窓
ベッドの近くにある窓からは、桜の木が見える。
今は9月だから花弁は見れないけれど、まだ枝には葉がついている。
ただ、今年の夏は猛暑だったから、葉は黄色がかっていた。
風が吹くと、その葉も力尽きて落ちてしまう。
まるで今の私のようだった。
病室のベッド。
私はそこに長いこと居座っている。
病名は何だったか、難しくて覚えるのが面倒そうなものだったことだけは覚えている。
栄養不足で黄色がかった桜の葉のように、私の体も瘦せ細っている。
家族はいるけれど、もう余程のことがないと見舞いには来ない。
看護師さんが定期的に来てくれるくらい。
相部屋だったら他の人とお話出来たかもしれないのに、個室だから独りぼっちだった。
家にお金があるっていうのも、考えようだなと思った。
ある日、桜の木の枝に、1羽のカラスが留まっていた。
そのカラスは時折いろんな方向を見るけれど、ずっと私の方を見ていた。
何をしているんだろう?
私を見ていて、何か楽しく思ってくれてるのかな?
そんなことを思いながら、私もカラスをずっと見ていた。
来る日も来る日も、カラスはいつも同じ枝に留まっていた。
最初からそこに固定された置物なんじゃないかって思ってしまう。
でもちゃんと首は動いているし、夕方近くになるといなくなってしまう。
そんなカラスには変化がないけれど、桜の葉はどんどん落ちていく。
それと同じように、私の手足もどんどん細くなっていく。
肉が落ち過ぎて、ベッドで横になっているのも痛い。
鏡はまともに見ていないけど、そうとう酷いんだろうな。
ある日、目を開けると、窓枠に1人の男の子が座っていた、外を見ていた。
全身真っ黒の男の子。
それとは対照的に、髪の毛だけは白かった。
開いた窓から風が入ってくる。気持ちがいい。
「そんな所に座ってたら危ないよ?」
もうまともに喋っていないから、声がうまく出なかった。
私の声に反応し、男の子が顔を向ける。
吸い込まれそうな赤い瞳。
とてもとても綺麗だった。
男の子を見ていて、何故そう思ったのか、
「カラス君?」
と、私は言っていた。
「へぇ、わかるの?」
男の子が驚きつつ答えた。
「なんとなく、だけど」
そうなんだ、と男の子は笑った。
男の子は窓枠から降りると、私の側まで寄ってくる。
そして、ひんやりとした手で、私の骨のような手をとった。
「迎えに来たよ」
最初はどういう意味なのか分からなかった。
でも少しして、あぁ、そういうことか、と察する。
外の桜の木は、もう葉が1枚も残っていなかった。
きっと私も。
「最期に人とお話が出来て良かった。誰もお見舞に来ないから」
言って、私はどんどん重くなっていく目蓋に負け、目を閉じた。
小さく、人じゃないけどね、と男の子が笑ったのが聞こえた。
開いた窓から風が吹き込む。
少しずつ、意識が遠のいていく。
せっかくお話出来る相手が来たんだから、もう少し話をしたかったな。
周囲の音が遠くなっていく。
最後に、カラスの鳴き声が、聞こえた気がした。
カラス人化の術。




