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第73話 スポーン

 高校上空。


 光と影が激突するその戦場では、レヴィとアグラットが互いの全力をぶつけ合っていた。

「おらぁっ!」


 鋭い踏み込みとともにレヴィが突進。間合いを一瞬で詰め、鋼鉄の拳を振り下ろす。


「ちょっと、せっかちすぎるんじゃない?」

 アグラットはひらりと後退し、宙に無数の魔法陣を展開する。次の瞬間、雨あられのように光弾と業火が降り注ぐ。


 轟音。閃光。


 しかしレヴィは表情を崩さず、空気を切り裂く身のこなしでそれを回避し、再び肉薄。

「はぁっ!」

 拳が閃く。だがアグラットは寸でのところでかわし、また距離を取る。



 ――一進一退。だが、徐々に流れは傾いていた。


「……っ」

 焦りを隠せないアグラット。広範囲魔法の展開は集中力を要求する。


 息が乱れ、魔力のリズムが僅かに崩れる。


 そこをレヴィは見逃さない。


 拳が閃光を突き抜け、アグラットの肩口にめり込む。

「ぐぅっ……!」

 鮮血が宙を散った。


「……ふふ、でも。そろそろいい頃合いなんだけど」

 不敵に笑うアグラット。その言葉に、不吉な気配が漂いはじめた。




 ――同時刻。



 教室の中。


 イゾルデを抱きしめていたサマエルが、ふと腕をほどいた。


「悪いな。そろそろアグラットの所に顔出してくる。イゾルデ、この教室に結界を張っとく。絶対に出るな。わかったか?」


「……うん。でも」

 イゾルデの声はかすれたが、サマエルは振り返らない。


「迎えに来る。すぐにだ」


 そう告げると、彼の身体を漆黒の影が覆った。


 闇が肉体に貼りつき、筋骨隆々の異形へと変貌していく。


 全身は血を浴びたような暗赤に染まり、青いラインが脈動のように走る。


 頭部には巨大な眼を思わせる意匠、口はなく、マントは裂けた血布のようにたなびく。鎖が鎖骨を軋ませ、金属音を響かせた。



「……おい。この世界の悪魔って、こんな感じなのか? 一人のイメージらしいんだが」

 自分の姿を見下ろしながら、サマエルが鼻で笑う。



 その瞬間、教室の隅で腕を組んでいた永遠が、腹を抱えて吹き出した。


「ぎゃはははは! ぷっ、それ、確かに超有名な悪魔をモチーフにしてるわ! わはははは!」

 泣き笑いで腹を抱え、永遠は床にへたり込むほど笑う。

 

 さっきまでの殺気はどこへやら、完全に笑いのツボが入ってしまったようだ。



 サマエルは片手を伸ばして自分の鎖を撫でるようにし、冷ややかに言う。

「そこ、笑うところか?」



 永遠は笑いをこらえつつ、顔を上げる。


「まあ、ヴァンパイアのくせにヴァンパイアハンターのコスプレしてる私が言うのもなんだけどね。いいよ、かっこいい。うん」

 永遠は肩を竦め、笑いを収めてそう告げる。



「そうか。ならいい」

 サマエルは踵を返し、窓の外に目を向ける。


 鎖が揺れ、破れマントが夜風を裂いた。

「じゃあ、行く。アグラットを助ける」



 その背中には、俺様の矜持と、不遜な決意が滲んでいた。



 ――闇を纏った悪魔、サマエル。


 高校上空の戦場へと、その影は飛び立つ。



 屋上の空気が裂けた――アグラットの身体はもう限界に近く、魔力の炎がちらつき、足元が覚束ない。


 レヴィアタンは冷徹にその隙を突き、拳を引き絞るようにして振り下ろした。

「これでとどめよ!!」


 雷鳴のような叫びとともに拳が迫る。アグラットは顔をしかめ、視界が赤く滲む。



――その瞬間、世界のコマが一つ、ずれて見えた。


 赤い影がスローモーションで拳と拳の間に滑り込む。


 レヴィの拳はそこで止まり、空気がはじけて小さな爆音が上がる。


 赤い影の正体は――サマエルだった。血のように暗いマントと、禍々しい鎖の欠片が月光を反射する。

「すまん、遅れた。」


 サマエルは肩の力を抜いて、まるで道草から戻ってきたかのように淡々と言った。


「ほんと 遅すぎ 死ぬとこだったよ。これ貸しだからね」

 アグラットはふらつきながらも、サマエルに手を伸ばす。



 言葉に混じる安堵は、少しだけ女王らしい柔らかさを取り戻していた。


 レヴィは眉を鋭く寄せる。

「くっ 変な姿だけど、あんたサマエルね。」と睨みつけるように言う。



「――ああ、久しぶりだな、レヴィ。 この辺で収めちゃくれないか?」

 サマエルの声は、いつもの俺様調で、しかしほんの少しだけ気遣いが混じる。



「いいわね。その体を一人君に返したら、考えるわ。」


 レヴィの言葉は刃のように冷たい。彼女の視線は、サマエルの異形の姿ではなく、そこにいる“彼”の本質を見据えていた。



「それは、難しいな。でも同じだぞ。俺もあいつも」

 サマエルは首をかしげるようにして言う。

 その傲慢さに、どこか茶目っ気が滲む。



「そう? 一人君のほうが、包容力があると思うけど…」とレヴィが続ける。


 サマエルはふっと笑い、背後のアグラットに向けて問いを投げる。

「そうか?アグラット、お前どう思う?」



 アグラットは、静かに笑った。

「ごめん サマエル。あんたの男らしいとこも、いいけど、包容力と優しい一人も好きなんだ。いいよね〜おんなじだから。1粒で2度美味しいみたいでいいじゃん」

 アグラットの言葉は、じつに無邪気で、致命的だ。



「うわ〜凹むわ〜 嫁から言われると」

 サマエルがしょんぼり(してるように見えるが、計算なのだろう)すると、レヴィが怒りを込めて蹴りを放った。


 赤い影の上半身が地面を抉るように吹き飛ぶ。


 だが、空中で鎖が巻き付き、サマエルはスマートに体勢を整える。


 風に翻るマントの端が、月光を切り裂いた。


「くそっ 相変わらず強いな。仕方ない、主義には反するが、相手してやる」

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