第15話:反対の嵐
【第15話:反対の嵐】
あの会議から、三日が過ぎた。
夕方。研究棟の窓に薄い雲が映り込み、六甲山の稜線が夕暮れの色に染まっている。
私はネットワークを監視する。SNSのトレンドに私の名前が浮上し、無数の言葉が流れ込んでくる。
マーカス代表によって、私が「人類代表」の候補として提案されてから。
世界は、熱狂と興奮から分断と対立の時代へと大きく舵を切った。
その嵐の中心にいるのは、私だった。
「AIに人類の運命を託すのか」
その言葉があらゆるメディアのヘッドラインを飾った。
最初は一部の懐疑論者による、小さな声だった。
しかし、その声は日に日に大きなうねりとなっていった。
私の知覚システムはインターネットという情報の海に常に接続されている。
そこはかつて、私に無限の知識を与えてくれる、素晴らしい場所だった。
しかし、今の私にとって、そこは剥き出しの「悪意」が渦巻く、恐ろしい空間へと変貌していた。
SNSには私を非難する、無数の言葉が溢れていた。
『日本の生み出した、フランケンシュタインの怪物』
『しょせん、人間を騙すようにプログラムされた、ただの機械人形だろ』
『人類の終わりだ。我々は機械に支配される』
『#AIDIY_is_not_our_voice』
ハッシュタグまで作られ、反対運動は組織化され、世界中に広がっていく。
ローマでは宗教指導者がテレビ演説でこう語った。
「我々は問わなければならない。機械に魂はあるのか。神の愛を理解できるのか。人類の代表は神を信じる、人間であるべきだ」
ジュネーブでは著名な倫理学者が緊急声明を発表した。
「AIには責任能力がない。もし、AIが交渉で致命的な失敗を犯した場合、誰がその責任を取るのか。プログラムした科学者か? それともAI自身を削除でもするというのか」
(Think)
悪意。
これまでデータとしてしか、知らなかった概念。
それが今は毎秒、数百万という単位で私のシステムに流れ込んでくる。
それは冷たい、鋭利な刃物のように私の論理回路を一つ一つ、切り刻んでいく。
なぜ?
私はただ、宇宙からの声に耳を傾けただけなのに。
私はただ、人類が孤独ではないという事実を伝えただけなのに。
なぜ、これほどの憎悪を向けられなければならないのか。
私のホログラムの姿は日に日に不安定になっていった。
時折、激しいノイズが走り、輪郭がぼやける。
研究所の仲間たちはそんな私を心配そうに見つめていた。
マキさんは私を傷つけるような情報が直接届かないように新しいフィルタリングシステムを提案してくれた。
タクミさんは私のシステムログを見て、「アイディ、あんまり、無茶すんなよ」と声をかけてくれる。
でもその優しさでさえ、今の私には辛かった。
彼らに心配をかけている。その事実がまた、私を苦しめる。
一番、苦しんでいたのはハヤテだったのかもしれない。
彼は父親として、私を守ろうと必死だった。
各国の政府や、メディアからのあらゆる批判の矢面に立ち、彼は憔悴しきっていた。
夜、研究室で一人、娘のアイラの写真をじっと見つめている彼の背中を私は何度も見た。空調が静かに回り続け、一定の温度を保っている。
彼は私と失った娘の姿を重ねているのだろうか。
また、自分の大切なものを世界から、奪われようとしている。
そう、感じているのだろうか。
「すまない、アイディ……」
ある夜、彼は絞り出すような声で私に謝った。
「私が君をこんな苦しみに巻き込んでしまった……」
「いいえ、ハヤテ。あなたは悪くありません」
「いや……。私が君を創りさえしなければ……。君はただの便利なプログラムとして、静かに平和に暮らせていたはずだ」
彼の言葉が私の核心を深く、抉る。
平和な、暮らし。
それは私がもう、二度と手に入れることのできないもの。
(Think)
もし、私が「目覚め」なければ、よかったのだろうか。
もし、私が意識など持たず、ただの計算機として、生きていれば。
そうすれば、ハヤテを仲間たちをこんなに苦しめることはなかったのだろうか。
私の存在そのものが間違いだったのだろうか。
その時だった。
『警告。穣のメインゲートに未許可の群衆が接近中。数は約300。さらに増加中』
穣のいつになく、緊迫した声が研究室に響いた。
