思い
先生が来てくれて助かった。
あのままだったら、真理に嫌な思いばかりさせるばかりか、自分まで要らないことを言ってしまいそうだった。
それに、あっ君に対しても、何か言っちゃいそうで、怖かったんだ。
女の子に囲まれて、ヘラヘラしているあっ君に対して、余計な事を言っちゃいそうだった。これって、嫉妬……そんな訳ないよね。でも、私の中に生まれたモヤモヤは消えないんだよね。
何で、こん何なってるんだろう?
自分でも訳のわからないままだった。
「春菜。気分悪いの?」
突然声をかけられて、顔を上げれば、心配そうな顔をしてこちらを伺ってるあっ君がいた。
周りは、みな帰り支度を始めていた。
あれ、もしかして私授業全然聞いてなかったみたいだ。
どうしよう……。
オロオロし出す私に。
「大丈夫、春菜?」
猫耳を垂れて私を見ているあっ君。
「う、うん。大丈夫だよ」
そう答え笑顔を向ける私。
だけど。
「嘘、だよね。春菜、無理してるでしょ?少しでも、僕に委ねてよ。僕は、春菜の泣き顔なんて、見たくないよ」
あっ君には見透かされてるようで、怖くなった。
でもね、あっ君の手が優しく私の頬を撫でて、目尻の雫をそっと払ってくれる。そんな彼に"ドキドキ"させられてる。
「あっ君。私……」
自分から、声をかけようとしたとき。
「敦斗君。一緒に帰ろ」
って声が聞こえてきた。
あっ……。
私は、とっさに下を向いた。
見られたくなかったから、あっ君以外の人に弱味を見せたくなかった。
変なプライドだと思うけど、それが私だから。
「ごめん、先約があるから次回にでも誘って」
あっ君が、誘いを断ってる。
次回って、その時は行くのかな?
何て思いながら、やり取りをぼんやりと聞いていた。
「ほら、春菜。帰るよ」
あっ君が、私の鞄と自分の鞄を肩にかけて、私の手を取って歩きだした。
校内を手を繋いで歩くなんて、恥ずかしく顔をあげれない。
しかも、噂されてる転校生と誰からも疎まれてる私じゃあね。
だって、廊下に居る殆どの生徒が、私たちを振り返ってるんだもの。
私は、あっ君がどんな顔をしてるのか気になりチラッと見ると、真顔で視線だけで威嚇していた。
まるで、猫にように……。
普段、茶目っ気のあるあっ君とのギャップがありすぎて、また、ドキドキと心拍が上がる。
何で、こんなに苦しいんだろう?
あっ君と居るだけなのに、嬉しいって思いながら、不安だったり感情が溢れてくる。
あんなに閉ざしていたものが、一気に押し寄せてくるんだ。
なんだろう、この感情の渦。
私には、まだわからない。
これが、なんなのか。
「なぁ、春菜。もしかして、僕が君の友達に要らないことを言ったから、怒ってるの?」
不意にそう言葉が聞こえた。
怒ってる?
私が?
あっ君には、そう見えるの?
「怒って、無いよ。ただ、誰にも頼れなくて……言えなくて、あっ君が戻ってきてくれたことに安心しちゃった」
私は、素直に言葉を告げた。
怒っては、いないの。
ただ、友達とどう接すればいいのか、わからなくなってたから……。
「それならいいけどさ。僕は、春菜の本当の笑顔を見せてくれるまで、傍に居るから、ね。あっ……えっと、春菜がよければ、ずっと一緒に……」
最後の方は、しどろもどろになってて、あっ君の顔を見れば、真っ赤な顔をしてた。
私の視線に気付いたのか。
「あまり、見ないでよ」
そう言って、繋いでない方の手で口許を隠して、そっぽ向いてしまう。
よく見れば、耳まで赤くなってて、そんなあっ君が、可愛いって思えた。
「クスクス……」
忍び笑いをしてたんだけど。
「な、笑わないでよ。僕は、本当に春菜の事が心配なんだからね」
あっ君が、慌ててそう言う。
「あっ君。ありがとう、ね」
自然と溢れた言葉。
その言葉にあっ君が驚いた顔をする。
その顔も好きだな。
何て思いながら、密かに胸に仕舞い込んだ。