第45話 放課後 部室にて〜公開処刑〜
外の日差しはまだじりじりと照りつけているというのに、映画研究会の部室の中はまるで氷河期。
いや、氷点下どころか絶対零度かもしれない。
その寒気の中心にいるのは僕――一人。
そして僕は今、土下座のように正座させられ、首からはふざけたプラカードをぶら下げられていた。
『僕は、きれいで素敵な婚約者がいるのに、彼女をつくるダメ人間です。』
……言い逃れのできない公開処刑スタイル。
しかも目の前には、般若の化身と化した永遠、腕を組み静かに睨む澪、そしてお菓子をつまみながらちゃっかり観客ポジションのりり。
「――で? 一人」
額に青筋を浮かべ、永遠が低い声で問いかけてくる。
「“あの女”どうしたの? いつ口説いたの?」
「いやいやいや! わかりません! 知りません!」
僕は必死に首を横に振る。
「へぇ〜? じゃあ知らない女が、いきなり弁当作るの? そいつ弁当屋の娘なの? ああん?」
「えっ……見てたの?」
「見てたのじゃねぇわ!!」
ガシッ、と永遠の手が僕の襟首を掴む。引き寄せられて、鼻先が触れるほどの距離にその怒り顔。
「お前、どこで口説いたんだッ!!」
「ごほっ、ごほっ……ほんとに知らないってば!」
「待って、どうも本当に知らないみたいだよ」
と、澪が口を挟む。彼女の目は鋭いが、冷静さも残っている。
「うん、たぶんそいつ人外だね」
りりがポテチを齧りながら、あっさりと結論を出した。
「一人が人間の女にモテるとか、あり得ないから」
「……」
僕は一瞬傷ついた。けど言い返せない。
「でしょうね」永遠が鼻で笑う。
「人間の女には相手にされないけど、なんでかこいつ、人外の女には高確率でモテるのよね」
しかし地獄の尋問は終わらない。永遠は目を細め、声をさらに低く落とした。
「でさ――明日も“かわいい彼女”が、お弁当作ってくれるんだって? へぇ〜」
永遠の瞳からハイライトが完全に消えた。
次の瞬間、彼女はヤンキー座りで目線を合わせてきた。
しかもスカートが少し乱れて、パンツが見えてるんだけど……本人はまるで気にしてない。
怖すぎて突っ込めない。
「今日は仕方ない。作ってもらったんだから、断れないのはね。百歩譲ってわかる。
……わかりたくないけど、わかる」
肩に腕を回し、ぐいっと顔を近づけてくる。
「明日はどうよ?」
「……ど、どうよって……」
「断るよな。なぁ、断れ。んっ?」
ぐいぐいと圧が強まる。
「どうせRINEも交換してるんだろ? 見ててやるから、いまメッセージしろよ。いますぐに」
(えっ、これ完全にどこかの反社の尋問じゃん……!)
「うん、断った方がいいと思うよ」りりがもぐもぐ言う。
「明日受けたら、もう毎日作ってくるパターンだし」
「断れ」澪が追い打ちをかける。
「絶対訳ありのやつだって。……めんどくさいことになるぞ。お前、そのうち刺されるぞ」
(いや、もう十分めんどくさいし、痛い目にも遭ってるよ……君たちで……)
とは思うけど、それを口に出したら命が危ないので黙っておく。
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