第三章 性悪 vs 性悪④
弾丸のようにハジケ飛んだミラの眼前に広がるは屈強そうな男達の群れ。
萱島組の組員は皆ドスや木刀で武装し、こちら側に猛スピードで突っ込んでくる小さな体を迎え撃とうとしている。恐らくミラの異常さはインドアヤクザにより組全体に伝わっているのだろう。
構図だけ見ればあまりにも多勢に無勢。
その様子を家門付近から見守る亮治は、ミラに頼ることしか出来ない状況に思わず顔をしかめ歯噛みをしてしまう。
が、その表情はすぐに一変した。
ミラと男達が衝突した瞬間、一方が面白いように吹き飛んだからだ。
「――――ごめんなさいね」
「な、なんじゃそりゃぁああああああああああああああああッッ!!!!」
宙を舞う極道。
池に落ちる者、砂利の上に降る者、庭の松の木に突っ込む者。
その光景はまるでボーリングのようだった。もちろんミラが球で萱島組の男達がピンである。
「な、何者だこのガキ!?」
「亮治く……工藤亮治のボディーガードよ」
「っざけてんじゃねェぞコラァアアアァァアァアア!!!」
一息つく間も無くすぐさま別の男達が襲い掛かってくる。
そんな乱戦になりそうな状況でもミラは落ち着き払っており、男達の敏捷性や歩幅を見極めいち早く自分の元へ届く者から後方へ蹴り飛ばしていく。
その光景はまるで旋風。ミラを中心とした周囲に竜巻が発生しているように、萱島組の男達が四方八方にはじき飛ばされる。
圧倒的な強さを見せるマルス・プミラの護衛係がそのまま全ての組員を叩き伏せてしまうかと思われた。
が、しかし。
「……ぐッ!」
突如、腹部に走る衝撃。
槍投げの如く投げられた木刀がミラの腹に突き刺さるようにめり込んでいた。
「ミラっ!!」
一瞬だけ顔を歪めたミラにたまらず亮治が叫ぶ。
そのまま家門を離れ駆け寄ろうとするが、それはミラによって制止される。
「大丈夫。心配しないで亮治くん」
亮治の方へ手のひらを向けこちらへの接近を遮る。
大の大人が投げた木刀を腹に受けダメージがないハズないのだが、それでもミラは亮治を心配させないため気丈に笑顔を見せた。
「はははっ! 流石にこの混戦の中じゃ避けられなかっただろ!」
無理もない。男達が数人がかりで飛びかかってくる最中、全く別のリズムとスピードで硬く冷たい人工物が飛来してきたのだ。
無敵かと思われたミラを怯ませた男は狡猾そうに口元を歪め、勝ち誇った笑みを浮かべる。
しかし、この少女相手にそれだけで余裕を見せるのはあまりにも迂闊だった。
「なっ……!?」
「お腹にもらったものへのお返しよっ!」
余裕の表情は数秒も持たず苦悶の表情に変わった。
ダメージを感じさせないスピードで男の懐に潜り込んだミラが華麗なボディーブロウを決める。
これで残る組員は三人。たったの三人である。
優に五十人はいたと思われる萱島組の組員は、わずか十数分のうちに小学生の少女一人にたった三人になるまで追い込まれているのだ。
「チッ……オイッ!」
一人の男の合図に残りの二人が頷く。
三人はジリジリと三方向からミラを取り囲むように立ち位置を変えていく。
簡易ミラ包囲網が完成するのと、ミラが行動に移るのはほぼ同時であった。
「くッ……!」
「まずはあなたから眠ってもらうわ」
雷光のように一瞬で合図をかけた男の前に移動するとその体に手をあて、両の手でひらで押し出すように力を込める。いわゆる双掌打だ。
少女のものとは思えない力によりライナー気味に吹っ飛んだ男に目もくれずミラが残りの二人を視界に捉えた時、投擲された木刀が再び彼女に襲いかかろうとしていた。
「アイツらまたっ……!」
亮治が吐き捨てるように声を漏らす。ミラの体は先程と同じように反応できていない。
―――いや、反応する必要がなかったのだ。
「なっ……!」「馬鹿な……!?」
砂利の上に転がる二本の木刀に男達が同時に声をあげる。
