呼び名
今頃の転校生って、そんなに珍しいものなのだろうか?
僕は、ふと思った。
何故かって?
だって、休み時間になる度に女の子達が、僕のところに群がってくるから(他のクラスの子も居るみたい)……。
でもね、一番傍に来て欲しい相手は来てくれなくて、ちょっと……ううん、かなり寂しい。
だけど、今目の前に居る子達に冷たく当たることもできなくて、つい愛想笑い(幼い頃に身に付けた)を張り付けて対応していた。
「ねぇ、吉井くん。ここに来る前は、どこに居たの?」
ごくごく当たり前の質問。
だけど、僕にとっては、難しい質問。
だって、ここと違う場所から来たから……。
だから、僕は。
「う~んとね。遠い南国だよ。幼い時は、こっちに居たけどね」
笑顔を張り付けて、あやふやに答える。
だって、言いようがないんだもん。
『実は、違う次元(猫耳族)の王子なんだ』何て、言って引かれていくの目に見えてるしね。
だから、国の事だけを言って、ごまかすしかないんだ。
「じゃあ。彼女とか居るの?」
これも、尤もな質問かな。
「今は居ないよ。でも、好きな子は居るんだ」
嘘はついてないよ。
だって、本当の事だから……。
いつか、春菜と両想いになれたら……ううん、春菜の隣に並べれたらって、思う。
それが、僕の目的だから……。
そう思いながら、春菜の方に目線を向けた。
そこには、呆れ顔をして僕を見る春菜と友達。
何で、そんな顔をしてるの?
僕、変なことしてる?
僕は、そっと聞き耳を立てた。
『吉井くんの頭に猫耳付いてるよね?』
と、春菜の声を拾った。
大変。
耳、消さないと……。
僕は、慌てて耳を消す。
『はぁ?何それ。そんなの付いてないよ。まァ、彼だったら似合いそうだけど…』
って、苦笑してる声が聞こえる。
って、事は……。
この耳は、春菜しか見えてないって事か……。
それなら、安心か……。
でも、何で春菜には見えてるんだろう?
疑問に思いながら、春菜の方へ向かった。
「…でも、現についてる」
って言う春菜の呟きが聞こえる。
そんな春菜の前に立って。
「何が付いてるって?」
僕は、そう声をかけてた。
「…えっ…あっ…吉井くん」
って、かなり焦って言う春菜。
「どうしたの春菜?」
僕、意地悪かな。
でも良いよね。
これぐらいしないと春菜、僕に近付いてくれないだろうし…。
「…なんでもない」
って、手と顔が左右に同時に振られる。
なんか、壊れた玩具みたいだ。
「ふーん。で、春菜。“吉井くん”って呼びかたヤだ。前みたいに“あっ君”って呼んでよ」
僕は、春菜に懇願する。
だって、その方が、特別って思えるから。
春菜だけの特別な言い方。
それに呼ばれなれてるし……。
僕は、期待を込めて春菜を見つめる。
「…えっと……」
春菜に早く呼んでもらいたくて、ウズウズしてる。
春菜の落ち着いた声音で言われると心が、ホンワカと温かくなるんだ。
「あっ君…」
あっ。
嬉しい!
昔に戻ったみたいだ。
「ねぇ、ねぇ。私達も“あっ君”って呼んでも良い?」
いつの間にか僕たちの周りにさっきの女の子達が集まっていた。
「うーん。ごめんね。この呼び方は、春菜だけしか許せないかな」
って、やんわりと断った。
本当は、即答で『駄目!』って言いたかったんだけど…。後で、春菜に何かあったら困ると思って考えるふりして、断った。
この呼び方は、春菜だけが特別なんだって、春菜自身に思って欲しかったからなんだけど
…。
当の本人は、気付いてないかな。
「うん、わかった。じゃあ、敦斗君ならいい?」
彼女達は、僕の答えに素直に頷いてくれて、そして妥協案を出してきた。
「それなら良いよ」
僕は、そう承諾していた。