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閑話休題 暴走する異世界会議

 異空間の館、大広間。


  円卓を囲む各種族の代表者たちは、いまや誰もが瞳を沈ませていた。


  話し合い――本来は、サマエルの覚醒を未然に防ぎ、平和の道を探るはずの場である。

 だが。


「すごいやないか!」

  悪魔王サタンが腹を抱えて大笑いする。



  その笑いは豪快で、会議室全体を震わせるほどだった。


「オールスター戦やで! こんなおもろいシチュエーション、久しぶりやなぁ。なあドラコ、昔を思い出すがな!

  あぁ、ワクワクしてしゃあない! ええ感じや! 流石や、ワイが見込んだ“男”や!

  りりちゃん、おもろい男見つけたなぁ〜!」



 その言葉に、真祖の吸血鬼ドラコが目を細め、低い笑いをもらす。

「ふむ……確かに、胸が高鳴りますな。

  是非、我も参加したいところです。のう、竜王?」



 呼びかけられたドラゴニュートの王は、豪快に笑い飛ばした。

「いやはや、久方ぶりに血が滾りますな!

  第2次神魔大戦、やるのなら是非お声掛けを!うちには血気盛んな者がいくらでもおる!」


 そこからはもう、堰を切ったようだった。


  「やらいでか!」


  「相手に不足なし! 散って叙事詩に名を残すわ!」


  「チンケな戦争で死んだ連中が、あの世で悔しがる様が目に浮かぶわ!」


  「皆でヴァルハラに行って、酒を酌み交わそうぞ!」


 歓声と笑い声が交錯し、会議室は戦の前夜祭のように盛り上がっていく。



 一人だけ、額に青筋を浮かべていたのは聖女セラフィーナだ。


  彼女は椅子から立ち上がり、テーブルを叩く。

「……ちょっと待って!? なんで!? なんで神魔大戦を防ぐために開いた会議が、戦争推進会議になってるのよ!?封印の強化とか?話し合いでの解決考えたてたのに!?

  おかしいでしょ!? 誰のせい!? ねえ、誰のせいよこれ!!」



 彼女の視線が横の紅髪の魔女イゾルデ・タナトスに突き刺さる。

「えっ……えっ、私? いやいやいや、そんなこと言われても……えっ、私が悪い!? なんで!?」


 セラフィーナは頭を抱え、肩を震わせる。

  大広間の喧騒と熱気は、もはや制御不能だった。


「よっしゃ――ひとまず前夜祭や!」


  悪魔王サタンが豪快に手を広げ、会議場の空気を爆ぜさせた。


  「選抜メンバーで先制攻撃や! 戦争の打ち上げ花火やで。我こそはと思わんやつは名乗りを上げようや。祭りに参加したい猛者は誰や!! この際、封印解いてもええで! 中途半端な封印では根本的な解決にならんしな!」


 その瞬間、会議場に雷鳴のような歓声が響いた。


 「やらいでか!!」


  「血が滾るのう!」


  「伝説になるんじゃ! 一族の誉れじゃけいのう!」

 次々と挙手が上がり、武器を打ち鳴らす音が飛び交う。


 エルフの長老は目を輝かせて杖を掲げる。

  「ここ数百年、木々のように静かに生きておったが……この胸の高鳴りは久しぶりじゃ! 死んで吟遊詩人に謳われるのも悪くない!」


  鬼人の王も腕を組んで吠える。

  「おうよ! 相手にとって不足なし! ここで立たねば子孫に笑われようぞ! 一花散って名を残すも一興よ!」


 妖狐の姫は尾を揺らしてにやりと笑った。

  「妾らの力を世に知らしめるまたとない機会……是非とも参加したいのう!」


 オーガの族長は牙を剥き出し、拳を天に突き上げる。

  「俺達を忘れてもらっちゃ困るぜ! 戦なら任せとけ!」


 会議はすでに熱狂の坩堝。


  だが、ひとりだけ、その流れに飲まれまいと必死にもがく存在がいた。

「ちょ、ちょっと待って! もうこれどうすんのよ!? 完全に制御不能じゃない! 知らないわよ、こんなの!」



  セラフィーナは隣のイゾルデを睨む。

「えっ、いやいやいや、会議の司会はセラフィーナですよ? 私のせいじゃないでしょ!?」

  イゾルデは両手を振って無責任に笑った。



「皆さん!」セラフィーナは壇上から必死に声を張り上げる。

  「で、できれば平和的に……! 封印の二重掛けとか……こちらの力を結集して、サマエル陣営との交渉とか……まずはそういう道を模索しませんか!?」


 だが、その声は狂乱の雄叫びにかき消され、誰の耳にも届かなかった。


「では、私ドラコがリーダーということでよろしいかな?」

『真祖』の吸血鬼が悠然と立ち上がり、堂々と宣言する。


「“あの女”との決着、未だ果たしておりませんゆえ」


「おおっ! 御大自らが!」

  会議場がどよめき、熱狂はさらに高まる。



 喝采と武具の打ち鳴らしが響き渡る。


  セラフィーナは両手で頭を抱えた。

  (……だめだ……誰も聞いてくれない……! このままじゃ、ほんとに第二次神魔大戦が――!)




 そのころ、愛川家。


「ところで、きれいな先生って……あんた、どういうつもり?」

 冷え切った声が、一人の青年を縛り付ける。


 永遠が腕を組んで睨む。


 澪は冷淡に呟く。

  「信じらんない。婚約者がいて、りりちゃんもいて……それで他の女にまで目移り? もう病気ね」


 りりは微笑みながら恐ろしい一言を放つ。

「監禁したほうがいいのかな……?」


 青年――一人は、正座させられていた。

  首からは『僕は超絶かわいくてきれいな婚約者がいるのに、他の女に目がいくクズ男です』と書かれたプラカードがぶら下がっている。


「ごめんなさい……ほんとに、僕は……」

  声は震え、額には冷や汗。


「ほんと反省してるの?」永遠が低く問う。


 「形だけの謝罪は許さない」澪が追い打ちをかける。


 「大事なことだから、身体で覚えてもらうしかないよね」りりがにこやかに近づく。

 青年は心の底から叫んだ。


  (どうして僕の人生は、こうなるんだ――!?)


 会議場では戦乱を求める咆哮がこだまし、 

 日本の愛川家では一人が女たちに詰められていた。



 それを遠くから見聞きしていた悪魔サタンは、腹を抱えて大笑いする。


「くはははは! ええやないか! オールスター戦や! 戦争も恋も、どっちも血が滾って最高やな!」

 こうして、会議は狂熱のまま“選抜メンバー”の選出へと雪崩れ込んでいった。





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