単純計算で先程の倍の衝撃を受けたにも関わらず、まるで当たっていないかのようにダメージがなかったからだ。
「ごめんね。その木の棒は”もう”効かない」
素手になった男達にもはやミラを止める実力も気力も無かった。
顎先に衝撃を受けた二つの体が膝から崩れ落ち、辺りに静寂が訪れる。
「ふぅ、汗かいちゃった」
五十人もの男をぶっ飛ばした直後に出たのはそんな呑気な感想だった。
切り揃えられた前髪をあげ、汗のにじんだ額を袖で拭う。
周囲にはヤクザ、ヤクザ、ヤクザ。まるで日本庭園にヤクザが飾り付けられているような光景。
飾りつけたのは亮治が1000円で雇ったユニット”マルス・プミラ”の護衛担当。
髪の長さは肩程までのセミロング。髪の色はダークレッド。
少女の名は、アーミラ・カスペルスキーといった。
* * *
「どう? しっかり護ってあげられたでしょ?」
「ああ、一つの文句もねーよ。お前一人に1000円払っててもおつりがきてるレベルだぜ」
「あははっ、アリガト!」
派遣されてきてから初めての護衛らしい仕事をやり遂げたミラが嬉しそうにはにかむ。
その実力はメモリアルが保証したものと寸分違わなかった。
「そういや腹、大丈夫か?」
亮治が真剣な表情で漆黒のスーツで包まれたミラの腹部を差す。
「うん、平気。ほら」
ぺろんと躊躇いなくスーツとシャツをまくりあげ無防備にも亮治にお腹を見せる。
ミラの言うとおりそこには傷どころか痣一つなく、白い肌と可愛らしいへそがあるだけであった。
腹筋が割れているわけでもなく、どう見てもあの木刀の衝撃に耐えられそうには無い柔らかそうなお腹。
亮治は鉄板でも仕込んでいるんじゃないかと不思議そうにミラの腹部を見つめる。
「りょ、亮治くん……。確かに自分から見せたけど、そうマジマジと見られると恥ずかしいわ……」
「あぁ、わりぃわりぃ」
パッとミラがまくり上げていた衣服を戻す。
その頬はほんのり赤らんでいた。
「私達キュリティ種は生まれた時から通常の人間より体が頑丈に出来てるのよ。だから、さっきのくらいじゃ衝撃は感じても痛みはわずか。体に痕なんて残らないわ」
「はー、見た目は全然ヤワそうなのになぁ」
シード・ライヴに存在する種族の一つ、キュリティ種。
昨晩、ユティーやレイヤは”身体能力に特化している種族”と簡単に説明したが、特化しているとはこういうことである。
大の大人を軽々と投げ飛ばせる腕力、アクロバティックな動きができる脚力や平衡力、そして生半可な攻撃では傷ひとつつかない防御力。
しかもミラはまだ幼いため体は不完全。これから成長するにつれ更に強力なものへとなっていくという底の見えなさ。
そして彼女の体にはもう一つ、彼女固有の”特殊能力”を持っていた。
「一度受けた攻撃法は効かなくなる?」
「うん。私の体って一度受けた痛みは全部覚えちゃって、次からはその痛みや衝撃を体組織が全て中和しちゃうの」
「じゃあさっきのは、一回木刀による攻撃を体が受けたから、二度目の二本投げは避ける必要がなくなったってことか?」
「そういうこと。ただし、拳や足による肉体を使った直接攻撃に関しては例外だけどね」
仮に彼女が拳銃で撃たれたとしても、頑丈な体に弾が阻まれ致命傷は与えられないうえ、その銃種による銃撃はすべて無効化されてしまう。
まさに難攻不落。萱島組の人間が彼女に勝利するためには、一撃目で彼女に致命傷を与え、ニ撃目に別の手段で彼女にトドメを刺す必要があったのだ。
だがしかし、そもそも彼女に致命傷を与える火力など現代社会において容易に用意できるものではないので、この議題は考えるだけ無駄である。
「じゃあ何か、俺は今後もお前に護られっぱなしで出番ないってことか」
「? 当たり前でしょ? 亮治くんは雇い主で、私はそのボディーガードなんだし」
「いやまぁ、それはそうなんだが……小学生女子に護られるってのはどうしても抵抗が……」