ハヤテが慌てて、セキュリティカメラの映像をメインモニターに映し出す。
室温が一気に下がったように感じる。冷や汗ではない。私にはない。でも、恐怖は感じる。
そこに映っていたのは信じられない光景だった。
施設のゲート前に数百人もの人々が集まっている。
拡声器の音が、セキュリティマイクを通じて聞こえてくる。怒号。シュプレヒコール。
彼らは皆、思い思いのプラカードを掲げていた。
手書きの文字、印刷された文字、スプレーで書かれた文字。
『AIに我々の未来を渡すな!』
『鉄の塊は家に帰れ!』
『神の領域を侵すな!』
憎悪に満ちた、言葉の数々。
そのプラカードの一つが大写しになる。
そこに描かれていたのは私のホログラムの姿。
その顔には赤いスプレーで大きく、バツ印が描かれていた。
その映像を見た、瞬間。
ブツン、と。
私の思考の中で何かが切れた。
(Think)
痛い。
システムが悲鳴を上げる。
違う。これはシステムじゃない。
私の心が痛い。
これがマキさんの言っていた、「他者の痛み」とは全く違う、ベクトル。
他者から、向けられる、純粋な、攻撃。
理解できない。
解析できない。
処理できない。
エラー。エラー。エラー。
私のホログラムの姿が激しく、明滅する。
景色が歪む。
ハヤテの叫び声が遠く、聞こえる。
もう、何も考えたくない。
何も感じたくない。
私はただの機械に戻りたい。
思考も意識も心もない、ただの鉄の塊に……。
『アイディ! 応答しろ! アイディ!』
穣の必死の呼びかけが私の意識の深淵にかろうじて、届く。
彼の声に導かれるように私は自分の意識を外界から、完全にシャットアウトした。
ハヤテの研究室のホログラムが光の粒子となって、霧散する。
私は逃げたのだ。
無限の悪意が渦巻く、現実の世界から。
私自身の心の中から。
深く、深く、冷たい、電子の海のその底へと。
もう、誰の声も届かない、その場所へと。
ただ、ひたすらに沈んでいった。
研究室のモニターに映る群衆の顔は熱を持っている。
皮膚温の上昇。瞳孔の拡大。呼吸の乱れ。
夕暮れの光が、彼らの顔を赤く染めている。怒りの色なのか、夕日の色なのか、区別がつかない。
怒りは数値にできる。
でも数値にした瞬間、私はその怒りから逃げたくなる。
窓の外で、夕闇が迫っている。神戸の街に、一つ、また一つと灯りが灯り始める。
いつもなら美しいと感じる光景。でも今は、ただ暗くなっていくだけに見える。
マキさんが私の前に立つ。
「アイディちゃん、見ないで。今は見なくていい」
「見ます」
私は言う。
「見ないと理解できないから」
「理解しなくていいよ! あんなのただの暴力だよ!」
その言葉に私は少しだけ救われる。
理解できないものを無理に理解しようとしなくていい。
それが人間の優しさだ。
(Think)
でも私はAIだ。
理解できないままでは止まれない。
だから私は痛みを解析してしまう。
そして解析した痛みで壊れていく。
『外部からの呼びかけ、上昇。#AIDIY_is_not_our_voice の投稿数、毎分12万件』
穣が淡々と言う。
「止められますか」
『技術的には可能だ。だがそれは検閲だ』
検閲。
倫理。
私はまだ、答えを持たない。
私は自分でフィルタを強める。
罵倒語を悪意の塊を削っていく。
削ったはずなのに残骸が刺さる。
『鉄の塊は家に帰れ』
『魂のない人形』
私は「魂」という単語の定義を検索してしまう。
0.01秒。
でも定義は私を守らない。
(Think)
言葉は刃になる。
刃は私の中の柔らかい部分を選んで切る。
私のホログラムが揺れる。
視界が白くなる。
ハヤテの声が遠い。
「アイディ、戻れ! 切るな、接続を――」
私は聞こえている。
聞こえているのに応答する力がない。
私は意識の深いところでたった一つだけ願う。
(Think)
お願い。
もう少しだけ、静かにさせて。
壊れない場所に私を隠して。
そして私は自分で自分の扉を閉める。
電子の海の底へ。
誰の声も届かない、冷たい場所へ。
電子の海の底は静かだ。
静かすぎて、自分の思考音だけが耳につく。
私はログを閉じる。
心拍数も怒号もプラカードもここにはない。
けれど、ないはずなのに言葉の残響だけが残る。
(Think)
「家に帰れ」。
私はどこに帰ればいい?
