自惚れ
授業が終わり、辺りを見渡す。
春菜が教室を出ようとしてる。
僕は、慌てて自分の鞄を掴んで。
「あっ、春菜。一緒に帰ろ」
と声を掛けた。
春菜は、僕を振り返り見ると。
「ん…。ごめん。今日、部活なんだ。だから一緒に帰れない」
申し訳なさそうな顔を見せて言う。
僕は、春菜の部活に興味をもった。
身を屈め、春菜の顔を覗き込み。
「じゃあ、一緒に行って見学してもいい?」
と聞いてみた。
春菜の顔が赤くなったと思ったら。
「うん。言いと思うよ?」
って、疑問符がついて言う。
見学、ダメだったのかな?
「何で、疑問系?」
僕は、不思議に思って聞き返した。
「さぁ?」
って、不思議そうに答える春菜。
自分でもわかってないようだ。
思わずクスクスと笑みが溢れる。
そんな僕に対して、明らかに不機嫌になって歩き出した春菜。
僕は、慌てて追いかけた。
「春菜。ちょっと待ってよ」
声をかけるが、止まる気配がない。
僕は、春菜の横に並ぶと。
「笑ってごめん」
小声で伝える。
そんな僕を春菜はちょっと悲しそうな顔をして見てくる。
でも、その視線は、僕の頭の上に向けられてる。
「春菜?」
僕は、不思議に思った。
呼び掛けても視線は、頭の上から離れないから…。
もしかして…。
僕は、恐る恐る頭に手をやった。
「あっ…」
そう僕の頭の上に猫の耳が…。
うわー。
ヤバイヤバイ。
さっき、春菜を怒らせたと思って、気落ちしたせいで、耳が現れてしまったんだと気付いた。
「春菜って、見えるんだっけ?」
僕は、恐る恐る聞いてみた。
一瞬、キョトンとした顔をした春菜。
「うん。あっ君の頭の上の猫耳(?)綺麗な白色の耳が付いてる」
って、色まで言われたら、隠しようがない。
「ハァー」
僕は、溜め息を吐いた。もう、説明しないといけないよね。
「これは、説明しないといけないよね」
う~ん。
どう説明したらいいのだろう?
思い悩んでいたら。
「別にしなくていいよ。興味無いし」
って、返ってきた。
興味ないって…。
「えっ…」
僕は驚いた。
だって、普通は説明を求められるものだろ。
それが、何も興味ないから、話さなくてもいいって……。
あまりにも寂しい。
「説明するの大変なんでしょ?だったらいいよ。それに私以外に見える人居ないみたいだから、私が気付かないふりしてれば良いわけだしね」
って、春菜が茶目っ気のある笑顔で僕を見る。
春菜には、僕の事を知って欲しいって思ってる。
でも、まだ時じゃないんだって思わされた気がする。
「…ありがとう」
僕はそれしか言えなかった。
「お礼を言われる筋合いはないけど…。あっ君は、ここで待ってて」
春菜は、素っ気なく言い放し、部室に入っていった。
暫くして出てきた春菜は、侍の如く胴着を着こなしていた。
「春菜、その格好って…」
僕の言葉に。
「うん?あぁ、私、あっ君が引っ越していってから始めたんだ。お母さんにも進められたってのもあるけど…」
って、言葉を濁して言う。
だけど、それって、僕の為におばさんが春菜に進めたってことだよね。
自惚れかもしれないけど、そういう事だよね。
「そうだったんだ」
おばさんは、春菜を僕にって思ってるってことで、いいんだよね。
僕が考えてるうちに春菜が歩き出したから、僕も慌てて後を追った。