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第72話 王の帰還

 パワードスーツの推進音を響かせ、イゾルデは夜空を切り裂いた。


 一直線に――一人のいる教室へ。


 窓を突き破り、着地。振り返った一人の瞳が大きく揺れる。

「誰……? その姿……」


 だが、言葉を遮るように、装甲がひとつずつ音を立てて解かれていく。


 金属の光が消え、そこに立つのは――ただの少女、イゾルデ。


「私よ」

 震える声で、しかし迷いなく言った。


「助けに来たの。もう大丈夫だから」



 そのまま駆け寄り、彼に抱きつく。


 昨日まで、ろくに男子と話したこともなかった自分が。


 それなのに――我慢できず、唇を重ねてしまった。

(……私、どうしちゃったんだろ)


 大胆すぎる。だけど、この胸に溢れる想いを抑えることはできなかった。



「いい? あんたの中のサマエルを――解き放つ」

 イゾルデの声は震えて、それでも強く響いた。


「もしあんたに何かあったら、私も一緒に死ぬ。ひとりになんてしてやらない。覚悟してよね……! 私をこんな気持ちにさせたんだから。絶対、責任取ってもらうんだから!」


 一人は小さく笑みを浮かべ、うなずいた。

「ふふ……うん。任せる」


 次の瞬間、一人の足元に魔法陣が展開し、光が脈動を始める。



 その様子を、王城の大広間でも目撃していた。

「まさか……すでにイゾルデはサマエルの眷属なのでは!?」


「いますぐ契約紋を起動させろ!」



 普段は動じぬ聖女ですら、焦燥を隠せず声を荒らげる。

「早く! このままでは――!」


 やがて、イゾルデの首筋が青白く光を放ち始めた。

 一人の魔法陣の輝きがすっと消失し――成功を示すかのように。

(……ああ、最後にいい思い出ができたな)



 イゾルデは覚悟を決め、微笑みさえ浮かべた


――その刹那。


「――させるかッ!」

 ドラコが咆哮し、爪を構えてイゾルデへ飛びかかる。



 だが。


「俺の女に――何しやがるッ!!」

 轟音と共に、鉄拳が炸裂。


 ドラコの巨体は一撃で校舎を突き破り、外へ吹き飛ばされた。


 教室に立つその男の姿に、誰もが息を呑む。


 目つきは鋭く吊り上がり、髪は逆立ち、威圧感と自信に満ち溢れている。



 ――彼はもう、一人ではない。サマエル、そのものだった。

「よう。世話になったな、リリス。……久しぶりだな」


「えっ……わ、私……?」

 イゾルデが声を詰まらせる。だが返答する暇すらない。


 サマエルはイゾルデを抱き寄せ、その首筋に目を留める。

「……会いたかったぜ、リリス。ん……その首筋、まさか……!」


 両肩を強く掴み、壁際へと追い詰める――壁ドン。


 至近距離で、俺様の笑みが射抜いてくる。


「えっ、えっ……」

 顔を真っ赤にし、乙女モード全開のイゾルデ。


 そのまま、観念したように目をつむった。


 ゾルデの首筋に――サマエルの唇が軽く触れた。


 空気が、ほんの一瞬だけ甘く尖る。

「いや、まだ昼間だよ。私、少し汗臭いし…」とイゾルデが恥らって俯くと、サマエルはにやりと笑って首を離した。



「うん。ほら、これでいいぞ。契約紋、取れた。」

 イゾルデはぷうっとふくれっ面を作る。可愛い顔である。


「うー、私、リリスじゃなくて、イゾルデなんだけど。」


「えっ、あれっ、その腕輪はリリスのだけど、なんで?」とサマエルが首をかしげる。


「亜紀ちゃん……アグラットにもらったの」と不機嫌そうに答えるイゾルデ。


「えっ、あいつここにいるの?」とサマエル。


「うん……少し記憶の整理がいるな」とサマエルは小さく目を細める。



 そこへ永遠が颯と現れ、空気がピキリと張り詰める。

「ふーん、それがあんたの新しい女ってわけ。説明してもらうよ」と、キレ気味にサマエルへ詰め寄る。



 サマエルは片手を上げて静止するような仕草をした。

「俺はな、女には手を出さない主義なんだ。少し待て。」



 「はっ、誰に向かってもの言ってんのよ。一人のくせに。少しお仕置きが必要ね!」と永遠は刀を振りかざし、サマエルへ襲いかかる。


 しかしサマエルは軽く躱して、にやりと笑う。

「だから、少し待てって。まったく、ナアマみたいだな。おっと、内緒にしてくれよ。怒ったらマジで殴るから、あいつ。うん。」



 その様子を見て、一人(サマエルの中にいる別人格)がふう、と肩を落とす。

「あ〜、だいたいわかった。うわ〜、荒んでんな〜。お前ら、めちゃくちゃだぞ」と半ば呆れた声を漏らす。



 サマエルは首筋をかきながら、イゾルデの方へ向き直り、ぎゅっと抱きしめる。

「すまん、イゾルデ。助かったよ。何があってもお前を守る。安心してくれ。」



 イゾルデは嬉しそうに頬を緩ませて、すがりつくように顔を埋める。



 乙女モード、全開である。



 永遠はそれを見て、目をぎゅっと見開いた――怒りが顔を歪ませる。


「うぎっ―――――殺す、あんた、殺す!」と叫ぶと、勢い余って刀を振り、サマエルの背に突き刺した。



「痛いんだけど…」とサマエルは平然とした声で言う。血は出ない。彼の笑みは消えない。



「少しは目が覚めた」と永遠は冷たく言う。


 サマエルは肩に手を当て、困ったように首を傾げる。

「でも、助けてもらって礼を言わないのはどうなんだ? それと、今のはやり過ぎだ。DVだぞ。俺は紳士だから自分の女には手は上げないけどな。」


 永遠はぐっと睨みを返す。

「私は、一人の女で、あんたの女じゃない。一人を返せ」と鋭く言い放つ。



 サマエルはふっと笑い、目を細めて答える。

「同じだ。どちらも同じだ。しかもこれは――今、一人の人格も見聞きしてるぞ」と、にやりと余裕を滲ませる。

☆ここまで、読んでくださり、感謝いたします。

最終話まで、後数話。


日曜日に完結します。

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今後もよろしくお願いします!



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