第12話 彩花とのデート
日曜日、駅前。
まだ待ち合わせ時間の十五分前だというのに、すでにそこに彩花の姿があった。
「えっ、十五分前だけど……もう来てたの?」と一人。
彩花はパッと笑顔を咲かせる。
「はいっ!! 今日、楽しみで……少し早く来ちゃいました。」
黒のトップスにトレンチ風ジャンパースカート、足元はブーツ。普段の制服やナース服とはまるで違う、少し背伸びした“デート仕様”の装い。
一方の一人は――Tシャツにジーンズ、スニーカー。普段通り。
「じゃあ、どこか行きたいとこある?」と一人。
「そ、その……お任せします……」と彩花。
一人は彼女の姿をじっと見つめ、ふと微笑む。
「いつも制服とかナース服しか見てなかったからさ。今日の装い、とっても可愛いね。」
「……あ……あ、ありがとございます……」
彩花は顔を真っ赤にし、思わず俯く。
一人は彼女のブーツに目をやり、少し考え込む。
「じゃあ、歩き回らなくても楽しめるプランにしようか。映画見て、食事して、それから室内型のアミューズメントパークとか。食事はその時の気分で決めよう。」
「はいっ!」
(ひ、一人さん……私のこと気遣ってくれてる!! うれしいっ)
「じゃあ、行こうか。」
二人は映画館へ向かった。
――映画館。
スクリーンの光が瞬くたび、彩花は隣に座る一人の横顔を盗み見る。
胸がいっぱいで、内容なんてまるで頭に入らない。
(ううっ……一人さん、サマエル様……彩花、幸せすぎます!!)
上映が終わり、映画館を出る。
「面白かったね」と一人が微笑む。
「はいっ!」
――正直、まったく覚えていない。それでも彩花の顔は、太陽みたいに晴れ晴れとしていた。
「じゃあ、食事に行こうか。何か食べたいものある?」
「そ、その……お任せします。」
「じゃあ、パスタとか? どうかな? それとも……きつねうどんとおいなりさん?」
彩花はムッと頬をふくらませる。
「あっ、一人さんひどい! ステレオタイプすぎです! 女子ならパスタ一択ですよっ。ふふっ」
「そうなんだ。でも、あそこのうどん屋、美味しいんだ。店内もおしゃれで! 次のデートはそこ行こうよ。」
「はいっ!」
二人は近くのパスタ店に入り、一人はペペロンチーノ、彩花はカルボナーラを注文。
談笑に花が咲く。
学校のこと、趣味のこと――一人は映画、彩花はゲームやイラスト。さらに、将来は病院を継ぐために勉強していることなどを語った。
「すごいね、もう将来のこと考えてるんだ。僕なんか全然考えてないや。」
「えっと……この前……うちに婿……いえ、やっぱりなんでもありませんっ!」
彩花は顔を真っ赤にして、慌ててパスタを口に運ぶ。
すると一人がふと呟いた。
「……うん。そうだね。あの約束、守らないとね。」
その瞬間、彩花は驚きすぎてパスタを吐き出した。
「ごふっ、ごふっ、ごほん、ごほん! あっ、ごめんなさい、ごめんなさい!」
慌てて立ち上がり、一人の顔についたソースを拭く彩花。
一人はそんな彼女を見て、静かに微笑んだ。
「ふふっ……少し考えさせてね。なんとかするから。」
「は、はい……」
恥ずかしさと嬉しさとで、彩花は俯いたまま、それ以上何も言えなかった。
休日の午後、二人はアミューズメントパークにいた。
ジェットコースターに乗って、急降下、急旋回で絶叫したり、ホラー系のお化け屋敷で彩花が小さな悲鳴を上げて一人の腕にしがみついたり。
(わ、わたし……一人さんの腕に掴まってる……!)
彩花は自分の鼓動の速さに驚きながらも、離せずにいた。
ゲームコーナーで一人が取ってくれた小さなぬいぐるみを抱きしめ、彩花は笑顔を見せる。
「ありがとうございますっ……!」
夕方が近づき、空はオレンジ色に染まっていく。
「じゃあ、そろそろ帰ろうか。」
「はいっ。」
二人は並んで歩き出した。
通学路に差し掛かると、いつもの景色がどこか違って見える。
「そういえば……ここで手紙くれたんだったよね。」
一人がふと思い出したように言う。
「あっ……は、はい……」
彩花の顔は夕焼けよりも赤く染まっていた。
周囲には誰もいない。二人だけの空気。
「あのさ……今からサマエルに変わるね。それと……僕の気持ちも同じだから。」
「えっ……」
彩花は思わず足を止める。
一人の佇まいが一瞬で変わった。
闇をまとい、背筋を伸ばし、声も低く響く。
「よっ。今日は楽しかったか!!」
「あっ、はいっ!」
戸惑いながらも彩花は頷く。
「この前はありがとな! おかげで助かったぜ。」
「あ、私のほうこそ……」
サマエルは口角を上げ、ニヤリと笑う。
「ふふ。まあ助けようとして助けられたんじゃ世話ねえが……お前には借りがある。それに、度胸のある女は好きだ。」
「えっ……」
彩花は鼓動が早くなるのを感じた。
「俺は“自分の女”は、何があっても守る。だからお前が殺されることはない。安心してくれ。今度は“俺”メインでどっか行こうぜ。」
「えっ、“自分の女”って!! あわわわわわ……」
彩花の顔は真っ赤になり、手がぶるぶる震える。
「いやか? そうじゃなければ、そういうことだな。」
サマエルはためらいなく、彩花を抱きしめ、そのまま唇を重ねた。
夕焼けの下、二人だけの世界。彩花は目をぎゅっとつむり、体が熱くなるのを感じた。
そして数秒後――
「えっ、これ! このタイミングで戻るの!!」
気づけば目の前の彼は一人の姿に戻っていた。
「そ、その……サマエル様……」
彩花は乙女モード全開で、両手を胸に当てていた。
「ご、ごめん。今、一人なんだ。」
「そ、その……どちらも好きです。同じ気持ちなんですよね……?」
「う、うん……」
(一人:えっ……いい友達って話じゃなかった。それで、なんとか解決しようって……)
(サマエル:そんなカッコ悪い真似できるか? 命かけて守ってくれた女に!そのくらいの甲斐性みせろよ。)
(一人:ま、まあそうですけど……)
彩花は勇気を振り絞って、一人を見上げた。
「じゃあ……私たち、もう恋人ですよね。」
夕暮れの風が二人の間を吹き抜ける。
その瞬間、二人の距離は、もうどこにもなかった。
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