第9話 診察結果
「うーん……」
一人が重たい瞼を開けると、見慣れぬ天井が目に映る。
……そうだ。ここは病院。昨日は検査漬けで、最後に薬を飲まされ――。
「目が覚めましたか?」
ガラリと扉が開き、ナース服の伊奈が軽やかに入ってきた。
いつもと変わらぬ微笑を浮かべながら、淡々と告げる。
「診察の結果が出ましたので、もう少ししたら診察室に行きましょう」
(……なんか嫌な予感しかしない)
そう思いながら身支度を整えていると、今度は小柄な影がドアを開けた。
「し、失礼しますっ!」
真っ赤な顔で飛び込んできたのは――彩花だった。
きゅっと背筋を伸ばし、ナース服に身を包んだその姿は、どう見てもまだぎこちない。
「じゃ、じゃあ……ご案内しますね……」
耳まで真っ赤にしながら、目を合わせてこない。
「昨日は……す、しゅみませんでしたっ」
噛み噛みの謝罪に、一人は思わず吹き出しそうになる。
「ううん。彩花ちゃんの真剣な気持ちと、一生懸命さ、ちゃんと伝わったよ。だから、あんまり無理はしないで」
(サマエル:おいおいおい! なんで余計なこと言うんだ! 馬鹿なのか!)
「……っ」
彩花は胸を押さえて、顔を真っ赤に染めながら俯いた。
(ど、どうしよう……好きすぎて、まともに顔が見れない……!)
やがて診察室へと案内される。
そこには狐坂先生と、ナースの伊奈が待っていた。
「座って」
狐坂先生が淡々と促すと、一人は椅子に腰を下ろす。
「本来なら、ご家族を呼んで説明すべきなんだけど……時間がないから単刀直入に言うわ」
先生はペンを置き、真っ直ぐに一人を見た。
「――このまま放っておいたら、あなた、もうすぐ死ぬわ。内臓に疾患があるの。緊急手術をします。そのまま京都の専門医のもとへ夕方には移送するわ。いい?」
「……え?」
空気が凍りつく。
さらに追い打ちをかけるように、先生は続けた。
「そして、今後の付き添いと身の回りのお世話は――彩花に任せます。いいわね、彩花」
「は、はいっ! 先生!」
彩花はきゅっと拳を握りしめ、必死に返事をした。
「ちょっと待ってください! そんな急に……」
一人が声を上げるが、陽子は冷静に微笑む。
「スケジュールの都合上、今日しかないの。手術自体は簡単。問題は術後の経過ね。……年単位になるわ」
「……っ」
「伊奈、準備を進めてちょうだい」
「はい」
伊奈は無表情のまま頷くと、足早に部屋を出て行った。
――そのとき。
(サマエル:……かなり怪しいな。お前、逃げる準備をしておけ。もう少ししたらアグラットたちが来るはずだ)
一人の頭に、冷たい声が響く。
(サマエル:一応、ここで俺と入れ替わる。……ここから先は、お前じゃ無理だ)
「……っ!」
視界が揺れ、胸の奥から何かがせり上がってくる。
次の瞬間――彼の瞳は、別の意思を宿していた。
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