わしい者も常に暗殺する。将校としては優秀かもしれないが、人間としては最悪の男だ。そう思っていた。韓は言う。
《ああ。それにしても、君はやってくれましたねぇ。本当に不味いことをしてくれましたよぉ――》
「っ」
予想通り、これは政府からの詰問だ。そう袁覇は悟った。そして、恐らくその裏でこの男が動いていたのだろう、そうも思った。なぜなら、ラオス方面軍の先の軍団長は韓周雷――韓梁歳の弟だったからだ。軍団長の地位を、周雷の不正を告発して奪ったことを恨みに思っている。そう考えていた。声を詰まらせた袁覇に、韓はねちっこい声で言う。
《全く、南方の善良な同盟者を救うために、か弱い我が国の民が死んでしまいますねぇ……おお! 悲しい悲しい! どこぞの誰かのせいで、我が国の民が死んでしまいますねぇ》
その声を聴きながら、袁覇は拳を血が流れるほど握る。それは心の底からの憎悪であった。韓の言葉は続く。
《本来ならぁ! 貴方は九族誅殺です。しかぁし、慈悲深い我らの政府は貴方に任務を与えましたぁ。それは、『尚武学園』の襲撃でぇす。来週、一年生二年生の合同訓練が六甲山中で行われまぁす。貴方はそこに乱入して、未来の逆賊の芽を斬ってきてくださいなぁ》
「このっ……糞がッ!」
袁覇は憎しみを露わにする。そんな言葉など路傍の糞にも劣ると言わんばかりに、韓は言う。
《おやぁ? 良いのですかぁ? そんなことを言うと、上海に残したあなたの老父母が何らかの事故でお亡くなりになるかもしれませんよぉ? 若しくはあなたのお姉さんやぁ、お兄さんがぁ》
そこまで行ったところで袁覇は怒鳴る。
「わかった! そこまで言うのならその任を受けよう。ただし、帰ってきたら覚えてろ」
その言葉と共に、袁覇は受話器を握りつぶした。
「……オリガ、俺は日本に行く」
その直後、袁覇はオリガの方を見る。オリガは頭を下げていく。
「覇、どうか、御無事で」
その眼には涙が浮かんでいた。歴史が動き出す。
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北京の軍事指令室で、韓梁歳は笑っていた。
「くふふふぅ。全く、これだから脳筋は嫌ですねぇ。反吐がでまぁす」
そう言いながら彼は紹興酒を飲む。
「なぁにが覚えてろ、ですかぁ。貴方は死ぬのですよぉ、何せ国際同盟の本拠地に突っ込むのですからねぇ。くふふふぅ」
いやらしい、腐臭がするような笑い声。笑った後、韓は足元の球体を蹴り上げて、左手に掴む。
「ねぇ、そぉ思いませんかぁ? 袁覇君のお母さぁん」
その球体は生首であった。よく見ると、韓の足元には、九個の生首があった。それらはそれぞれ、袁覇の母、父、兄、兄嫁、その息子、姉、姉婿、その娘、息子である。
「くふふふぅ、仮に生き残ったとしてもぉ、これを知ったらどぉ思いますかねぇ」
韓梁歳、心底まで腐りきった男であった。
「外部にこれが漏れるのは、早くて二週間。逆賊の九族を抹殺したとでも言っておきますかぁ。くふふふぅ」
生首を放り投げて、韓梁歳は笑う。
「狗の癖に人間様に逆らうのが悪いのですよぉ」
その笑みは、とても同じ人とは思えぬ笑みであった。
第三章はいかがでしたでしょうか、電子兵のいる戦場はどのようなものか、がテーマでしたが面白く感じていただけたでしょうか?
楽しんでいただけたなら幸いです。
黒城綾の出生、自らの知らない歴史の事実。
次回 第四章 六甲演習準備と昔の物語
今度は主人公たちメインの話です。