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第66話 トワイライト・ウォリアーズ 決戦! 祓川高校

 土曜日の朝。イゾルデのアパート。



「うーん、昨日は飲みすぎたな。なんか股の間がすごい痛いんだけど…」


 半分寝ぼけながらシーツをめくると、血がぱっと目に入る。


「えっ なんで?!」


 隣では、一人がまだ寝息を立てている。


「あーーーーーーー」

 一瞬、頭の中が真っ白になり、昨日の記憶が一気に押し寄せる。


「えっ 何?」と、一人がぼそりと目を開ける。





 それから1時間後。



 小さなテーブルの前に座る二人。


 目の前には、トーストとコーヒー、目玉焼きが並ぶ。


「いただきます。」


「いただきます。」



 テンションは限りなく低め。まるで、昨夜の事件をなかったことにする儀式のようだ。



「あのさ、昨日…」

 顔を赤くして俯くイゾルデ。



「うん…」と、一人。



「あれ、なかった…ことに…しよう…か…」

 小声で、かつ必死に提案するイゾルデ。



「ねっ ノーカンだよ。ほら、私なんかじゃ一人もいやでしょ」

 イゾルデはさらに続ける。



「…………………」


 一人は少し息をつき、意を決したように口を開く。

「確かに流されて、体の関係を持ったかもしれない。でも、それは違います。」



「あなたは、とても素敵な女性です。僕は、これを誤魔化すようなことはしたくない。それは、あなたに対する侮辱になるから…」



 イゾルデの手をそっと握る。

「もっと自分に自信を持ってください。いいですね。」



 ぽーっとなるイゾルデ。

(えっ、なに…もしかして、この人が私の運命の王子様なの?

 もしかしてそういうこと?)



「ごめん。こんな喪女 からかうもんじゃないよ ねっ」

 と、思わず否定してしまうイゾルデ。



「違います、あなたは喪女なんかじゃない。それは違う」と、一人。


 涙が頬を伝う。


「ママ、ありがとう…占い、正しかったよ。死ぬ前に王子様に会わせてくれたんだね。もう悔いはないよ。」

 独り言のように、イゾルデはつぶやく。



「一人、私はあんたを死なせない。必ず守るから。」

 そっと囁くその声に、イゾルデの胸は跳ねる。


 イゾルデは、一人のそばに立ち、唇を重ねる。

(この時間が永遠に続けばいいのに…)


 乙女心は全開だ。


「自分の思うようにしてください。なんなら、殺してもいいですよ。死にたくはないけどね、うん」と、一人は少し真面目に、少し可笑しげに言った。


 その言葉に、イゾルデは思わず抱きしめ返す。


 腕輪が鈍く光っていた。気付かないくらいに、二人の間で静かに光を放つ。





 夜八時。祓川高校の正門前。



 街灯の下に集まった一人、永遠、澪は、すでに待っていたレヴィとりりと合流する。


 一人は普段着。だが、その周囲は妙にきらびやかで目が痛い。



 りりは“大人モード”に切り替わったリリスの姿で、黒のドレスに大きなリボン。


 澪は魔女そのものの出で立ち――とんがり帽子に詰め襟ワンピース。


 そしてレヴィは、胸元が大胆に空いた黒ドレスで現れていた。


 目のやり場に困り、思わず俯く一人。


「……お前、見境なしか。うん、それはだめだぞ」

 澪が即座に釘を刺す。


「もう、病気だね。重症だよ」

 りりまでがあきれ顔で肩をすくめる。


「りりのママが、ちょっと普段と違う装いしたぐらいで動揺して」

 永遠が横からからかうように言い放つ。



 だが、その永遠の格好こそが一番異彩を放っていた。


 サングラスに黒のロングコート、コンバットスーツ、背には刀。

 さらに両足ホルスターに拳銃をぶら下げ、どこかのアクション映画キャラを意識したような完全武装スタイル。



「いや、おまえがそれ言うなよ」

 澪が冷たくツッコむ。


「ふふん。いいでしょ、これ特注品よ」

 永遠は得意げにポーズを決め、ドヤ顔で胸を張る。



 場の空気は軽口でごまかされていたが、それも長くは続かなかった。


 少し先、校舎へ続く道から四つの人影が現れる。


 前時代的な黒いフロックコートをまとったドラコ。


 その隣には、漆黒のドレスに身を包んだアグラット。


 槍を携えたドラゴニュート戦士、アウレリア。


 そして、詰め襟ワンピースにとんがり帽子――魔女姿のイゾルデ。



 互いに横並びで、まるで対峙するかのように両陣営は向かい合った。


「……揃ったようね」

 レヴィが静かに口を開く。


「うむ」

 ドラコも短くうなずく。


 緊張が走る中、アグラットとイゾルデの視線が、一人に向けられた。


「一人、昨日はごめん」

 アグラットが真摯に頭を下げる。


「………………」

 イゾルデは言葉にならず、ただ真っ赤な顔で一人を見つめる。


「………………」

 一人は少し困ったように、それでも優しく微笑んで返した。



 その光景が、周囲の緊張感をさらに重くする。


 ――気まずさと、言葉にできない思いが交錯する。



「じゃあ、一人君。自分の教室で待ってて」

 レヴィが促す。



「……はい」

 一人は頷き、重苦しい空気を背に校舎へと歩き出す。


 残された両陣営。


 互いに視線を絡ませながら、息をひとつ整える。


「――じゃあ、始めましょうか」

 レヴィの言葉を皮切りに、それぞれが展開を始めた。



 夜の祓川高校を舞台に、いま、幕が上がる。


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