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猫耳王子  作者: 麻沙綺
12/22

驚き

春菜の様子がおかしい。

急に黙り込んで、しかも肩が微かに震えてる。

僕は、春菜の顔を覗き込めば、今にも泣き出しそうな顔をしてる。

「春菜。どうしたの?」

そう声をかけたら。

「ううん。何でもない」

弱々しい答えが返ってくる。

普段と異なる声に僕は心配になり。

「何でもないって事はないよね。何かあった?」

優しく声をかければ、我慢していたのかポロポロと大きな瞳から、綺麗な涙が溢れ落ちた。

「えっ…。は、春菜。ちょ…何泣いてるの…。何か辛いことでもあった?」

僕は、オロオロしながら、どうしたら泣き止んでくれるかわからず、春菜の前に立ち、優しく壊れ物を扱う様に抱き締めて。

「春菜。泣き止むまでこうしてるから…」

頭を撫でた。

昔からこうすると安心するのか、春菜が泣き止むのを知ってたから…。

春菜は、僕にすがるように声を殺して泣いた。


「急にごめんね」

春菜がそう言って、僕から離れた。

顔を覗き込めば、目許は赤く頬には涙の筋が出来ていた。

「ん。何謝ってるの、春菜?謝ることなんて何もないよ。何かあるなら言って。僕、春菜の力になりたいよ」

僕は、春菜に安心して欲しくて、ニッコリと微笑んだ。

「あっ君。取り敢えず、私の家に来てくれる?」

春菜が、小さな声で言う。

「うん、良いよ。春菜のご両親にも挨拶したいしね」

明るめの声でそう答えたのだけど、春菜の顔色は冴えなかった。



あの頃と同じ、変わらない風景。

春菜が玄関の鍵を開けた。

あれ?おばさん居ないの?

こんな時間に何処に言ってるんだろう?

写真のお礼を言いたかったんだけど…。

春菜が玄関の戸を開けて、室内の電気を点ける。

「どうぞ」

僕は、春菜に促され中に入る。

「お邪魔します」

春菜が出してくれたスリッパに履き替えて、奥に進む。

「その辺に座って、待ってて」

そう言って春菜は、自分の部屋に行く。

僕は、言われた通りに鞄を床に置き、ソファーに座った。

昔のまま、変わってない。

僕は、室内をキョロキョロ見渡していた。

何でおばさんが居ないのだろう?

もしかして、学校が終わってから、春菜はこの家に一人で過ごしていたのだろうか?

「あっ君。これに着替えて。そのシャツ、洗うから…」

春菜が、Tシャツを手に戻ってきた。

おじさんのシャツだよね。

「ん、大丈夫だよ。これぐらい…」

春菜の涙が染み込んだシャツぐらい、幾らでも我慢できるよ。

「私が気になるから、着替えて欲しい」

そう言われたら、着替えるしかないか…。

「…ん、わかった」

僕は、それを受け取り着ている制服のシャツのボタンに手をかけたら。

「あ、えっ…」

春菜が慌ててキッチンに逃げていった。

年頃の女の子なんだな。

でも、慌てて逃げていかなくても、僕傷つくよ。

僕は、見られても何ともないのに…。男だからね。


僕は、さっさと着替えて制服のシャツを鞄に仕舞い込んだ。

その間に春菜がキッチンで、カチャカチャと音を立てて何かしてるようだった。

「紅茶でよかった」

春菜は、両手でお盆を持ちその上にカップが載っていた。

「う…うん」

突然の事に驚きながら、僕のために春菜が淹れてくれたんだと嬉しくて、不自然な返事になってしまった。

それに対して、クスリと笑った春菜。

やっと、やっと笑ってくれた。

僕は、そっちの方が嬉しかった。

春菜には、笑ってて欲しいから。

春菜が僕の前にカップを置き、もう一つもテーブルに置くと。

「シャツ、貸して。洗濯してくるから…」

って僕の前に手を出してきた。

「そんなの良いよ。それより、おじさん達は?」

僕は、気になってた事を口に出した。

春菜は、困った顔をしながら僕の前に座り。

「う…うん。お父さんは、遅くまで仕事してて、何時帰ってくるかわからないんだ…」

って、空元気なのが丸わかりな声で言う。

「まぁ、そうだろうね。おばさんは?」

僕の言葉に春菜が固まった。

「春菜?」

僕が呼び掛けると。

「…お母さん、五年前に突然居なくなっちゃったんだ」

力なく答える春菜。

僕はその言葉に衝撃を受けた。

そんなの嘘だよね?

つい最近の春菜の写真もおばさんから母上に送られてきたんだぞ。

それなのに五年も前から行方知れずって、あり得ない。いや、あってはならない。

これは、母上に報告せねばいけないのでは。それと、捜索隊も出さなくては…。

僕が頭の中で考えていたら。

「私が、学校から帰ってきたらお母さんが居なくて、夜になっても帰ってこなくて、何か、書き置きがあるんじゃないかって、家中を探し回ったけど、何処にもなくて…。今もお父さん、仕事の合間を見てお母さんを探してるの」

春菜がゆっくりと言葉を紡いでいく。

あぁ、春菜は僕が居ない間に辛い思いをしてたんだね。

今、僕は君を甘やかしたいよ。

「…春菜。顔をあげて…」

僕の声で、肩を少し震わせながら、ゆっくりと顔をあげる春菜。

今にも泣き出しそうだ。

学校に居る間も張り詰めて、気を休めることができないんだろうなと容易に想像できる。

「やっぱり、泣いてる。おいで…」

僕は両腕を広げて、春菜が来るのを待った。

春菜は、戸惑うことなく僕の腕の中に飛び込んできた。

そんな春菜を優しく包み込むように抱き締めた。

「春菜。辛い思いしてたんだね。これからは、僕が傍に居るから、頼って。おばさんは、必ず僕が見つけるから、だから、泣かないで」

僕は、春菜が安心できるように言葉をかける。

春菜が何度も僕の腕の中で首を縦に振る。

そして、泣き疲れたのか、春菜は僕の腕の中でスースーと寝息を発てていた。

顔を覗き込めば、幾筋の涙の後。

僕は、まだ睫毛に残っている涙を指で拭った。


あぁ、本当に可愛い。

これからは、僕が春菜を護るからね。

安心してね。


それにしても、母上はこの事を知ってたのだろうか?

知ってたのなら、もっと早く僕に言ってたと思う。

僕が修行中だったから、言えなかったってこともある。

どちらにしろ、報告と捜索は早急にしなくては…。

僕のためにも…。




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