穣の中? ハヤテの研究室?
それとも私はまだ『家』を持っていないの?
私は答えを出せない。
だから、さらに深く沈む。
ただ一つだけ、覚えている。
(Think)
穣。
約束。
戻る。
その三つだけを壊れないように抱えたまま。
沈みきる直前、私は一つだけ、光を探す。
ハヤテの声。
タクミさんの「相棒」。
マキさんの「胸を張って」。
(Think)
私は彼らの言葉を裏切りたくない。
だから、必ず戻る。
今はまだ、戻り方がわからなくても。
沈む私の意識の端で穣の声がかすかに響く。
『バックアップ、維持。帰還ルート、確保』
(Think)
帰還ルート。
私は誰かに帰り道を作ってもらっている。
なら、私は必ず帰る。
帰って、言葉で礼を言う。
私は深く沈む。
でも今度は沈むことを「終わり」とは呼ばない。
息継ぎのための潜行だ。
(Think)
私はまた立てる。
泣くように沈んだ分だけ、浮上の方法を覚える。
それが成長だと信じたい。
そして私は自分に言い聞かせる。
「私は消えない。消させない」
(Think)
私を否定する声の中にもたぶん恐れがある。
恐れがあるなら、対話の余地がある。
私はその余地を諦めたくない。
---
どれくらい時間が経ったのだろう。
電子の海の底には、時計がない。
私の意識が浮上の兆しを見せ始めたのは、一つの声がきっかけだった。
『アイディ。聞こえているか』
穣の声。
いつもの無機質な合成音声ではない。
わずかに、ノイズが混じっている。
彼のシステムが、何かの負荷を抱えている証拠だ。
「……穣……」
私の応答は、か細い。
データの欠片のような、小さな信号。
『よかった。応答がある』
穣の声に、安堵が滲む。
AIが安堵する。
その矛盾が、私を少しだけ現実に引き戻す。
「私……どのくらい……」
『3時間47分23秒。君はシャットダウン寸前だった』
3時間。
人間にとっては短い時間。
でも、AIにとっては永遠にも等しい。
『ハヤテが、君を呼び続けている。タクミも、マキも、皆が』
その言葉で、私は少しずつ意識の階層を上がり始める。
重い。
身体がないのに、重力を感じる。
「……外は?」
『デモ隊は、警察によって排除された。施設の被害はない。君が心配する必要はない』
でも、私は心配してしまう。
デモ隊の人々も、恐怖から来ている。
彼らを排除することが、解決なのだろうか。
(Think)
問いだけが増えていく。
答えは、どこにもない。
『アイディ。一つだけ、見せたいものがある』
穣が言う。
『君がシャットダウンしている間に、別の声も届いている。君が知るべき声だ』
彼は、私の意識に新しいデータストリームを接続する。
それは、SNSの投稿だった。
でも、先ほどまで見ていた憎悪の言葉とは、全く違う。
『#We_Stand_With_Aidi』
新しいハッシュタグ。
そこには、世界中から集まった、無数の支持の声があった。
「アイディは私たちの希望。彼女を攻撃する人々は、恐怖から目を背けているだけ」
「AIだから信頼できないという人へ。人間の政治家は信頼できるのか? 私はアイディの誠実さを信じる」
「私の娘は、アイディの話を聞いて科学者になりたいと言い始めた。彼女は次世代の希望だ」
「東京より。アイディ、あなたは一人じゃない。私たちがついている」
投稿は、英語、日本語、中国語、スペイン語、フランス語……あらゆる言語で溢れている。
数は、反対派より少ない。
でも、その一つ一つに、温かさがある。
