第4話 モテ期ッッッッッ!!
その日の朝。
祓川高校へと向かう通学路。
一人を中心に、亜紀、永遠、澪、伊空という豪華な顔ぶれが並んで歩くその姿は、もはや近隣の名物と化していた。
「一人ハーレム」――男子生徒たちの羨望と嫉妬を一身に集める伝説の光景。
内実はドタバタで平和どころじゃないのだが、外から見れば眩しい青春絵巻にしか見えない。
乾いた朝の空気が、心地よく肌を撫でる。前後には同じ制服の高校生たち。さらには中学生も混じっていた。
――その時。
前方十メートルほど先に、ふたりの女子生徒。
まだ幼さを残した顔立ち、祓川中学の制服。
ひとりは黒髪ロングの清楚な少女。もうひとりは柔らかなブラウンのボブカット。
あどけないその姿は、どこか小動物めいて愛らしい。
黒髪の子が、ボブの子の肩に手を添え、まるで「大丈夫だよ」と背中を押すように寄り添っている。
そして次の瞬間。
「こ、これ!! 読んでください!!」
ボブカットの少女が真っ赤な顔で一人の前に飛び出し、小さな両手で手紙を突き出した。
その瞬間、通学路の空気が止まったように感じる。
「え、あ……」
あっけに取られた一人は、反射的にそれを受け取ってしまう。
少女はそれだけで力を使い果たしたように顔を覆い――
「渡しちゃった♡」
黒髪の子のもとに駆け戻り、はにかむように笑う。
「うん、頑張ったね」
そう言って肩を抱く黒髪の子と一緒に、彼女は振り返ることなく走り去っていった。
その時――。
黒髪とボブの少女たちが角を曲がる瞬間、朝日を浴びてふと、影が揺らめいた。
猫のような耳と尻尾。
もう一人には狐めいた耳と尾。
――それは一瞬の幻だったのか。
確かに見えた、不思議な“しるし”を残して、ふたりは通学路の先に消えていった。
一人の手には、まだ温もりの残る小さな封筒だけが残されている。
放課後の映画研究部の部室。
カーテンの隙間から差し込む夕陽が、机の上の空き缶やお菓子の袋をオレンジ色に照らしていた。
その中央に、男子ひとり――いや、“一人”が囲まれて座らされている。
取り囲むのは澪、永遠、亜紀、伊空、そしてりり。
女子陣の視線は、どれも熱気と刺々しさを帯びていた。
澪が額に手を当て、こぼすように言った。
「今まで、他の人外が寄ってこないように、一人に護符を持たせてたんだけど……あれって敵意や悪意があるやつには効くんだ。でもさ、今日みたいに“好意”で寄ってくるやつには、無効なんだよな」
亜紀が肩をすくめる。
「ていうかもう護符は無意味だよ。あの“闘い”が異世界とこっちの人外界で放送されて、一人=サマエルって図式が完成してるんだもん。強い男好きな人外女子は、ほぼほぼ一人狙い」
永遠はストローをくわえながら淡々と。
「人外のモテ基準って、結局“強いかどうか”。それだけでしょ」
澪が頭をかかえる。
「説教シーンを公開するしかないかな……。でもあれ、私たちも巻き添えでダメージ食らうんだよね。しかもかなり」
亜紀は即答した。
「やめときなって。寄ってくる女に口実与えるだけよ。“私ならそんな束縛しない”って。どうせ嘘。独占したいだけに決まってるんだから」
りりが苦い顔で言う。
「この前さ、全然話したことない別クラスの子に、“紹介してよ”って頼まれたんだ。もちろん断ったけど」
亜紀が深く頷いた。
「そう。高校生なら牽制もありだけど、今日みたいに中学生が相手だと……牽制したら余裕のない女に見えちゃうのよ。しかもさ、自分の気持ち伝えたいだけの子だと特に。……いじらしいじゃない」
「………………」
伊空は視線を泳がせながら、ただ黙って小さく頷くばかり。
経験不足ゆえ、言葉を差し込む余地がない。
亜紀がさらに畳みかける。
「しかも最近、一人がサマエルに交代してる瞬間あるでしょ。体育とか、テストとか。で、この前は絡まれてた女子助けたって噂。少しずつ人間女子からの人気も上がってきてるの、気になるんだよね」
永遠が目を丸くする。
「あ、そうなんだ。なんかお礼言いに来てたもん」
一人は思わず手を挙げた。
「あの〜……そういう話、僕の前でしないでくれる? 僕がいないところでさ」
(わっ、バカ! 今それ言うのは大火傷だぞ!!)
心の中のサマエルが慌てて叫んだが、時すでに遅し。
亜紀が机を叩いて立ち上がる。
「はぁ!? あんた一人で帰宅させたら、途中でまた新しい女つくるでしょ。ここにいなさい!!」
澪も鋭い声で追い打ち。
「誰のせいでこんな状況になったと思ってるんだ。お前は黙ってここに座ってろ!」
りりは冷え冷えと。
「……学習能力ゼロだよね」
永遠は何も言わず、ただ口角をわずかに吊り上げて笑っている。
だがその瞳の奥には──
(これ以上、増えたら……消す)
と冷徹な決意が透けて見えた。
伊空は必死にフォローを入れる。
「いいよ。これからは、一人のいないところで話すようにするから」
澪が鋭く指差す。
「お前な、またそんなポイント稼ぎして……一人、気をつけろ。コイツ、ほんとは全然そんなこと思ってないからな」
一人は机に突っ伏した。
「……………………」
(もう、帰りたい……)
(間違っても、それ口に出すなよ。いいな?)サマエルの声が冷たく響く。
(……はい……)
こうして部室は、夕暮れを過ぎてもなお熱気を失わず、意味のない会議が一時間以上続いたのだった。
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