温度差
春菜の後について、着いた場所は体育館横にある道場。
春菜が、道場の入り口を開ける。
すると中から、熱気が溢れてきた。
僕は、春菜を見た。
凛とした佇まいに圧倒させられた。
普段とは違う顔。
春菜は、一礼をして中に入って行く。
僕も、春菜にならって一礼をし、中に入った。
僕からしたら、見えない境界線がそこに在るような気さえした。
ただならぬ緊張感を抱えつつ。
「春菜。僕、どこに居れば良いの?」
春菜の背に問いかけた。
春菜は、僕の方に振り返り緊張を解いた顔で。
「ん?あぁ。壁際なら、何処でも良いよ。あっ君が良いと思ったところで、見学してて」
春菜の真剣な眼差しが、僕を捕らえるとそう告げた。
なるべく、春菜の勇姿を近くで見たかったから、春菜が練習してる傍らで、壁に背を預けて見ていた。春菜に近付く男が気になったが…。
「おーい。そこの君。一緒にやらないか?」
突然声をかけられた。
その方を見れば、さっき春菜に声をかけていた男だった。
僕は、自分を指差すと、その男は頷いた。
「いいんですか?」
僕は、戸惑いながらそう口にした。
剣の扱いは、国で練習を沢山してきた。
剣が、竹刀に変わったところで、何ら変わりはないだろうと思いながら、やってみたいとも思ってたんだ。
春菜が、熱心に続けてきたことに携わりたいと…。
「あぁ。竹刀を持ったことは?」
質問されて。
「竹刀はないけど、他の物ならあります」
そう答えた。
こちらでは、そんなに扱われていない真剣。向こうでは、当たり前なんだ。
物は違うけど、扱えると思う。
「そっか…。取り敢えず、これな」
って、渡された竹刀。
僕は、重さを確認して、さっき春菜がしてたように振ってみる。
軽いから、少し手の力を強めれば、折れてしまうかも…。
「凄い、様になってるな。おい、余ってる防具持ってこい」
その人の一言で、僕の目の前に防具が揃う。
「取り敢えず、防具を着けるから、動くなよ」
制服の上から、防具をつけられる。
何か、凄い違和感が……。
騎士の鎧よりは、軽いけど…。
「準備オッケー。俺と打ち合おうか」
その人が、中央に向かい歩き出す。
僕は、その後に続いた。
「何処からでも打ってきて良いそ」
声がかけられた。
「本当に良いんですね」
確認のために聞き返した。
「ああ」
了承を得たので、僕は自国の練習を思い出しながら、竹刀を振った。
気が付けば、互角の打ち合いで、体格的に僕の方が、不利だった。
「メーン!」
相手の竹刀が僕の頭上に入ってた。
よかった。これ、真剣だったら、僕確実に死んでたよね。
ホッとしながら、春菜を探す。
道場の隅で、何やら話し込んでいる春菜を見つけた。
「春菜。見ててくれた」
気付けば、そう声をかけてた。
僕が近づけば、顔を歪める春菜。何かあった?
「春菜!僕、剣道部に入る。そしたら、一緒に居られるよね」
それに剣の腕も磨けるし、一石二鳥?
「そう、頑張れ」
複雑な顔で春菜が言った。
本当にどうしたんだろう?
そんな春菜を気に止めながら、残りの時間を見学してた。
帰り道。
春菜と並んで歩く。
なんか良いな、こういうの。
春菜の隣って、僕落ち着くんだよなぁ。
「そう言えば、春菜の家って、まだ変わってないよね」
僕は、春菜に顔を向ける。
「うん。引っ越してないよ。あのままの場所だよ」
春菜の視線が、下を向く。
さっきから、何か隠しているよね?
「春菜。もしかして、僕の事嫌い?」
質問しておいて何だけど、嫌いって言われたらどうしよう。立ち直れないかも……。
「嫌いも何も、私たち今日再会したばかりだよ。突然聞かれても困る」
戸惑い気味に答える春菜。
春菜にとっては、僕は迷惑な存在なの?
僕は、君に会えた事凄く嬉しいのに……。