第43話 スーサイド・スクワッド 聖女とドラゴン
ここは――ドラゴニュートの城、地下深くにある収容所。
だが「収容所」というには、あまりにも場違いな光景だった。
煌びやかなシャンデリア。壁を飾るタペストリー。ふかふかのベッドに、上質な絨毯。
鉄格子さえなければ、豪奢な宿舎か、貴族の別邸と見間違えるだろう。
その鉄格子の前に立ち、白い法衣を纏う聖女セラは、まるで見下ろすように視線を送った。
中にいるのは一人の女。
天然パーマの赤い髪、身長はゆうに一八〇センチを超える。
肩と背中に浮かぶ筋肉の隆起は、男と見紛うほどだ。頭には二本の湾曲した角。首筋と尾には爬虫類を思わせる鱗が覗いている。
だがその肉体の逞しさとは裏腹に、形の良い胸とくびれた腰、大きく張った尻が彼女が「女」であることを主張していた。
端正な顔立ちもまた、美しさと力強さを兼ね備えている。
シャツにパンツ。男勝りな装いで、豪奢な空間に似合わない無骨さを漂わせる。
「で……俺になんの用だ?」
ぶっきらぼうに口を開く。
彼女の名は――アウレリア・ドラコニア。
「あなたに、サマエルの討伐隊に参加してほしいの」
セラは、微笑を崩さぬまま答えた。
「……はあ? なんで俺がそんな面倒なことしなきゃなんねぇんだよ」
「王命に逆らって、この収容所に入れられているあなたが外に出ようと思えば……最低限、これくらいは働いてもらわないと困るわ」
「チッ……。あんな、気に入らない男と結婚させようとするからだろ? あんななよっちいヤツ、こっちから願い下げだ」
「でも顔面が歪むまで殴るのは、さすがにやりすぎだったんじゃないかしら」
セラの声音は穏やかだが、まるで鉄でできた枠組みのように硬い。
アウレリアは肩をすくめ、大きな尾をだらしなく揺らした。
「で? そのサマエルってやつ、強いのかよ」
「正直に言えば――今のあなたでは、眷属一体にすら勝ち目はないでしょう」
「……おい」
「安心して。あなたのために“道具”を用意してあるわ。扱いさえ誤らなければ、なんとかなるはずよ」
セラはあくまで涼しげに、未来を見透かすような目で告げる。
アウレリアは大きくため息をついた。
「はあ……仕方ねぇな。結局、それしか俺がここを出られる方法はねぇんだろ」
「ええ。交渉成立ね」
セラは鉄格子越しに手を掲げ、淡い光を紡ぎ出す。
魔法陣がアウレリアの足元に浮かび上がり、複雑な契約紋様が刻まれていく。
「なにこれ」
「契約紋よ。約束を守らなかったり、逃げ出そうとすれば……爆発する仕組み」
「……は?」
「ですから、ご安心ください。逃げなければ爆発しませんから」
聖女の微笑みは、あまりにも優美で、だからこそ底冷えするほど恐ろしい。
アウレリアは額に手を当て、苦笑した。
「……イカれてんな、あんた。ほんとに聖女かよ」
「ええ、もちろん」
セラはにっこりと答える。
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