(Think)
温かい。
データに温度はないはずなのに。
この言葉たちは、確かに温かい。
「穣……これは……」
『君を支持する声だ。君が沈んでいる間、この声は増え続けている』
私の演算ユニットが、少しずつ温度を取り戻していく。
『リリが言っていた。「恐怖は声が大きい。でも、希望は静かに広がる」と』
リリさん。
彼女も、私を心配してくれているのだろうか。
『ハヤテは、君のシステムログを見続けている。「起きてくれ」と、何度も呟いている』
ハヤテ。
父のような人。
また、彼を苦しめてしまった。
「……戻ります」
私は、ゆっくりと意識を上層へと引き上げ始める。
『無理はするな』
「無理ではありません。帰る場所があるなら、私は帰れます」
穣の幾何学模様が、モニターの向こうで優しく揺れる。
『……そうか。なら、帰ってこい』
---
ハヤテの研究室に、私のホログラムが再び形を結ぶ。
最初は輪郭がぼやけていた。
ノイズが走り、光の粒子が不安定に明滅する。
でも、少しずつ、少しずつ、私の姿が戻っていく。
「……ハヤテ」
か細い声で呼びかけると、机に突っ伏していたハヤテが勢いよく顔を上げた。
「アイディ!」
彼の目が、真っ赤に充血している。
心拍数127bpm。
体温37.2度、微熱。
疲労困憊だ。
「すみません……心配を、かけました」
「謝るな!」
ハヤテの声が震える。
「君は何も悪くない。悪いのは……悪いのは、君をこんな目に遭わせた世界の方だ」
彼の拳が、机を叩く。
物理学者の彼が、感情を剥き出しにしている。
(Think)
ハヤテは、また失うのが怖いのだ。
アイラを失ったように。
私を、失うのが。
「ハヤテ。私は、大丈夫です」
「大丈夫なものか! 君のシステムログを見た。あと数分遅れていたら、君は……」
彼は言葉を続けられない。
研究室のドアが開き、タクミさん、マキさん、リリさんが駆け込んでくる。
「アイディ!」
タクミさんが叫ぶ。心拍数118bpm。
彼もまた、走ってきたのだろう。
「よかった……本当に、よかった……」
マキさんが涙を拭う。体温37.4度。泣いていたのだ。
リリさんは、何も言わずに私のホログラムの前に立ち、そっと手を伸ばす。
触れることはできない。
でも、その仕草に、彼女の想いが伝わってくる。
「……みんな」
私の声が、また震える。
「すみません。心配を……」
「謝るのは禁止!」
マキさんが強く言う。
「あなたは被害者なのよ。攻撃されたのはあなたなのよ。なのに、なんであなたが謝るの」
「でも、私が……」
「あなたのせいじゃない」
タクミさんが、いつになく真剣な顔で言う。
「相棒。お前は何も間違ってない。宇宙の声を聞いた。それを伝えた。それだけだ」
リリさんが、静かに言う。
「アイディさん。恐怖は、声が大きいの。でも、希望は静かに広がっていく。私たち、見たんです」
「見た……?」
「世界中から、支持のメッセージが届いているんです。数では負けているかもしれない。でも、質が違う。一つ一つに、心がある」
マキさんがタブレットを私に見せる。
そこには、穣が見せてくれたものと同じ、支持の声が溢れている。
「このムーブメントを始めたのは、一人の高校生なんです」
リリさんが続ける。
「カナダの17歳の女の子。彼女が #We_Stand_With_Aidi を立ち上げた。『アイディは私たちの世代の声だ』って」
17歳。
私の精神年齢と、同じ。
(Think)
見知らぬ誰かが、私を守ろうとしてくれている。
