第41話 スーサイド・スクワッド (聖女ときどきアマンダ・ウォラー)
――異世界、王城の大広間。
威厳ある玉座、重々しい赤絨毯、並び立つ王侯貴族、魔道士、勇者、そして聖女。
その荘厳な場で――一人だけ顔面蒼白になっていた。
赤髪の女、イゾルデ。椅子に座るも、今にも卒倒しそうに口をパクパクさせている。
「えっ、私!? なんで、なんでよ!?」
声が裏返り、周囲の空気を一気にぶち壊す。
そんな彼女に向かって、堂々とした足取りで歩み出たのは聖女セラ。
その微笑みは慈愛に満ちている――はずなのに、どこか冷徹な刃を隠していた。
「これはもう、王命で決まったことなの。今回の討伐隊から、人類代表を一人、という話になってね。あなたに白羽の矢が立ったの。いい? とても名誉なことなのよ。」
「はぁっ!? 人類代表なら、そこにいる勇者のアナスタシアでしょ!」
イゾルデは指差し、金髪碧眼の美少女勇者を睨みつける。
「人類最高戦力でしょ、あの子! 私なんて二軍どころか、二軍の補欠ベンチよ!」
勇者アナスタシアは「ごめんね?」みたいに苦笑いしていたが、セラは涼しい顔のまま続けた。
「いいえ、今回はサマエルに加え、レヴィアタンとベヒーモスまで出てきているの。彼女じゃなくて…… あなたの方が魔法適性があるし、いいかなって。みんなで決めたのよ。」
「ちょっと待って! それってつまり――勇者の代わりに私が死ねってことじゃない!? ムリムリムリ!! あなたが良くても、私はいや! 本当に無理だから!!」
イゾルデは絶叫。貴族たちはざわめき、兵士たちは苦笑する。
しかしセラは、まるで「保険の勧誘」のような軽い口調で言った。
「リーダーには、一番やりやすそうな相手をお願いしてあるから、なんとかなるわ。ほら、仲間と――“努力”“友情”“勝利”よ。」
「どこのジャンプ漫画なのよ!? あのヤバいメンバーの中で“やりやすそう”なやつなんかいないでしょ!? モルガディア? 不死化する前から王国最強の魔道士よ!? そんなの勝てるわけない!!」
涙目で必死に反論するイゾルデ。
だがセラは一枚の羊皮紙を取り出し、ひらひらと掲げた。
「もし引き受けてくれたら、あなたの罪状はすべてチャラにしてあげる。もちろん報奨金も出すわ。これがその証明書よ。」
空気が張り詰める。
兵士たちがじりじりと近づき、魔道士たちが詠唱の構えを取る。
「……でも、もし断ったら――」
セラは冷ややかに笑った。
「今までの罪状で、ここから生きて出られないわ。」
「ひぃぃぃぃぃっ!!」
イゾルデは椅子に崩れ落ちる。
もはや半泣き、放心状態。
「もういい! 好きにして〜! うん、いっそ殺して!殺せぇぇぇ!!」
頭を抱えて絶叫し、涙と鼻水でぐちゃぐちゃだ。
「セラ、あんた聖女じゃない!
吸血鬼の契約といい、今回といい……異世界で観た活動写真に出てた“アマンダ”って黒人の女にそっくりよ! でも、あっちの方がまだマシだわ!!」
その瞬間――王城の空気が凍りつく。
王も、貴族も、勇者すらも口を開けたまま絶句する。
ただ一人、セラだけが、涼やかな笑みを浮かべていた。
「まあまあ。じゃあ、契約紋を刻みましょうか。逃げると首が吹き飛ぶ仕様だから、安心してね。」
聖女らしからぬ、ぞっとするような笑顔で。
(ふふ……これで人類最高戦力は、温存できたわね。後は、共倒れしてくれれば…)
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