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猫耳王子  作者: 麻沙綺
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ゴミの山



ドア越しに聞きえてくる小さな啜り声。

僕は、たまらずドアをノックして。

「春菜、大丈夫?」

と声をかけた。

その声に反応したのか、ゴソゴソと音が聞こえたかと思ったら。

「大丈夫だよ。直ぐに行くね。」

泣いていた事が明かに分かるくらいの鼻声で答えてくる。

心配になって。

「大丈夫じゃないよね?」

って僕は言葉を返す。

何で、僕を頼ってくれないのかな?

こんなに近くに居るのに。

「春菜。ドア、開けるよ。」

僕は断りを入れてから、ドアノブを回して開けようとしたが、内側に何かがつっかえて1ミリしか動かなかった。

「春菜。もしかして、ドアに凭れてる?」

僕が聞けば。

「うん……。」

と返ってきた。

やっぱり、さっきの伯父さんの言葉に何か引っ掛かったんだ。

「そっか……。春菜。僕は、僕の知らない所で春菜が泣いているのは嫌だからね。ちゃんと話して。」

僕の気持ちを伝えると。

「うん。ちゃんと話す。」

グズグズと鼻を鳴らしながら返ってくる言葉。

「約束だからね。」

「うん。約束。」

春菜の顔を見て約束を取り付けることが出来なかったのは残念だけど、約束はしたのだから、何かあったら話してくれるだろう。僕は、それを待つ事しか出来ないのがもどかしい。

「春菜。早く着替えてリビングに戻って来てね。片付けが間に合わないから、ね。」

僕は極力明るめのトーンで言葉を掛けた。

「わかった。直ぐに行く。」

さっきより明るい声の返事が返ってきた。

僕は、安堵の溜め息を漏らし、リビングに戻った。


分別しながら、ごみを集めていた。

だけど、そこに新たなごみが置かれて、まさに鼬ごっこ。

一体、どれだけ飲むつもりなんだろう?

父上達の飲みっぷりに呆れながら、途方に暮れそうになった時。

「あっ君……。」

名前を呼ばれて顔を上げれば、部屋着に着替え目を少し腫らした春菜が立っていた。

「春菜。良かった。もう、これどうしよう。」

僕がうんざりした声で言えば。

春菜も部屋の状態を見て、呆れ果てているようだった。

「とことん飲ませて、寝て貰った方がいいんじゃない?」

って、春菜が言い出すが。

「それ無理でしょ。この二人、ザルだったよね。」

昔、春のお花見の時もこんなことがあった。

あの時、桜の木が有る公園で昼間からのんで、一旦お開きにした後家に帰ってからもずっと飲んで居た事があった。その時は、母上が激怒して終わったと思う(あの時の母上、凄く恐くて、怒らせたらいけないと幼心に誓った)。

「あ~。確かに酔い潰れない二人だったね。」

春菜も思い出したのか、諦めモードに入った。

そして、部屋の窓を全開にしてからゴミを拾い出した。

けど、直ぐにその場所にゴミが溜まる。

「あ~、もう。父さんも伯父さんもいい加減にしてよ。幾ら何でも飲み過ぎだよ!」

僕は、二人を睨み付けながら言うも、効果無し。

仕舞いには。

「久し振りに会ったんだから、少しは多めに見てくれても良いだろうが。」

と言う始末。

僕には、手に終えなくなり、伝家の宝刀を口にすることにした。

「父さん。そんなこと言うなら、母さんに言うよ。それに、春菜だって困ってるだろ。」

僕の言葉に父上が。

「母さんには絶対に言うな。」

焦った顔をして言う。

「相変わらずなんだな。」

伯父さんが苦笑し出す。

僕は、疑問符を浮かべた。

まぁ、父上は母上には頭が上がらないもんなぁ。惚れた弱みだと前に話してたっけ……。

尻に敷かれてるって言われれば、そうかもしれない。

「そう言う、お前の所もだろ?」

父上が切り返すように伯父さんに聞く。

漸く、本題に入るのか?

僕は、片付けながらも伯父さんの言葉を待っていた。

春菜も気になるみたいで、手を止めて伯父さんの方を見ていた。

「うちのは、五年前に出て行った。」

とポツリ呟くように言った。

「えっ……。」

一様、驚いた顔をして言葉を発する父上だが、僕が前もって話していたのを今しがた知ったように振る舞う。

「出て行ったというか、忽然と居なくなったって言った方がいいのか……。」

伯父さんが、言葉を濁しながら無表情で淡々と口にする。

春菜が昨日言っていた事だ。

「きちんと説明してくれ。あんなに仲が良かったのに……。」

父上は、以前の二人を思い出したのか、口許を歪めて聞く。

「あぁ、お前になら話せる。敦斗君にも聞いて貰いたいから、そこに座って。春菜、敦斗君に何か飲み物を……。」

伯父さんの言葉に春菜は頷き、キッチンに行く。

僕は、伯父さんに言われた通りに座った。

暫くして、春菜がお盆にマグカップを載せて戻ってきた。

一つを僕の前に置いて、春菜は僕の横に座りもう一つのカップを手にして中身を啜る。

湯気が立つコップに平気で口を付ける事が出来ない僕は、フーフーと息を吹き掛けてから啜ろうとしたが、熱すぎて飲めなかった。

「お前、相変わらず熱いもの苦手だなぁ。」

父上がニタニタと笑みを浮かべながら揶揄って来た。

「煩いよ。」

僕は、父上を睨み付けて言う。

春菜に知られたくなかったのに……。

春菜の方を見れば、驚いた顔をして僕を見ているし……。

僕は、恥ずかしくて顔を俯かせる。

伯父さんが、僕たち親子を見てクスクス笑っている。

そして、真顔になり。

「五年前の事を話すよ。」

と切り出した。







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