第2話 亜紀 ―龍が如く
あの大立ち回りから一週間後。
「無理言って許可もらったんだ〜。今日は一人じゃなくて、サマエルとデート♡」
……と、なぜか舞台は焼肉屋である。
カルビを白飯でかき込む亜紀。
「店員さ〜ん! ビール追加で!」
「はーい!」と威勢のいい声。
一方でサマエルは眉をひそめる。
「よりによってなんでこの店なんだ。もっと高級店があるだろうに……」
聞いてないふりしながら、肉と白飯を交互に掻き込む亜紀。
「喋ってないで、あんたも食べなよ」
「……流れ着いたこの世界で魂に制約受けて……お前の行きつけの焼肉屋か。なんか惨めになってきたな」
「何が惨めなのさ。ほら、早く食べないと焦げるよ。――店員さーん、ホルモン追加ね!」
「はーい!」
「はあ……最近は食欲もなくてな。特に脂っこい肉は胃が受け付けん」
ため息をつくサマエル。
亜紀はビールをグイッとあおる。
「ドラゴンの肉で白飯食ってた時代が懐かしいぜ……もう戻れんのか」
寂しげに目を落とすサマエル。
ジュウジュウ、と網の上でホルモンが焼ける。
「毎日がギラギラしてたあの頃には……」
店員が皿を置く。
「はい、ホルモンです!」
亜紀は黙ってホルモンをすべて網に投下。
そして――丸焦げになったそれを、サマエルの皿に置いた。
「ほら、食べなよ」
「なんだこれ!? 丸焦げだぞ!」
「そのホルモンと同じだよ。あんたも私も」
「……はっ?」
サマエルは真剣な目を向ける。
「肉は焼きすぎたら食えたもんじゃない。でもホルモンは違う。焼かれてこそ価値があるの」
サマエルはおそるおそる焦げたホルモンを口に入れる。
「……ほう。旨い」
「じゃあ次はこれ」
今度は半生のホルモンを皿に置く。
サマエルは食べて、即座に吐き出しかけた。
「ぶっ……これ生焼けじゃないか! 喰えたもんじゃない!」
「でしょ? 生焼けのホルモンなんて誰も食べられないの」
亜紀は静かに言う。
「もっと焼かれなきゃいけないんだよ。私たち悪魔は」
サマエルの目が細くなる。
「……俺らはホルモンみたいなクズってことか」
「そうだね。でもクズは焼かれて焦げて、真っ黒になってやっと価値が出るんだ。悪魔はその当たり前を忘れてる」
彼女は寂しげに続けた。
「義妹たちと約束したの。みんなでサマエルを支えるって。そのためなら、何年でも自分を焼く覚悟がある」
サマエルは目を閉じ、ぽつりと呟く。
「……すまんな」
――ジュウジュウ。
肉が焼ける音だけが、静かな店内に響いた。
◇
その様子をインナースペースで眺めていた“一人”は、青ざめた顔で言葉を失う。
「……えっ、なにこれ。なんで焼肉屋で“ゲームのパクリ”みたいな話してんの……?」
彼の困惑が、心のなかで木霊していた。
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