第59話 ラウンド・ミッドナイト〜真夜中あたり〜
夕食を終え、湯船で一日の疲れを流した後。
まだ八時を回ったばかりだが、僕は布団の誘惑に勝てなかった。
「ごめん、もう今日は早く寝るよ。おやすみ」
「うん。私も寝不足。もう寝る」
亜紀も当然のように答え、当然のように同じベッドへ滑り込んできた。
……もはやツッコミを入れる気力もなく、僕は眠気に身を任せる。
そして――零時。
お約束の展開が、幕を開けた。
「おい、起きろ!!」
耳元に怒声。僕は寝ぼけ眼で上体を起こす。
「う、うん……?」
そこには、怒髪天を突き抜ける勢いで仁王立ちする澪の姿があった。
「えっ……何?」
「『何』じゃないっ!! こっちが聞きたいわ!! なんでその女が横にいるんだ!!」
怒声にベッドが揺れる。
「何よ、こんな夜に……」と、亜紀もあきれ顔で布団から顔を出す。
「お前、なんでここで寝てるんだ!!」と澪は食ってかかる。
「えっ、今日もなの? 勘弁してよ〜。嫁だからに決まってるじゃない。眠いんだってば。もういい加減にしてよ、何時だと思ってんのよ」
亜紀は完全にマイペース。半分寝言のような声で返す。
「今からは私の時間だ!! そのベッドで寝るのは一人と私だ! お前じゃない!!」
「はいはい、そう。ん……もういい、寝る。私、明日早いんだから。おやすみ」
そう言い捨てて、亜紀はすやすやと寝息を立て始めた。
完全に“勝手にやってろ”モードだ。
「うぐっ……うぐっ……一人、お前……私というものがありながら、こんなやつとベッドを伴にして……うぐっ、うぐっ」
澪は泣き崩れる。
(いや、言い方!! 間違ってないけど……まだ何もしてないからね? ていうか、それ言うと余計めんどくさくなるから言わないけど)
僕はただ、うなずいてやるしかなかった。
「もういい……二人で駆け落ちしよう。そうだ、今からだ!」
「うん、そうだね。今日はもう夜遅いんで、また今度ね」
完全に受け流す。僕の脳みそは半分寝ていた。
その時、布団の奥から亜紀がむっくりと起きて、熟年夫婦のような声を発した。
「もう、あんたたちさ〜、うるさいから、他所の部屋で話してくれない? 私、明日朝食の準備とお弁当作らなきゃだからさ〜。寝るから」
そう言い残し、再び眠りの世界へ。
「……もう、寝ようよ、ねっ?」と僕。
「うぐっ……うぐっ……抱き枕にしていいなら寝る……」と澪。
「……はい、もう好きにしてください。眠いんで……」
僕の諦めの声が最後の音となり、時計の針は深夜二時を回っていた。
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