複雑な顔をする亮治を前に、ミラは不思議そうに首を左右に傾げる。
頭の中の八割は金儲けのことで埋まっている亮治にも、やはり男のプライドというものは存在するのだ。
「ふふっ、変な亮治くん」
「うるせー。とりあえず今は護られてやるからとっとと先に進むぞ」
「はーい」
走りだす雇い主の心境など露知らず、小さな護衛少女は嬉しそうにその後を追った。
* * *
「―――――それは誠か、結城よ」
「はい、全て事実です」
市内に広大な敷地を持つ任侠一家”萱島組”の本部には本館とは別に離れが存在する。
固められたオールバック気味の髪と黒地に白薔薇模様のスーツ。通称”白薔薇の結城”と萱島組二代目組長が言葉を交わすはその離れの中にある茶室だった。
「お前ほどの男を斃す子供がおるとは、にわかには信じがたい話だな」
「おっしゃるとおりです。俺自身、まだ信じられません」
手慣れた手付きで茶を立て、目の前に正座している結城の話に耳を傾ける。
萱島組二代目組長は還暦を迎えた身であり、その顔はシワであふれていたが、瞳に宿る眼光は結城をも上回る貫禄と迫力を放っている。
事実、彼は結城よりも強いかもしれない。彼の趣味であり特技である抜刀術は、老人のそれとは思えぬ鋭さを持っていることを結城は知っていた。
「その娘、”此度の件”と何か関係している可能性はないのか」
「……わかりません。ただ、何の確証もない、自分の勘だけで申し上げますと、あのガキは本当にただあの店で働いているだけに思えました」
「そうか、では引き続き―――――」
組長は言いかけてやめる。
ドタドタと足音を立てこの部屋に接近してくる二つの足音を感じたからだ。
そしてこの接近スピードは明らかに組の人間ではない。
平時におき、和と静を重んじる組長が茶室で茶をたてている時は、よほどの緊急事態でもなければ幹部以外近づくことすら許されていないからである。
仮に組の人間だとしても二人でやってくることはまずありえないだろう。報告なら一人で十分だ。
つまり、どちらにせよ萱島組に何かが起きたということはもはや確定事項。
組長と結城はそれがわかっているため、接近してくる足音に黙って備えた。
数秒後、茶室のふすまが乱暴に開かれる。
「突然お邪魔してすみません! 私、アーミラ・カスペルスキーって言います! 組長さんにお話があってここに来ました!」
それは確かに緊急事態と呼べるものだった。
ふすまを開け現れたのはどう見ても小学生くらいにしか見えない少女。
その後ろには冷や汗を浮かべ苦笑している高校生くらいの少年。
あまりにも予想外の訪問者に、結城と組長は呆気にとられる。
まだ他の組の人間によるカチコミの方が驚かなかっただろう。
「あ、結城さん! ここにいたのね」
「あのー……すみません、そちらのせいで絶賛ネットで炎上中の工藤亮治でーす……」
目の前にいる二人の男が明らかに尋常じゃないとひと目で察した亮治は動揺し、出来る限り明るく振舞おうとして嫌味の入った自己紹介をしてしまう。
「結城、もしやお前が言ってたのはこの娘のことか」
「……はい、そうです」
あらためて見る自分を投げ飛ばし気絶させた少女を前に、結城はかなり気不味そうに組長の質問答える。
ミラを見るその顔には「俺は本当にこんなガキにやられたのか」という自身への不信があからさまに浮かび上がっていた。
無理もないだろう。通常の成人男性の人生の中で、義務教育過程の少女に投げられる体験などまずしない。
「結城さん、お願いがあります」
「……なんだ」
「部下の人に亮治くんを付け狙うのを止めさせてください。悪いのは全て私です」
「………………なんの話だ?」
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「なるほど……そういうわけか」
茶室に通された亮治とミラは、事の経緯を二人に説明していた。
