第40話 トゥルーマン・ショー
「でも安心して。外では男を立てる“いい嫁”だから。人前で一人に恥はかかせないよ。……ママもそうだし」
「その調子よ。家庭を守るのは、あなたなのよ」
満足げに微笑むレヴィ。
「わかったよ、ママ」
りりも微笑んで応じる。
(えぇぇぇ……なんでこんなことに……!?)
温かい湯気の立つ味噌汁の香りに包まれながら、一人の心は冷や汗でいっぱいだった。
――こうして、告白の夜の余韻と、支配の家訓を抱えた気まずい朝食は、淡々と終わりを迎えていくのだった。
そんな時だった。
「――おはようさん〜」
ふわりと空間が歪み、宙にモニターが浮かび上がる。
悪魔王サタン、その姿がでかでかと映し出された。
「おはよう、久しぶりね。元気にしてた?」とレヴィが渋い顔で答える。
サタンは満面の笑みで手を振った。
「いやぁ〜昨日な、わし気になってな。ぜーんぶ見とったで。一部始終や。ほんまおめでとう、りりちゃん!」
「は?」
「保証人のわしも、これで安心や。もうな、年甲斐もなく胸がキュンキュンしてもうてな〜。ほんまよかったわぁ」
「……」
部屋に気まずい沈黙が走る。
りりの目が再び潤んでいった。
「でな……」サタンは頭をかきながら続ける。
「そこに水挿して悪いんやけどな。一人君――討伐することに決まったわ」
「……は?」
「まさか!」レヴィが絶句する。
「そ、そんな……」一人も声を失った。
「なんでよ!なんでそんなことするの!」りりが立ち上がる。
「いやぁ、これは運命やねん。奇襲かける案も出たんやけど、それかっこ悪いやん?せやから正々堂々と宣戦布告や。リーダーは“真祖”ドラコ。他にも3人で挑む予定や。そっちはレヴィちゃんがリーダーでええな?」
「そ、そんな……!」レヴィの顔から血の気が引いた。
「おじさん……」りりは涙目で叫ぶ。
「みんなで決めたの?りりの初デートを監視して!初体験まで覗いて!」
「それ盗撮ですからね!ほんと恥ずかしいですよ、大人として!」と一人が突っ込む。
「ほんと最低!」レヴィも怒鳴る。
「思春期の女の子を監視だなんて、デリカシーなさすぎ!」
「うぐっ……うぐっ……初デートが台無しじゃない!どうしてくれんの!うぐっ……」りりが鼻をすすりながら泣き叫ぶ。
「しかも初体験まで……りりは……りりはセクシー女優じゃないんだよぉ!うぐっ……」
「ちょ、ちょ待って!そ、それは見てない!ほんまに!決めたのは討伐の件だけや!ホンマや!」
レヴィが机を叩く。
「これ、パパが聞いたら大激怒するよ。私も怒ってる。しかも“ドラコ”? あいつ、今まで一度も勝ったことないくせにライバル視とか……ウザいんだけど」
「そ、そうやな……ごめん、ごめんな。堪忍してな。この埋め合わせは必ず――」
「うっさい!バカ!もう帰れえええ!」
りりが顔をぐしゃぐしゃにして泣き叫ぶ。
(……討伐隊とかいうすごいパワーワードが出たんだけど。僕以外気にしてない……)一人は内心で青ざめる。
結局その朝は――
りりが泣き止まず、一人がなだめ続けるはめになったのだった。
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