閑話休題 フロム・ダスク・ティル・ドーン(前編)
永遠のマンションの一室。
夜の帳が降り、窓の外には静かな街の明かりが瞬いている。
部屋の中央、ローテーブルの上にはDVDやBlu-rayが散乱し、カーテンは映画館よろしくしっかりと閉じられていた。
「永遠〜! 最高のヴァンパイア映画対決しようよ!!」
テンションマックスでソファに座る一人。
対する永遠は、長い黒髪を緩やかに揺らしながら赤ワインのように血(献血パックから出した)を口に運ぶ。
原初の吸血鬼、デイウォーカーである彼女の所作は、普段なら凍りつくほどの威厳を放つ――のだが。
「……最高のヴァンパイア映画、ですって?」
瞳に妖しい光を宿しながらも、口元に浮かぶのは挑発的な笑み。
「僕はね、『インタビュー・ウィズ・ヴァンパイア』だと思うんだ。映像、内容、どれも素晴らしいよね。次点で『吸血鬼ドラキュラ 1958』かな〜。いや、やっぱりコッポラ版も捨てがたい!」
「……」
永遠はワイングラスを置き、指でカチリとソファの肘掛けを叩く。
「……えっ。このジャンルで私に勝つつもりなの? 身の程知らずもいいとこね」
「おお、きたー!」
「では――教育してやろう。本当の吸血鬼の闘争というものを」
一人は背筋をピンと伸ばし、まるで決闘の前の剣士のようにリモコンを握りしめる。
「そうね……『吸血鬼ドラキュラ 1958』はいいわ。クリストファー・リーの眼光、あれは確かに伝説。でもね――当時は最先端のホラー映画だったとしても、今見てる人たちにとっては懐古趣味に過ぎない。そこに留まるのは違うのよ」
「な、なるほど……」
「私の中で一番は――本当なら『ブレイド』と言いたいところ。でもね」
永遠は唇に人差し指を当て、わざと間を空ける。
「悩ましいわね。ここはあえての――『フロム・ダスク・ティル・ドーン』。最高だわ」
「序盤のガソリンスタンド銃撃戦、ジョージ・クルーニーのヤサグレ感。サンタニコの妖艶さ……そしてナイトクラブでの吸血鬼との戦い」
永遠は恍惚とした表情で身を乗り出す。
「もう、特撮なんて見ればたいしたことないのよ。でも、そこから漂うB級映画の香り! あの変わらなさこそが堪らないの。……これ、わかる?」
「う、うん……いや、それってヴァンパイア映画というより、クライムアクションじゃない?」
「はぁぁぁ?」
永遠の目がギラリと光る。
「何を言ってるの! 映画全編に流れる背徳感――あれこそが真のヴァンパイア映画なのよ! 長く生きてるとね、あの背徳感がないと興奮しないの!」
「(言葉のチョイスが危ないなぁ……)」
「ねえ、あなた――観たことあるの?」
「じ、実は……」
「まさか……観たことないとか言わないでしょうね?」
「……すみません、観たことないです」
「――あゝぁぁぁぁぁぁっ! それは人生損してるわね!」
永遠はソファに崩れ落ちると同時に、すぐさま立ち上がった。
「今すぐ観るわよ! 観なさい! そして震えなさい!」
「は、はい!」
◇◆◇
――二時間後。
「すごいね、前半と後半まったく別の映画みたいだけど、めちゃくちゃ面白い。
ゲッコー兄弟のヤサグレ感最高。」
ソファに寝転び、ポテチの袋を抱えたまま、一人は感想を漏らした。
「でもさ、こんな感じのお店とか実際あったら、行ってみたいもんだね。」
「あるよ。行く?」
「……えっ。行ったら餌にされるの?」
「それは無いな。けど、人外の行きつけの店ならあるよ。
店主も人外。近いから行ってみようか!!」
あまりにもサラッと言う永遠。
その無邪気さに、一人は内心(いやいやいや、ホラー映画の直後にその話題はフラグでしかないだろ!)とツッコミながらも、結局ついて行くことになった。
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