犬塚との売上対決のこと、店を占領した工作員のこと、その工作員を追いだそうとしたこと、そしてここに来るまでに向かってきた萱島組の人間全てを叩きのめしたこと。
亮治のことはともかく、萱島組組長はミラのことをすっかり気に入ったようで、最後の話を聞いた時は愉快そうに声をあげ笑った。
「はっはっはっそうか! ウチのもんは皆のされちまったか!」
「ごめんなさい、向かってくるものだから」
「いやいや悪かったなお嬢ちゃん。結城や組のモンが迷惑掛けたようで」
「いえ、こちらこそすみませんでした」
正座のままお辞儀をするミラに合わせ、慌てて亮治も頭を下げる。
ここだけ見るとまるでミラが主人で亮治が雇われの身のようだ。
「あいわかった。萱島組は工藤亮治と定食屋”花月”に危害を加えんことを約束しよう」
「……ありがとうございます!」
「ほっ、どうにか命がつながったぜ……」
話のわかる組長で良かったと亮治は胸を撫で下ろす。
が、しかし。
「結城、お前も異論ないな?」
「ありません……ただ、一つだけ要求があります」
円満解決したと思った矢先に切り出された言葉にごくり、と亮治が息を呑む。
和らいだ表情をしていたミラもあらためて顔を引き締め結城の次の言葉を待った。
「恥を忍んで頼む。もう一度、俺と勝負して欲しい」
飛び出したは決闘の申し込み。
結城の視線の先にいるのはもちろんミラだった。
言い訳にしかならないが、初対面となる花月ではミラに対し”油断”と”驕り”が結城の中にあったのは間違いない。
わけもわからぬうちに意識が飛んでいたので「負けた」という現実が実感できないでいるのだ。
「と、言っておるが?」
組長がミラへ返答を促すもミラは答えず前へ向けていた首を右へ回し、隣にいる亮治に許可を求めるように見つめてきた。
「お前の好きなようにやりゃ良いさ。ご指名はお前なんだしな」
「うんっ! ありがと亮治くん!」
「それではその勝負、慎んでお受けいたします」
ミラの快諾に結城が嬉しそうに口元を歪ませる。
”ありがたい”、それが彼の本心だった。
顔は怖いが今時珍しい男気と仁義に溢れる任侠ヤクザ、白薔薇の結城は自分の強さを確かめるために立ち上がる。
小学生 対 任侠ヤクザ、前代未聞の大勝負。
亮治と組長が離れの縁側で見守る中、ミラと結城は白砂利が敷き詰められた日本庭園で立ち会った。
* * *
勝負は一瞬、とまではいかぬがものの数分で決着が着いた。
白薔薇の結城は組の中庭で大の字になり、視界に映るどこか寂しさを感じさせる夕焼け空を見上げていた。
「どうだ、気分は」
穏やかな表情で見下ろしながら、組長は倒れる結城に声をかける。
「……喧嘩に負けてこんな気分になるのは初めてです。自分でも驚くぐらいスッキリしてますよ」
言葉どおり、勝負の結果は結城の負け。
決まり手は苦しくも花月の時と同じ背負投げ。
勝負が始まると、意外なことに白薔薇の結城はボクシングの構えでミラを迎え撃った。
我流のケンカ殺法で来ると思い込んでいた亮治とミラにとって、相手が洗練された構えをとってきたのは予想外だった。
組長に聞けば、結城はこの世界に足を踏み入れる前、ボクサーを志していたという。
そんな結城に対し慎重になったのかミラもイキナリ突っ込んで行くことはせず、ジリジリと互いとの距離を詰めていく。
最初に動いたのは結城からだった。
リーチの長い彼の射程圏内にミラの体が入った瞬間、巨大な拳で左ジャブを放つ。
そのままストレートやフックを絡めたコンビネーションがミラを襲う。重量級の体をしているとは思えぬほど俊敏な動き。空を切る音が聞こえるほどの拳速。
そんな拳の嵐をミラは全て紙一重で避わしていく。
そして、少しずつ前進していた彼女が結城の懐に潜り込むまで接近した時にはもう、勝敗が決していたのだ。
