第7話 小さな恋のものがたり
翌朝・病室
「お食事お持ちしました……」
可愛らしい声とともに病室に入ってきたのは、ナース姿の彩花。
昨夜、一晩同じ部屋で過ごしたせいで――顔をまともに見られない。
(ど、どんな顔してお世話すればいいの……お母様、“自然体の方が庇護欲をそそる”なんて言ってたけど……教えてくれなかったよ〜!)
顔を真っ赤にしたまま、ぎこちなくスプーンを差し出す。
「ど、どうじょ……」
だが、俯いたままなので――。
「……あの〜そこ、口じゃなくて目なんだけど」
「ひゃっ! ご、ごめんなさい!」
慌てて立ち上がった拍子に、料理をベッドにぶちまけてしまった。
「ご、ごめんなさい……ごめんなさい……」
涙目で繰り返す彩花。
「ちょっと、手は大丈夫? 火傷してない?」
一人は思わず彩花の手を取り、確かめる。
(サマエル:やめろーーーーーー!)
しかしもう遅い。
「よかった、火傷してないみたいだね。ご飯は……正直、食欲なかったから、ちょうど良かったよ」
一人は優しく微笑んでみせた。
(サマエル:あーあ……またやったな。俺、止めたからな。知らないからな!)
彩花は――。
顔を真っ赤にして、言葉を失う。
「一人さん……わ、私……」
(りゃめりゃ〜……すきすぎて……顔を見れにゃい〜……!)
心の中で呂律が回らなくなるほど、その微笑みに撃ち抜かれていた。
同時刻・一人のマンション
澪、亜紀、永遠、伊空が朝食を囲んでいる。
「そろそろ検査の結果が出るはずだ。入院なんて必要ない。これ以上、あの病院に置かせるのは危険だ」
澪の表情は険しい。
「えっ、そんなにヤブなの?」と永遠。
「ヤブじゃない。……人外が経営してる病院よ」
伊空がきっぱりと言い切る。
「そうそう。人外の強い男って、だいたいイキってて、女に雑な扱いするやつが多いじゃない。でも一人は元が人間だから、優しいし、包容力があるのよ」
亜紀が口を挟む。
「強いのに、自分に優しい。しかも“そのままの自分”を受け入れてくれる。――もう、人外女子の理想が全部詰まった男ってわけ。そんなの、人外ナースたちが指くわえて見てるはずないわ」
病室
「失礼します……」
彩花が再び入ってきた。
「じ、じゃあ……お、お着替えでしゅ」
声はカミカミ。朝の失敗を引きずっているらしい。
「着替えるから外で待ってて」
「だ、だぁめでしゅ! わちゃしが……お手伝いしましゅ!」
「いいんだよ。無理しなくても。このくらい自分でできるし……」
「だめでしゅ! わたしぎゃ――」
広げた衣服に、彩花は思わず悲鳴を上げた。
「ひゃっ!!」
そこにあったのは、男物のパンツ。
「……これは、自分で履くから。彩花ちゃんに世話してもらうのは、さすがに気が引けるよ。ねっ?」
「……はい……」
小さく俯いて頷く彩花。
(お母様……ごめんなさい……)
だが病室の外で、その様子を伺っていた狐坂陽子は、静かに笑みを浮かべる。
「ふふっ……我が娘ながら、上出来よ。この初々しさ、人外には真似できないもの。男の庇護欲をこれ以上刺激するものはないわ。――もうすぐ“あのお方”がお見えになる頃だし……」
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