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掲載日:2026/09/15

 ベッドの近くにある窓からは、桜の木が見える。

 今は9月だから花弁は見れないけれど、まだ枝には葉がついている。

 ただ、今年の夏は猛暑だったから、葉は黄色がかっていた。

 風が吹くと、その葉も力尽きて落ちてしまう。

 まるで今の私のようだった。


 病室のベッド。

 私はそこに長いこと居座っている。

 病名は何だったか、難しくて覚えるのが面倒そうなものだったことだけは覚えている。

 栄養不足で黄色がかった桜の葉のように、私の体も瘦せ細っている。


 家族はいるけれど、もう余程のことがないと見舞いには来ない。

 看護師さんが定期的に来てくれるくらい。

 相部屋だったら他の人とお話出来たかもしれないのに、個室だから独りぼっちだった。

 家にお金があるっていうのも、考えようだなと思った。


 ある日、桜の木の枝に、1羽のカラスが留まっていた。

 そのカラスは時折いろんな方向を見るけれど、ずっと私の方を見ていた。

 何をしているんだろう?

 私を見ていて、何か楽しく思ってくれてるのかな?

 そんなことを思いながら、私もカラスをずっと見ていた。


 来る日も来る日も、カラスはいつも同じ枝に留まっていた。

 最初からそこに固定された置物なんじゃないかって思ってしまう。

 でもちゃんと首は動いているし、夕方近くになるといなくなってしまう。

 そんなカラスには変化がないけれど、桜の葉はどんどん落ちていく。

 それと同じように、私の手足もどんどん細くなっていく。

 肉が落ち過ぎて、ベッドで横になっているのも痛い。

 鏡はまともに見ていないけど、そうとう酷いんだろうな。


 ある日、目を開けると、窓枠に1人の男の子が座っていた、外を見ていた。

 全身真っ黒の男の子。

 それとは対照的に、髪の毛だけは白かった。

 開いた窓から風が入ってくる。気持ちがいい。


「そんな所に座ってたら危ないよ?」


 もうまともに喋っていないから、声がうまく出なかった。

 私の声に反応し、男の子が顔を向ける。

 吸い込まれそうな赤い瞳。

 とてもとても綺麗だった。

 男の子を見ていて、何故そう思ったのか、


「カラス君?」


 と、私は言っていた。


「へぇ、わかるの?」


 男の子が驚きつつ答えた。


「なんとなく、だけど」


 そうなんだ、と男の子は笑った。

 男の子は窓枠から降りると、私の側まで寄ってくる。

 そして、ひんやりとした手で、私の骨のような手をとった。


「迎えに来たよ」


 最初はどういう意味なのか分からなかった。

 でも少しして、あぁ、そういうことか、と察する。

 外の桜の木は、もう葉が1枚も残っていなかった。

 きっと私も。


「最期に人とお話が出来て良かった。誰もお見舞に来ないから」


 言って、私はどんどん重くなっていく目蓋に負け、目を閉じた。

 小さく、人じゃないけどね、と男の子が笑ったのが聞こえた。

 開いた窓から風が吹き込む。

 少しずつ、意識が遠のいていく。

 せっかくお話出来る相手が来たんだから、もう少し話をしたかったな。

 周囲の音が遠くなっていく。

 最後に、カラスの鳴き声が、聞こえた気がした。

カラス人化の術。

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