道の真ん中で
春菜の手を握ったまま校門を潜る。
その間、ずっと注目されていたけど何かを言って来る人は居なかった。
春菜は、ずっと俯いたままで僕の事を見ようとはしてない。寂しいって思った。
どうしたら僕の事を見てくれるんだろうと、必死に考える。だって、僕は春菜の事が気になるんだ。
ずっと笑ってて欲しいのに、笑顔がぎこちなくて心配になる。
十年と言う短いような長い時間で、会わない内に心境がどう変わったのかわからないが、僕にとっては昔も今も換わらず可愛いって思うのだから……。他の男に捕られないか心配だよ。
春菜が、一向に顔を挙げないから僕は。
「春菜……どうしたの?」
心配になって声をかけた。
「大丈夫……。気にしないで……」
弱々しい声で、返事が返ってくる。
「気になるよ。僕の好きな娘の事だから……僕には言えないことなの?」
声色に気を付けながら、春菜に告げる。
ここで、変にとらわれでもしたら取り返しがつかなくなるもんね。
僕の言葉に春菜が顔を上げて、驚いた顔をして歩みを止めた。
「……どうして…」
小さくて、聞き取りにくかったがそんな言葉が僕の耳に入ってきた。
「どうして?だって、僕はこの十年間一度も春菜の事を忘れたこと無いよ。むしろ、春菜に早く会いたくて色々頑張れたんだよ」
王国での暮らしは、全然楽しくなかった。
政務・公務・鍛練・社交…、全てにおいて僕にとっては、過酷なものだった。ただ、それを修練し終えた後には、春菜に会いに行けると思えば辛くなかった。
春菜が居たから、頑張れたんだし……。
「う…そ……」
春菜は僕の言葉を信じてくれそうにない。
どう言えば、信じてくれるのだろう。
「嘘じゃないよ。春菜とあの時約束したよね。春菜にもう一度会う為に一杯努力して、認めてもらったの。……十年か掛かっちゃったけど……」
十年って、長いよね。
「僕はね、春菜だけしか好きじゃない。春菜の為なら、どんな努力も惜しまないよ」
真顔で言ってみた。
まぁ、道のど真ん中で告白する羽目になるとは思わなかったが、これも仕方ないかな。春菜に信じて貰いたいし、他の男に見せつけるためでもあるのだから……。
「春菜は、僕の事嫌い?それなら、僕は諦めて国に戻るよ。悲しいけどね」
春菜に嫌われているのなら、ここに居る意味ないもんね。その時は、スパッと諦めて国でお嫁さんを見つけないとね。
一応、僕が後継者となるからね、跡継ぎの事とか考えると結婚しないわけにはいかないしね。憂鬱だけど……。
「ちが…う。ごめんあっ君。私、あっ君の事…す…好きです。ただ、あっ君があまりにも格好よすぎて…、本当に、あっ君が私の事が…す、好きなのか不安で……」
春菜の顔を見れば真っ赤で、動揺を隠しきれないまま告白の返事をくれた。
僕が、格好いい?
春菜は、そう思ってくれてるの?
どうしよう、僕滅茶苦茶嬉しいんだけど……。
頬が緩んじゃう。
慌てて、口許を押さえて視線は春菜に向けたまま横を向く。
春菜が、不安気に僕の事を見つめてくるし、目には涙の膜が張ってきてる。
あぁ、もう。泣かすつもりじゃなかったのに……。
「春菜…。可愛すぎ……。僕の恋人になってくれませんか?」
改めて、春菜の方に向き直りそう言葉を紡げば。
「こちらこそ…、宜しくお願いします」
と嬉しい返事が返ってきた。
僕は、笑みを浮かべて嬉しさのあまり、春菜に抱きついた。
人の目があるなかで……。