第45.5話 宣戦布告〜その男は、既に私の物だ〜
放課後の映画研究会部室。
空調は効いているはずなのに、一人の背筋には冷や汗が伝っていた。
澪、永遠、りり――三人の視線が容赦なく突き刺さる。
机の上にはまだ“懺悔のプラカード”が残っており、首から下げられた一人は完全に晒し者だった。
そんな緊迫の空気を切り裂くように、ピコンッと音が響いた。
「……ん?」
永遠が、一人のスマホを覗き込む。
画面に浮かんだのは、柔らかいピンクのハートと共に踊る文字列。
亜紀:今日は、いきなりごめんね♡
いま。あなたのお弁当箱洗ってて、急に今、何してるかなって、RINEしちゃった♡
明日も作るね♡
リクエストがあったら言ってね。チャレンジするよ♡
「……」
静寂。
次の瞬間――永遠の手がブルブル震え始めた。
「……へぇ〜? 明日も作ってくれるんだって? 良かったじゃん、一人……でも、これ!!どうすんの?」
机をドンッと叩いた永遠の怒声が、部室を揺らした。
ひとりは完全に青ざめる。(あ、ダメだ……今日が命日だ……)
そこに追い打ちをかけるように、再びピコンッ。
画面に浮かんだのは――
今日のお弁当渡しシーン2ショット写真。
にっこり笑顔の亜紀と、ぎこちなく弁当を受け取る一人。
「ムキーーーーーーーーーーッ!! ハッ! ハッ! ハッ!!」
般若を超え、もはや阿修羅と化す永遠。
そのあまりの迫力に、澪が逆に冷静さを取り戻してしまう。
「……こういう時ってさ、仲間内でひとりがめちゃくちゃキレると、なんか冷静になるんだよね。」
「わかる。だね。」と、りりも頷く。
しかし、事態はこれで終わらなかった。
**ピコンッ。**三度目の着信。
画面には、今度は亜紀からの強烈なメッセージが。
亜紀:警告する。
私の夫に手を出すな。
いいか、その男は、既に私の物だ。
お前たちの物であったことなど、ただの一度もない。
今すぐ手を引け。
「……」
三人の女子の目が細くなる。
「宣戦布告だね。」永遠の声は低く、笑っていなかった。
「……やるしかないな。」澪の唇が吊り上がる。
「売られた喧嘩は買わないと、だよね?」りりがクスクス笑う。
その場に漂う空気は、完全に“戦場”のそれだった。
「……ま、断ったところで、亜紀ちゃんは明日もお弁当を作ってくるだろうけどね。ふふっ。」
澪は意味深に笑いながら、一人をじっと見据える。
一人は……もう完全に思考停止していた。
(下手なこと言ったらマジで殺される……!嵐が過ぎ去るのを待つんだ……)
☆ここまで、読んでくださり、感謝いたします。
評価ポイント、ブックマーク登録 していただければ、励みになります。
今後もよろしくお願いします!