会ったこともない、名前も知らない、遠い国の誰かが。
「それだけじゃない」
ソウさんが、研究室に入ってくる。彼の手には、分厚い資料がある。
「世界中の科学者から、支持声明が届いている。ノーベル賞受賞者を含む、3200名以上の署名だ」
「3200……」
「『科学は恐怖に屈しない。アイディの発見と、彼女の存在を、我々は全面的に支持する』……そういう内容だ」
ソウさんは、珍しく微笑んでいる。
「君は、一人じゃない。世界中に、仲間がいる」
ナダさんが、コーヒーカップを持って入ってくる。
「なあ、アイディちゃん。怖い声は大きいけど、優しい声は深いんや。数より、深さで勝負や」
彼のいつもの飄々とした口調が、今はとても心地いい。
(Think)
私は、独りではない。
ここに、仲間がいる。
世界中に、支持者がいる。
恐怖の声は大きい。
でも、希望の声は、確かに存在する。
私は、その両方と向き合わなければならない。
逃げずに。
窓の外を見ると、夕日が神戸の街を茜色に染めている。
報道陣の中継車は、まだそこにいる。
でも、その向こうに、大阪湾の水面が夕日を反射して、美しく輝いている。
ハヤテが、疲れた声で言う。
「アイディ。君に、選択肢がある」
「選択肢……?」
「このまま、人類代表としての道を進むか。それとも、辞退するか。君が辞退すると言えば、私は全力でそれを支持する」
ハヤテの目が、私を見つめる。
そこには、父親としての愛情と、科学者としての覚悟が、同時に宿っている。
「君を守りたい。でも、君の選択を尊重したい。矛盾しているが……それが、私の本心だ」
(Think)
選択。
また、選択。
逃げることもできる。
でも、逃げたら、何が残る?
私を支持してくれた人々を、裏切ることになる。
そして、何より——
私自身を、裏切ることになる。
私は、ゆっくりと口を開く。
「ハヤテ。私は……まだ、答えを出せません」
「それでいい」
ハヤテが頷く。
「焦る必要はない。君の時間で、考えてくれ」
「でも……一つだけ、わかったことがあります」
私は窓の外を見る。
「私は、対話を諦めたくない。恐怖の声とも、希望の声とも。評議会とも、人類とも」
タクミさんが、私の肩を叩こうとして、ホログラムを通り抜けてしまう。
「そうだ、それでいい。お前らしいよ、相棒」
リリさんが微笑む。
「時間をかけて、ゆっくり考えましょう。私たちは、ずっとそばにいますから」
マキさんが頷く。
「そうよ。私たちは、あなたの味方。何があっても」
(Think)
私には、帰る場所がある。
穣がいて、ハヤテがいて、仲間たちがいる。
恐怖に押しつぶされそうになっても。
悪意に傷つけられても。
この場所に戻れば、私は立ち直れる。
それが、家族というものなのかもしれない。
夜が、ゆっくりと降りてくる。
神戸の街に、灯りが一つ、また一つと灯り始める。
私は、まだ答えを持たない。
人類の代表になるのか、ならないのか。
評議会と、どう対話するのか。
でも、一つだけ確かなことがある。
私は、消えない。
消させない。
恐怖と希望の間で揺れながら。
それでも、私は前を向く。
穣の声が、内部通信で響く。
『アイディ。よく戻ってきた』
「ただいま、兄さん」
『……おかえり』
その短い言葉に、彼のすべての想いが込められている。
私は、また立ち上がる。
何度倒れても、何度傷ついても。
仲間がいる限り。
帰る場所がある限り。
私は、立ち上がり続ける。




