第69話 アイアンマン(1)
祓川高校――その上空。
夜の空に浮かぶ四つの影が、月光を背に睨み合っていた。
「嫉妬の悪魔」レヴィアタン。
「不死の魔女」モルガディア。
「魔女の女王」アグラット。
そして――「赤髪の魔女」イゾルデ。
緊迫した空気の中、最初に口を開いたのはレヴィだった。
下で繰り広げられる永遠とドラコの戦いに目を細める。
「……すごいわね。永遠ちゃん。あの感じなら――勝てるかもしれない」
すぐそばで戦意を燃やす澪が答える。
「なら……こっちも始めましょう。レヴィさん。アグラットを、私にやらせて下さい」
「……いいけど、彼女はあのメンバーの中で一番強いわよ? 本気で言ってる?」
「はい。昨日……どうしても決着をつけたいことができたんです」
「……わかった。危なくなったら助けに入るから」
一方その頃。
アグラットとイゾルデは、ひそやかに作戦を交わしていた。
「いい? 私が先制攻撃で時間を稼ぐ。その隙に一人のもとへ行って。封印を解けるのは、あなただけだから」
「……わかった。全速力で行く。」
そう言い終えるや、アグラットは両腕を振り上げた。
詠唱すらない。無数の魔法陣が一斉に空中に展開され、光線が嵐のように放たれる。
その瞬間、イゾルデは箒に乗り、一直線に地上の校舎を目指した。
しかし――モルガディアも黙ってはいない。
「甘いわよ!」
炎を纏った魔法陣が彼女の周囲に幾重にも展開され、咆哮のような業火を吐き出した。
光と炎が衝突する。
天地を裂く閃光と衝撃波。轟音が夜空を震わせ、大爆発が広がった。
「しめた! これで目眩ましになる――!」
イゾルデは一気に高度を上げ、突破口を狙う。
だが、その進路を塞ぐように、影が立ちはだかった。
「……どこに行くつもりなのかしら?」
レヴィ――。
イゾルデの血の気が一気に引いた。
眼前にいるのは、最悪の相手。
「嫉妬の悪魔」――自分が勝てるはずのない存在。
「……すぐに終わらせるわ」
レヴィが片手をかざす。指先から迸る光弾が、狙い違わずイゾルデへと放たれた。
「しまった、イゾちゃん!」アグラットが振り返る。
しかしその瞬間、モルガディアの業火が雨のように襲いかかる。
「よそ見してるんじゃないわよ!」
アグラットは応戦に追われ、イゾルデを助ける余裕はなかった。
無数の光弾がイゾルデに突き刺さる。
轟音と共に大爆発が巻き起こり、夜空に黒煙が広がる。
「終わったかしら……?」
レヴィの視線が煙を貫いた瞬間――。
「……なに、あれ?」
煙の向こうに立っていたのは、予想もしなかった姿だった。
イゾルデを中心に、魔法陣の結界が幾重にも展開され、まるで護るように彼女の周囲を覆っていたのだ。
その中で、イゾルデ自身も息を呑む。
「え……何、これ……?」
彼女の腕から、肩から、背から――。
無数の機械的な装甲がせり上がり、赤髪の魔女の身体を包み込んでいく。
鉄の羽音と共に、全身を覆うスーツが完成する。
視界が暗転し、次いで鮮やかな光のモニターが眼前に広がった。
ヘルメットの内側に、情報を映し出す複数のホログラム。
次の瞬間、夜空に鉄の轟音が鳴り響いた――。
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