第67話 リリスVS アウレリア
祓川高校――屋上。
夜風が吹き抜ける闇の中、二人の女が対峙する。
「失楽園の悪魔」リリス。
対するは、
「ドラゴニュート」のアウレリア。
互いに無言のまま間合いを詰め、緊張が弦を張りつめるように膨れ上がる。
「ちゃちゃっと片付けて、一人のところに行くわ」
リリスが挑発的に笑う。
「ふん、やれるもんならやってみな」
アウレリアは長槍を正眼に構え、一息で踏み込む。
槍が閃き、鋭い突きが空を裂く。だが、その一撃は空を切った。
――リリスの姿が掻き消えていた。
「くそっ、速い!」
アウレリアは舌打ちしながら再び槍を構え直す。
その槍身が淡く震えた。
「ロンゴミアント――伝説の聖槍」
呼応するように、槍先が白光を帯び、瞬く間に眩い光源へと膨れ上がる。
「っ……まずい」
リリスが初めて眉をひそめる。
次の瞬間、解き放たれた光が空を裂いた。
轟音と共に放たれる高出力の光線。
夜空は一瞬で白昼のように輝き、校舎全体を震わせるほどの暴風が吹き荒れる。
グラウンドでは永遠が屋上を見上げて口元を歪めた。
「あっちは派手に始めたわね。……そろそろ、こっちも」
「うむ」
ドラコが低く応じる。
上空では、レヴィとモルガディア、アグラットとイゾルデが対峙し、互いに静かに気配を高めていた。
「派手な武器を使ってるわね。……こっちも行きましょうか」
レヴィが冷笑を浮かべる。
「ですね」
モルガディアが短く返す。
アグラットは小声で仲間へ合図を送る。
「イゾちゃん、打ち合わせ通りに」
「うん」
イゾルデは緊張で唇を噛みながらも頷いた。
その頃、屋上。
「やったかッ!」
全力の一撃を放ったアウレリアが叫ぶ。
息は荒く、槍先はまだ微かに白熱を残していた。
だが――。
「ふん、力はあるけど……使いこなせてないね」
低く囁く声が、背後から響いた。
「っ――!?」
振り返るより早く、アウレリアの背に衝撃が走る。
リリスの掌打が背骨を貫くように叩き込まれ、竜戦士の体は大きく揺らいだ。
「さっきのは幻影よ。本体を見抜けなきゃ、いくら光を撃っても意味がない」
アウレリアの瞳から光が消え、槍がカランと音を立てて転がる。
そのまま膝から崩れ落ち――意識を手放した。
あまりにあっけない幕切れ。
リリスは肩をすくめ、指先の魔力を払うように夜空へと手を伸ばした。
同時刻 異世界 ― コロシアム
満員の観客席は、怒号と歓声で地鳴りのように揺れていた。
石造りのコロシアム中央には、魔導投影装置によって別世界の戦いが映し出されている。
光が空を裂き、夜を昼に変える――その凄絶な一撃に、群衆は狂気じみた熱を帯びた。
「おおおおおっ!」
「やべぇ、ロンゴミアントだぞ! 本物を見られるなんて!」
飛び散るのは紙片――賭けのベットシートだ。
勝ちを確信して歓喜する者、裏をかかれて頭を抱える者、それぞれの悲喜こもごもが入り乱れる。
「くそっ、予想通りじゃねえか!」
「ふふ、やった! この対戦は当たりやすいね!」
歓声の渦が止むことはない。
それはもはや戦いそのものではなく、壮大な見世物としての熱狂だった。
王宮 ― 大広間
王族や高位貴族が整列し、豪奢なシャンデリアの下で静かに投影を見つめている。
賭け事に浮かれる民衆とは違い、ここにあるのは冷ややかな政治の目だ。
「ふむ……順当な結果だな」
「やはり、ドラゴニュートではリリスを止められぬか」
吐き捨てるような声が交錯する中、ひときわ落ち着いた女性の声が響いた。
聖女セラフィーナ――
「ええ、予想通りですね。問題は……イゾルデ」
涼やかな目は、ただ一人の魔女に向けられていた。
悪魔城
漆黒の尖塔が天を突く、魔王サタンの居城。
玉座に腰掛けるその男は、投影された光景を見ながら豪快に笑った。
「はははっ! 祭りの始まりに大きな花火が打ち上がったわ!」
顎に手をやり、赤い瞳をぎらつかせる。
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