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第34話 最強の悪魔

 永遠は吹き飛んだリリスを追い詰め、顔を掴み上げる。


 黒い羽が夜を覆い、圧倒的な力で締め上げる。


「くそっ……こんなところで……!」

 リリスの瞳が赤く爛れ、必死に抗う。


 だが、彼女の視線の先――もう一人の自分も澪の獄炎に吹き飛ばされ、煙と共に消え失せていくのが見えた。


「くっ……ここまでか……お兄ちゃん……」

 その言葉を残し、悪魔リリスの影が闇へと溶けていった。




 空気が張り裂けるほどの緊張が走った瞬間だった。


 背後から響いた、甘やかで残酷な声。

「もう、その辺でいいんじゃないかしら」


 永遠と澪の背筋が同時に震える。


 振り返れば、そこに立つのは――漆黒のドレスに身を包んだ、金髪の長髪を揺らす女。


 夜の闇に溶けながらも、ひと目で常識を超えた“格”を感じさせる、美貌と威圧。


 その存在感に、二人は思わず息を呑む。

「それ以上やるなら、私が相手をしてあげるわ。小娘ども――“本当の悪魔の闘争”ってやつを、身体で教えてあげる」


 永遠の唇が吊り上がり、笑みがこぼれる。

「いいわ……いいわ! あいつと付き合って、ほんと良かった! あんた……今まで会った中で最上級よ。見ただけで分かる。レーヴェンソーンより強いって」



 女は鼻で笑う。

「あんな小物と一緒にされるなんて、心外ね」


 その一言で、永遠の瞳が紅く爛れた。

「なら、確かめさせてもらうわ!」


 地を蹴る。永遠の爪が黒い閃光となって女へ迫る。


「やめろ永遠! そいつは――!」

 澪の叫びは、虚空に吸い込まれた。


 女は華奢な手で、その鋭い爪を――易々と掴み取った。


 次の瞬間、ぐしゃり、と肉が裂ける鈍い音。

「――ああっ!」


 永遠の腕が、肩口から引きちぎられて宙に舞った。


「再生はできるでしょう?」

 女の声音はあくまで優雅。


 だが永遠が歯を食いしばる隙もなく、澪の魔法陣から解き放たれた獄炎が女を飲み込む。


 轟音。夜空を焼く火柱。

「やったか……!」澪の額に汗が滲む。


 だが、炎の中から現れたその女は、髪の先すら焦がされず――。

「うーん……まあまあ、かしら」


 一歩踏み出す度に、炎が彼女を避けるように揺らめく。



「なら、これはどう!」

 澪の背後に巨大な魔法陣が展開し、空間に数十の氷塊が生成される。


「防いでみなさい!」

 氷塊が一斉に射出され、轟音と共に女を襲う。



 だが、彼女は指先ひとつ動かさず、氷塊の進路を操るように軽く視線を動かす。

「防いでみて」


 その声と同時に、氷塊は澪へと軌道を変えた。

「なっ――!」


 獄炎で相殺を試みるが、数と質量が圧倒的。


 爆ぜた氷と炎が水蒸気爆発を起こし、澪の身体は吹き飛ばされ、地面を転がった。



 女はゆったりと手を胸に当て、優雅に一礼した。

「申し遅れたわ。――我が名は、悪魔レヴィ。レヴィアタン・セレスティア・ノクティス」



 その名が響いた瞬間、永遠の全身に戦慄が走った。だがそれは恐怖ではなく――歓喜。

「レヴィ……! あんたが……“最強の悪魔”と呼ばれる存在……!」

 永遠は天に両手を掲げ、黒い影が全身から溢れ出す。



 翼はさらに巨大化し、闇が漆黒から深紅へと変貌する。

「いいじゃない! “嫉妬の悪魔”じゃない……“最強の悪魔”と殺り合えるなんて!」


 咆哮と共に、永遠が突進する。


 爪が閃き、空気を裂く。


 ――が、その全ては紙一重で躱される。


 しかし、ひとつ。女の頬に浅い切り傷が走った。


「……ほぅ」

 女の唇に愉悦が浮かぶ。

「すごいわね。“真祖”以来だわ。私に傷をつけたのは」



 次の瞬間、永遠の両手は掴まれていた。

「なら、少しだけ相手してあげる」

 ぐしゃり――。


 永遠の両腕が肩から引きちぎられ、血飛沫が夜空に散った。

「がっ――!」


 再生する暇すら与えられず、その頭を鷲掴みにされ、地面へと叩きつけられる。


 大地が割れ、公園の地面が陥没した。


 レヴィは微笑んだまま、永遠を見下ろす。

「まあ……この辺にしておきましょうか。大人げないしね」



 その声音は慈愛にも似ていた。だが、彼女の周囲を覆う威圧は、神すら震わせる絶対の力そのもの。


 次の瞬間、闇がふっと解け、公園はただの夕方の風景に戻った。



☆ここまで、読んでくださり、感謝いたします。

次回の更新は、9月13日 12時です。

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