M2 成せば成る
アパートに戻ったサンドラは冷蔵庫からジュースを取り出した。
「ここへ来てまだ12時間ね。」
サンドラはソファーに座り時計に目を向けた。外は昼を過ぎており、賑やかさは衰える事は無かった。
ピーピーピー
サンドラは突然鳴った携帯電話を取り出した。
「メール?」
メールを見てみると差出人はエレノワであった。
「何かしら……」
『来て!!』
「一言だけって。」
サンドラは携帯電話をポケットにしまうと部屋を出た。
「……?」
エレノワの会社に着いたサンドラは物凄い勢いで立ち去る車を目撃した。その車を気にしつつサンドラは中へと入って行った。
「エレノワ!!」
サンドラが会社に入ると散らかり放題であった。エレノワの姿が見えなかったのでサンドラは叫んだ。
「エレノワ!!何処に居るの!!」
「……ここよ。」
「何処に!!」
「ここよ。」
その声の後にエレノワは机の下から出て来た。
「どうしたの?」
「借金取りが押し掛けて来て……」
「借金取り……」
「変な事考えないでよ!!私は大丈夫だったんだから!!」
「そのヤミ金は何処に居るの?」
「サンドラ!!」
「エレノワ、何処に居るの?私は姉さんを助けたいの、分かってくれる?」
「……」
「さあ、言って。」
「ヤミ金はここら一帯を取り仕切る中華人で、チャイニーズマフィアの杉原貴恵よ。案内するわ。」
「分かったわ。」
サンドラとエレノワはそう言うと会社を出た。
「アパートに向かって。」「アパート?」
エレノワの言葉にサンドラは聞き返した。
「アパートの前の中華料理店に杉原貴恵は大概いるわ。」
「成る程。」
サンドラはそう言うとトラックを走らせた。
「まさか家の目の前に敵が居たなんてね。」
「そうなの。」
サンドラの言葉にエレノワは答えた。
「それじゃ入りましょ。」「分かったわ。」
2人は中華料理店へと入った。
「何か用事でも?」
中に入った途端に、護衛が2人に話し掛けてきた。全身黒のスーツに身を包み、2人を威圧的に見ていた。
「ちょっと親分に話があって来たの。」
「予約は?」
「してないわ。」
「フッ」
サンドラの言葉に護衛は笑みを零した。
「これだから田舎者は。会いにくるならまず連絡をして……」
「ごちゃごちゃ煩い!!」
ドコッ!!
サンドラのパンチが護衛の顔面にブチ込まれ、一撃で護衛は倒れた。
「ちょっとサンドラ。」
護衛に手を出した事でエレノワが心配そうに言った。
「なに、大丈夫よ。」
サンドラはそう言うと怯えている店員に近付いた。
「杉原貴恵は何処に居るかしら?」
「一番奥の特別室です。」「ありがとう。」
サンドラはお礼を言うと、護衛を踏みつけて奥へと向かった。エレノワは慌ててサンドラを追い掛けた。
バンッ
扉を勢い良く蹴り開け、サンドラとエレノワは特別室へ入った。
「何かしら。」
「あんたが杉原貴恵?」
「自分から自己紹介するのが礼儀なんじゃない?」
「そうね、失礼。私はサンドラミディアム。あんたから借金しているエレノワの妹よ。」
「杉原貴恵よ。さてサンドラさん。何故この様な所に?」
杉原貴恵はそう言いつつ部下に目で指示を出し、サンドラとエレノワを取り囲んだ。
サンドラはその状況を意に介さず、椅子に腰掛けた。それに対してエレノワは恐怖の余り、腰を抜かしていた。
「姉の会社を荒らしたでしょ?」
「ちょっと若いのが挨拶に行ったみたいね。」
「挨拶?挨拶で電算機を壊す?」
「そういう事も有るでしょう。」
「私の姉に手を出したらどうなるか分かってるの?」「もちろんよ。」
サンドラと杉原貴恵はお互いに睨み合った。
エレノワはその光景に遂に泡を吹いて気絶してしまった。
「……」
「……」
「……」
「……なかなか面白いわね。」
杉原貴恵はそう言いながら笑うと拍手をした。
サンドラはそれでも杉原貴恵を睨み付けていた。
「貴女面白いわ。」
「ありがとう。」
「今は仕事は何をしているのかしら?」
