四つ葉のクローバー
女性が晴れた日に池の周りを散歩していると、そこで園児が四つ葉のクローバーを探している。女性はそれを見つけるが、その場所を言わずにおく。という、コンセプトの水間稔さんの『一物語』。同じコンセプトでボクも書いてみました。
久しぶりに近所の公園に来てみた。春の日差しが心地いい休日の午後。爽やかな風がスカートの裾を揺らす。主人は休日出勤で出かけて行った。
「昼過ぎには帰れると思うけど」
そう言って家を出た。一通り家事を終えて軽いランチを取った後、散歩がてらこの公園に足を向けてみたのだ。
池のほとりのベンチで読みかけの小説を読もうと思っていた。ベンチに腰かけて本を開いたところで小さな女の子の声が聞こえてきた。
「ぜんぜん見つからなーい」
ベンチの後ろに広がる原っぱで何かを探しているようだ。
「みんな三つ葉ばっかり」
そうか!四つ葉のクローバーを探しているのね。私も子供頃よく探したわ。そう、四つ葉のクローバーには不思議な力があるのだものね。子供の頃の懐かしい記憶がよみがえる。ふと足元に目をやると、そこに四つ葉のクローバーが。
「まあ、こんなところに」
私はあの子に教えてあげようと思ったけれど、少し考えてやめることにした。自分の幸せは自分の力で見つけないとね…。
小学生の頃だったかしら。大好きだった和也君を私の誕生日、家に招待したの。玄関のドアに四つ葉のクローバーを飾って和也君が来るのを待ったわ。
四つ葉のクローバーには強い力があって、家のドアにそれを飾っておくとその日にやって来た男性が恋人になるのだと、おませな従妹のお姉さんが教えてくれたから。
チャイムが鳴ると私は勇んで玄関へ向かったわ。和也君が来たのだと思ったから。けれど、そこに居たのは幼馴染の守君だった。
「へへへ、和也のヤツ、急に家族で食事に行くことになったんだって」
「だから何?どうしてあんたが居るわけ?」
「しょうがないだろう。和也に頼まれたんだから」
私は慌ててドアに飾った四つ葉のクローバーを外そうとした。けれど、守はそれより早く家に入ってきてしまった。
私は開いた本から栞を抜き取った。その時、遠くから私を呼ぶ声が聞こえた。
「茜ーっ」
主人が手を振っている。
「あら、早かったじゃない」
「ああ、上手く片付いたからな…。あれっ?その栞…」
「そうよ。あの時の四つ葉のクローバー。おかげで私はあなたと結婚できたのよ」
「そうか!和也に感謝しなくちゃな」
四つ葉のクローバーには本当に不思議な力がある…。