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第26話 ヤンデレ、メンヘラ魔女

澪といっしょに過ごしてみて、改めて気づいたことがある。


彼女は“心の壁”さえ取り払ってしまえば、信じられないくらい甘えん坊で、すぐ泣きつくし、拗ねるし、ダダを捏ねる。


――不死の魔女というより、ただの「かまってちゃん」で。けれどその可愛さと破壊力は、永遠に生きる恐怖とはまた別の意味で、十分に怖い。



「うーん……起きれない」


布団の中でごろごろしながら、澪がこちらを見上げてくる。

「起床の儀式がないと、魔女は一日が始められないんだ。朝のチュー、早く」

(……一人で暮らしてるとき、どうしてたんだろ。いや、言っちゃいけないんだよな。ここは素直に……)


僕は小さくため息をつきながら、彼女の頬にそっとキスを落とす。

「ん〜〜♡ 上機嫌」


即座に笑顔を見せて、布団の中でもぞもぞ動く澪。



着替えの時間も、彼女は当然のように騒ぎ出す。

「うーん……なぜ私は着替えが出来ないんだ。不死者の呪いか? おい、そこの引き出しに着替えがある。取って! あとは着替えさせて」


「はいって……これ下着……」

(いえ、僕まだ高校生なんで、自分でお願いします!)


流石にそこは譲らず、服だけ渡して、背を向ける。後ろから聞こえるくすくす笑い声に、からかわれてる気しかしない。




朝食のときも同じだ。


「なぜだ! パンが自分の口に運べない。これは吸血鬼の呪いか!? すまない、一人。お前がちぎって口に入れてくれ。『あーん』って言ってな。それか……口移しでもいい」


「落ち着いてください。普通に食べられますよね」

そう言いつつ、結局パンをちぎって差し出す僕。


「はい、『あーん』」


「……あーん。……ん〜♡ おいしい」

(……僕の心臓が焼けそうなんですけど)



リビングでくつろぐときも、だいたい密着してくる。


「ふふん、今日のお前は抱き枕な」

と言って僕の肩に頭を乗せ、大きな胸をわざと押し付けてくる。


「うーん、らくちん、らくちん」

(僕は全然楽ちんじゃないんですが……)


ソファの上で、彼女の体温と匂いに挟まれながら、心臓の高鳴りを誤魔化すのに必死だった。



極めつけは――トイレ。


「いいか、一人。今から私はお花を摘みに行く」


「……はい?」


「この部屋でお前に何かあったら困るから、トイレに行くときも一緒に来い。ドアの前で待機な。そして耳を塞いでおけ」

(いや、トイレって言ってるし……耳塞いだら何かあっても対処できないんですけど!?)


……これ、完全にバカップルだよな。


いや、甘やかしてる自覚はある。だけど彼女がこんな顔をするなら、誰だって断れないと思う。


――ヤンデレで、メンヘラで、そして最高に愛おしい魔女。


怖いけど、可愛すぎる。


僕は今日も彼女に振り回されながら、心のどこかで「これが永遠に続いてもいい」と思ってしまっていた。


 ――日曜の昼。


 外は小春日和で、窓から射し込む光はやわらかく、まったりとした時間が流れていた。


 僕はその時、この週で一番のミスを犯した。


 スマホを開いて、何気なくRINEを確認したのだ。


差出人は永遠。



永遠:そっちはどう?嫌になったら教えてね。魔女と話つけるから。


僕:連絡ありがとう。楽しく過ごしてますよ。


永遠:じゃあ月曜に♡


僕:じゃあ月曜に



 ――送信。


 そのときの僕は、隣にいる澪の視線に、まったく気付いていなかった。


 ……そして次の瞬間。


「――はぁぁぁああああ!?!?!?」

 空気が、爆ぜた。


「ふざけんじゃないわよッ!! あんた恋人が横にいるのに、なんで他の女とRINEしてんのよ!! 私、不安になるじゃない!! バカなの!? どういう神経してんのよ!!」


 目が怖い。黒い。黒すぎる。完全に“目が死んでる”タイプのアレだ。


 あ、殺される。これは殺意。





 僕は床に正座させられていた。


 首から下げられたプラカードには――


「私は婚約者がいるのに、他の女とRINEする最低男です」


  そう大書されていた。

 え、これ完全に公開処刑だよね!?


「なんか言うことある?」

 澪が見下ろしてくる。冷たい視線。いや、これ尋問だ。


「はい、申し訳ございません。もうしません。」


「うーん……なんか聴こえないなぁ〜。もう一回♡」

(いや、確実に聞こえてるだろ!?)


「はい、申し訳ございません。もうしません!!」


「うーん……誠意が感じられないなぁ。“特別感”が無いっていうか? “最愛の女性の気持ちを踏みにじって”とか、そういうの、無いわけ?」

 え、これ、言わせる気満々じゃん……。


「最愛の澪の気持ちも考えず、軽率でした。もうしません。申し訳ありません。」


 すると彼女は、僕の頭をポンポンと撫でて、幼児をあやすみたいに微笑んだ。

「言えるじゃない。恋愛雑魚の君にしては上出来。仕方ない、許してあげる。」



 ――次の瞬間、ハイライトが消える。


「でも、次は無いから。」

 声が、冷え切っていた。背筋が氷のように凍り付いた。


「この際だから言っとくね。

 月曜から木曜までは、RINEを1時間に1回は送ること。いい? じゃないと私、不安になるから。……本当は15分に1回が理想だけど、授業もあるし仕方ないよね? 我慢してあげるよ。優しいでしょ?」

 目が笑ってない。ぜんぜん笑ってない。


 え、これ冗談で言ってます? そうだよね? ねぇ、そうだって言ってよ!?



「あと浮気は許さないから。あの吸血鬼は……まぁ仕方ないとしても。他の女とか、絶対に無いから。もし浮気したら……手足切り落として、この部屋に一生閉じ込めるから。いい? そんなこと、私にさせないでよね?」


 ……あ、はい。


 全身が一瞬で氷漬けになった。目が完全に本気を物語ってる。


 うん、浮気しません。絶対しません。



  すると突然、澪が泣き出した。

「うぐっ……うぐっ……ごめん、ごめんね。こんな女、嫌だよね……でも、そうじゃないと不安になるんだよ。ごめん……ごめんね……」


「いいんです。そこまで想ってくれて、嬉しいです。」


 思わず口から出ていた。すると澪は顔を上げ、ぱぁっと笑顔になった。


「……だよね♡ 私、一人の嫁だもんね。これから少しずつ、こういうところ治してゆくよ。」

 (……あれ、いつの間にか“婚約者”から“嫁”に格上げされてない?)


 そのあと、彼女はぎゅっと抱きついてきて、僕は逃げられなくなった。


 こうして、日曜は終わった。


楽しくもあったけど――神経は、ものすごくすり減った。

☆ここまで、読んでくださり、感謝いたします。

次回の更新は、本日23時です。

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