「今は無職よ。まだこの国へ来て13時間しか経ってないから。」
サンドラはそう言うと漸く、杉原貴恵へ睨むのを止めた。
「良いわね。それじゃあ、私の下で働きなさい。」
「私があんたの下で!?」
サンドラは驚いた。それは周りの杉原貴恵の部下も同じであった。
「姐さん、それは……」
「黙りなさい!!」
部下の言葉に杉原貴恵は一喝した。
「私はサンドラさん、貴女を使う。そして貴女はお姉さんの借金を無しにしてもらう代わりに、私に扱き使わされる。お分かり?」
「えぇ、分かったわ。」
借金が無くなると分かり、サンドラは笑みを浮かべた。
「それで働くって?」
「まずは取り立てに行ってもらうわ。」
「取り立て?」
「上納金を払わない雑貨屋がいるの。そこから取り立てて来なさい。」
「分かったわ。」
サンドラはそう答えると席を立った。
「待ちなさい。」
「なに?」
杉原貴恵に呼び止められ、サンドラは首を傾げた。
「これを持っていきなさい。」
そう言うと杉原貴恵はコルトガバメントM1911を机に置いた。
「コルトガバメント?くれるの?」
「えぇ、貴女が私の下で働く記念よ。」
「それじゃ遠慮無く。」
サンドラはそう答えるとコルトガバメントをポケットに入れた。
「それじゃ。」
サンドラは次こそ取り立てに向かった。
「ここね。」
サンドラは教えられた雑貨屋に着いた。
「上納金の取り立てぐらい、簡単でしょ。」
そう呟くとサンドラは雑貨屋に入った。
「こんちは。」
「いらっしゃいませ。」
サンドラに気付いた店員が挨拶をした。
「店長居るかしら?」
「少々お待ちください。」
店員はそう言うと奥へと消えた。
暫くして店長が出てきた。
「ようこそ、いらっしゃいませ。」
「貴女が店長?」
「はい、そうです。」
「なら言う事は1つ、金を出しなさい。」
「はい?」
サンドラの突然の言葉に店長は聞き返した。
「聞こえなかったの?」
「金を出しなさい、と聞こえましたが。」
「あら、分かってるじゃない。」
「本気ですか?」
「杉原貴恵から頼まれて来たわ。」
「!?」
杉原貴恵と言う言葉に、店長は驚いた。
「上納金なら来月払うつもりで……」
「問答無用。」
サンドラはそう言うと、コルトガバメントを構え店長を狙った。
「分かりました!!分かりましたから!!」
店長はそう言うと奥へと走っていき、封筒を持って来た。
「それが上納金です!!それでどうかお帰り下さい。」「そう、それじゃ。」
サンドラは封筒を受け取ると、雑貨屋を出ていった。
「取り立てて来たわ。」
中華料理店に戻ると、サンドラは杉原貴恵に封筒を手渡した。
エレノワも落ち着いたらしく、椅子に座りお茶を飲んでいた。
「お帰り、サンドラ。早かったわね。」
「全く、姉さんは。」
サンドラはエレノワの能天気さに呆れながら答えた。
封筒の中から金を取り出し、数えていた杉原貴恵は紙幣を5枚抜き取った。
「今回の駄賃よ。」
そう言うと杉原貴恵はサンドラに紙幣を差し出した。差し出されたサンドラはそれを受け取り、見てみると500ドルあった。
「気前が良いわね。」
「役に立つ部下は可愛がっていないとね。」
「なるほど。」
そう答えるとサンドラは紙幣をポケットに入れた。
「さて、それじゃ今日はこの辺で。」
「そう、また暇があれば来なさい。仕事なら幾らでもあるから。」
「分かったわ。エレノワ、帰ろ。」
「了解。」
サンドラとエレノワは中華料理店を後にした。
それを見ていた杉原貴恵は一言呟いた。
「役に立つわね。」
アパートに戻ったサンドラとエレノワは取り敢えず、ビールを飲む事にした。
「何とかなったじゃない。」
サンドラの言葉にエレノワは嬉しそうに頷きながら答えた。
「確かにうまくいったわね。借金が無くなるだけじゃ無くて、貴女が杉原貴恵の下で働く事になるなんてね。」
「まあ良いじゃない。姉さんの仕事も手伝うわよ。」「ありがとう。取り敢えず今は飲みましょ。」
「そうね。」
2人の祝杯は始まったばかりであった。