揺らぐ思い
何時もよりも清々しい目覚め。
なのに瞼が重い。
掛け布団を退かし、自分の格好を見れば、制服のままだ。
でも、自分でベッドに入った覚えはない。
スカートには皺が寄っていた。
うわ~これ早く直さなきゃ。
私はスカートを脱ぎ短パンに履き替え、スカートにアイロンをかけ始めた。
昨日は、お風呂も入ってない。
時計を見れば、まだ時間がある。
私は、急いでアイロンをかけ終えるとシャワーを浴びるために着替えをもって脱衣所に向かった。
うわ~。
目許が赤く腫れている。
って、そんな事してる場合じゃない。
早く浴びないと…。
私は、シャワーを浴び、髪と身体を洗い上がる。
制服を身に付けて、髪をドライヤーで乾かして、脱衣所を出た。
リビングに移動すると、お父さんが新聞を読んでいた。
「春菜、おはよう。昨日、敦斗君にあったよ。カッコ良くなってたな」
って、新聞を畳んでテーブルの隅にやるとそう言ってきた。
えっ、あっ君に会ったの。
「おはよう、お父さん。…で、あっ君は?」
「ん?あぁ。挨拶した後、帰っていったよ」
お父さんが、淡々と答える。
へっ、あっ…。
「まさか、居ると思ってがっかりしたか?敦斗君、礼儀正しく挨拶して、春菜の状況も説明してから、帰っていったよ」
お父さんが苦笑する。
「えっ…、あ…」
言葉が続かない私。
「敦斗君に取られるのも時間の問題かな」
って、小声で言うお父さん。
その言葉に機敏に反応してしまう私。
「朝御飯作るね」
私は、慌ててキッチンに向かい準備をした。
その後ろで、お父さんがクスクス笑ってた。
朝食を食べ終えると流しに食器を片付け、自分の部屋に鞄を取りに行く。
「お父さん、行ってきます」
お父さんに声をかけてそう言うと。
「行ってらしゃい。気を付けていけよ」
お父さんの言葉に。
「はーい」
と返事を返して家を出た。
教室に入れば、あっ君の回りに女の子が集まってる。
あっ君は、そんな女の子達にも笑顔で対応してる。
何か、モヤモヤする。
これなんだろう?
胸の奥が痛い。
私以外の女の子に優しくしないでって、思ってしまうのって、心が狭いからなのかなぁ。
そう思いながら、自分の席に着く。
ハァー。
「春菜、おはよう。朝から、何溜め息ついてるの?」
そう声を掛けてきたのは、真理だ。
「あ、おはよう。真理。ん、何にもないよ」
そう言いながら、知らず知らずにあっ君の方に目が行く。
「さっきから、転校生ばかり見てるけど、何かあった?」
真理に目を向ければ、笑みを浮かべてる。
何、その笑みは?
「春菜が今まで男の子に興味がなかったのは、彼が居たからなのかなぁって思ってさ」
えっ、ちょっと待って…、それはどういう意味で言ってるの?
「春菜ってさぁ、男の子にモテモテなの気付いてた?」
それは、初耳ですよ真理さん。
「"凛とした姿の中に憂いがあって、守ってやりたいと思わせる"って男の子達が言ってるの知らないの?」
ニマニマと気持ちの悪い笑みを浮かべていた。
「今だって、何時もと雰囲気が違うから、何かあったんじゃないかって、言ってるんだけど?」
へっ?
私は、慌てて周りを見れば、チラチラとこちらを窺うような視線がある。
う…、なんか緊張するよ。
そんな中。
「春菜、おはよう。目、大丈夫?」
あっ君が、女の子達から逃れるように来て声をかけてきた。
その手は、私の目許に延びてきた。
「あっ君、おはよう。大丈夫だよ。昨日、お父さんに会ったんだって?」
私は、あっ君の手を掴んだ。
あっ君が驚いた顔をするが、素知らぬ顔で手を下ろす。
「うん。春菜昨日疲れて寝ちゃったでしょ。一人にしておけなかったから、おじさんが返って来るまで待ってたんだ。…で、挨拶だけして帰ったんだよ。おじさん、昔っから変わらないね」
あっ君が答えてくれた。
それを聞いてた真理が。
「えっ、何で吉井くんが…」
そう言いながら、私とあっ君を交互に見だす真理。
真理が不思議がるのは仕方がない。親友の真理でさえ、家に上げた事がないのだ。
逆に真理の言葉にあっ君もキョトンとしてる。
「ん?何か、問題があった?」
あっ君の猫耳が垂れてる。
大きな目が私に何か不味かったかと説いている。
「あ…、うん。ちょっと…」
私が言葉を濁すと真理が。
「ねぇ、吉井くん。昨日、春菜の家に行ったの?」
あっ君に訪ねる。
「うん、行ったよ。こっちに戻ってきたし、おじさんに会いにね」
あっ君の言葉に真理の目が大きく見開かれた。
「ねぇ、春菜。今日も春菜の家に行ってもいい?」
あっ君の無邪気な笑顔に。
「えっ、なんで」
疑問しか浮かばない。
昨日の今日だよ。二日続けてくるとは思わないよね。
しかも真理が見てる前で…。
「ん。だって、今日、僕の父さんが春菜の家に行ってるから?だから、迎えに行くの。ほら、父さん酒癖悪いじゃん。おじさんと会うの楽しみにしてたからさぁ。僕達が学校終わった頃には、春菜の家の中大変な事になってると思うんだ」
悪戯っ子な顔をするあっ君。
あー、そうだった。
あっ君のお父さん、呑み出すと大変なんだよな。
「うん、わかった」
私がそう言えば。
「ちょっ、春菜。本当に大丈夫なの?」
真理が心配そうに聞いてきた。
「うん。あっ君の家族とは仲良くしてたからね。お父さんも、あっ君だと安心してるしね」
今朝の事を思い出してそういう。
「そ…そうなんだ」
戸惑いながら、真理が言う。
「ほら、お前ら席に着けよ」
担任の言葉に。
「じゃあ」
あっ君が、そう言って自分の席に戻っていった。
あっ君、昨日の事何も触れなかった(お父さんの事以外に)。
まぁ、ここで話す事じゃないとわかってるから、当たり障りの無い話にしたのだろうけど、かえって不振がられてる気がする(特に真理に)。
だけど、真理には言えない事でもあっ君には言えるんだ。
そのせいで昨日気持ちが爆発しちゃったんだよね。
その時、心配そうな顔で私を見てる真理が居るなんて、私は気付かなかった。