「正直、あのガキにはいくらやっても勝てる気がしません。完敗です」
「気に病むことはない。ありゃ次元が違う。国内、いや、世界で考えてもあの嬢ちゃんに素手でタイマン張って勝てる人間はきっとおらん」
「……それを従えているあの工藤亮治ってガキはなんなんでしょうね」
「うむ、ワシもそこが気になっておった。見たところ多少ずる賢そうなただの少年にしか見えなんだが……」
「はっくしょいっ!!」
「あらら、亮治くん風邪?」
「うー、きっと誰かが俺の噂をしてるに違いないぜ」
「あの掲示板で大人気だったもんね」
「それはもう忘れろ」
亮治とミラは橙色に染まる空の下、河原沿いを並んで歩いていた。
四本の足が向かう先はもちろん定食屋”花月”。
自分達が留守にしている今も、ユティー達は店と亮治のためにせっせと頑張っていることだろう。
「でも良かった」
「ああ、ホント正直に謝ってみるもんだな。俺が悪かった、お前が正しかったぜ」
「ううん、そのことじゃなくて」
不意にミラが亮治の前に回り込み、顔を近づけるように下から覗き込んでくる。
「亮治くんを、護りきることができて」
夕日を浴びながらはにかむその姿は、素直に可愛らしかった。
先程、ヤクザの群れをなぎ倒していた少女と同一人物とは思えぬほど優しく、儚げで、愛らしい。
そんなミラからのどストレートな言葉に、亮治はなんだか気恥ずかしくなり言葉に詰まる。
「う……な、なんだよイキナリ……」
「亮治くん。私ね、昔、大切な人を護れなかったことがあるの」
不覚にも照れてしまった亮治の反応には触れず、ミラは寂しげに目を伏せ静かに語りだす。
彼女の脳裏に流れる苦い記憶。
キュリティ種でありながらILS種に対し無力だった頃の自分。
護れる素質は持っていても、護れる力が備わっていなかった頃の自分。
「その人は戦争孤児の私にとても良くしてくれて、私もその人が好きだった。頭を撫でてもらったり、お菓子を作って食べさせてくれたり、そんな幸せな時間がずっと続くかとその頃の私は信じて疑わなかった」
そこまで話を聞いた時点で、亮治は人材派遣会社CPU発足の理由を思い出す。
(恐らくその人物は、ILS種がシード・ライヴに攻め込んで来た時にミラの前からいなくなっちまったんだろうな……)
ミラは遠い目で夕日が映り浮かぶ目の前の河を見つめていた。
口から発せられる言葉は重かったが、亮治に向ける背は今にも飛んでいってしまいそうなほど小さく軽い。
無理もない。いくら強くても彼女はまだ小学生なのだ。
メモリアルは、若くして人材派遣会社CPUに登録している人間には大抵、特殊な事情があると言った。
それは天敵である種族とのハーフであるユティー・リティーと同じく、この赤黒髪の少女にもここに来るまでに様々な事情があったということになる。
亮治はミラの強さと、護ることに対しての執念の理由がわかった気がした。
「……つまり、その人と俺を重ねてるってことか。お前にも色々あったんだな」
「うーん……半分くらいはそうかな?」
「半分?」
「だって、その人は”お兄さん”って感じだったけど、亮治くんは”弟”みたいなんだもの」
弟。
兄弟、あるいは姉弟の関係にある者のうち、”年少”の男性のことをそう呼ぶ。
「お、おとうと……」
「どうしたの亮治くん? 早く帰らないとユティーに怒られるわよ?」
「お前、何歳だっけ……」
「十二歳だけど?」
「俺は十七歳だ」
「あははっ、そんなこと知ってるわよ。私立ヴァルフォード学園、通称”トゥエルブ”の二年生で商業科でしょ。それがどうかしたの?」
「…………いや、なんかもう良いわ」
犬塚英理子からの襲撃、掲示板炎上、萱島組本部への殴り込みへと発展した今回の騒動の疲れがここに来てどっと出てくるのを感じた亮治は、無言のまま自分の前を歩く”自称年下の姉”の後をとぼとぼと付いて行くのであった。
<11月12日>誤字脱字修正。




