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第90話 The Most Beautiful Girl In the World (1)

 ー真っ黒な教会ー


 そこは、闇と呼ぶにはあまりに澄んでいて、

 光と呼ぶにはすこしだけ気恥ずかしい……



 そんな“やんわり薄暗い”世界。



 魔界の邪教会——



 だが、恐怖とは無縁。


 出席しているのは、決して人ではない異形の者たち……なのに全員、礼服姿。



 そして、全員そろって涙。


 ずびずび、ぼろぼろ、ぐしゅぐしゅ。


 その視線はただひとつ。



 壇上の新郎新婦へ向いていた。



「父上と母上が今もご存命なら……さぞお喜びになられたろうな……!」


 赤い肌に巨大な角を生やした魔族の青年が、

 ハンカチで涙と鼻水を同時に処理している。



「うん、うん……りりちゃん苦労したもんねぇ……ほんとよかったよぉ……!」



 漆黒の翼をもつ堕天使の男まで、

 まるで娘を嫁に出すおじさんのような泣きっぷり。



 極めつけは、

「ぐおおおおおーーーーーーー!!」

 と大号泣する、顔が完全にライオンの獣王。



 涙でタキシードがしっとり濡れ、見事にクリーニング必須だ。


 そんな魔界式の厳かな雰囲気(?)の中、

 壇上に立つ司祭——折れた漆黒の翼に、立派な3本角、

 瞳がルビーのようにギラギラ光る“見るからに最高級悪魔”が、

 両手をひろげて祝福の言葉を述べる。



 新郎は黒のタキシード。


 新婦は黒のベールに漆黒のウェディングドレス。


 黒×黒の組み合わせに、教会の黒が混ざって、ほぼ真っ暗。



 だが、なぜかとても美しい。


 司祭が響く声で問う。


「汝、家成一人よ……


 リリス・セレスティアを妻とし、

 たとえ終末の日が訪れようとも、伴にあることを誓うか……?」



「は、はい……」


 一人は引きつった笑みとともに返事する。


(いや、言うしかなかろうもん……! 断ったら終末の日が今日になるわ!)



 と、心はすでに博多弁モード。


 司祭は満足げに頷き、新婦へと視線を向ける。


「汝、リリス・セレスティアよ……

 家成一人を夫とし、

 たとえ終末の日が訪れようとも、伴にあることを誓うか……?」



「はいっ……!」

 リリスは、こくんと力強く頷き、ぽろぽろと涙を流す。



 その涙は恐怖ではなく——



 感涙。


 その姿を見た悪魔たちは、さらに号泣。



「りりちゃぁぁあああん!!!」

 獣王が嗚咽混じりに叫ぶ。


「うん……うん……幸せになるんだよ……うぅ……!」


 堕天使が泣きながら肩を震わせ、

 隣の獣王はすでに目が真っ赤。



 まるで魔界ファミリーの娘を嫁に出す会場である。



 司祭が袖で涙を拭い、小声でつぶやく。


「……いやぁ……よかった……ほんとによかった……」


 そして厳かに手を掲げた。



「では、誓いの口づけを」


 その瞬間、

 魔界の黒い空気がサッ……と清らかに変わる。



 一人は覚悟を決めた。


 もう……逃げ場はない。



 そっと新婦のベールを上げ、

 見つめ合い、



 そして——


 口づけを交わす。



「おめでとう……これで二人は夫婦だよ……」

 司祭は、魔界らしからぬ優しい声で言った。



「お、おじさん……ありがとう……!

 わ、わたし……幸せになるね……っ」


 リリスは涙を拭いながら、司祭に抱きつく。


 会場の全員が、まとめて号泣。


 感動の洪水で、すでに床が涙で湿っている。



 その光景を見た一人は、ぽつりと呟いた。


(なして……なして……こげなとこで結婚式挙げよると……!?)


 脳みそが完全に博多に帰省した。




 ー悪魔城・大広間ー



 そこは、魔界の名だたる城の中でも、ひときわ威圧感のある「悪魔城」。


 だが今夜だけは、恐ろしいはずの大広間が——



 祝・ご成婚!!

 の巨大な垂れ幕で飾られていた。



 テーブルに並ぶのは、豪華な料理たぶん


 見たことのない紫の触手や、炎を吹く肉片、謎の瞳がこちらを見てくるスープ。


 ゲテモノなはずなのに、なぜか香りだけは最高級。



 その中で、列席するのは

 どう見ても人間ではない面々。



 三本角の悪魔、翼を折りたたんだ堕天使、


 岩のような体の魔人、鎧を着たスケルトン、


 さらには淡々と料理の解説をしている巨大なスライム(毒味担当)。



 全員正装。


 全員涙目。


 全員、祝福ムード。



 そんな中、一段高い壇上に座るのは——



 新郎:家成一人(絶賛現実逃避中)


 新婦:リリス・セレスティア(幸せオーラ全開)



 そして司会は、漆黒のタキシードを着た悪魔幹部。



「本日は、新郎新婦のためにお集まりいただき、誠にありがとうございます。


 本来なら魔界全土の悪魔で祝福したいところですが、


 “あまり堅苦しくしないでほしい”との新郎新婦のご意向により、


 本日は限られた方々だけの内輪の披露宴となりました」



 一人(心の声):


(いや……頼んどらんちゃけど!?

 いつ俺が「ゆるくしとって〜」て言ったと……!?)


 だが心のツッコミなど届くはずもなく、司会は堂々と続ける。



「先日、新婦リリス様より突然のご訪問とご報告がありまして……


 “結婚します”の一言で、我々魔界幹部一同、たいへん驚いた次第でございます」



 会場一同が、

「そうそう!」


「びっくりした!」


 とうなずく。



 司会は紙をめくりながら、さらに声を張った。


「さて、ここで二人の馴れ初めをご紹介いたします!」


 一人(心の声):


(嫌な予感しかしない……!!)



「新郎・家成一人様は、幼少期より新婦を慕い、

 なんと婚姻届を作成してまでアタック!


 その熱意に打たれたリリス様が“この方こそ運命の相手”と……」



「おお〜……!」


「ロマンティック……!」


 会場に感動の波が走る。



 一人(心の声):

(いやいやいやいや!

 それ、5歳のときに書いたオママゴトの紙やんか!?


 なんで魔界の婚姻届として扱われとると!?

 もうどげんすればよかと!?)


 

 だが、会場はすでに完全に美談として受け取っている。



 堕天使のおじさんが目元を拭いながら語った。


「りりちゃん……幸せになるんだよ……」


「一人くん、りりちゃんをよろしくね」


「なんかあったら相談してね」

「敵対勢力とか、嫌なやつがおったら、呪い殺すの得意やし」


 さらっと恐ろしいことを言う悪魔が三割ほど混じっている。


 獣王が骨の杯を掲げた。


「さあ、宴の始まりだあああああ!!

 新郎!新婦!そしてこの出会いに祝福をッ!!」


 

 ドンッッッ!!


 魔界特有の音とともに、披露宴がスタート。


 テーブルに料理が並ぶ。


 紫に光る焼き物。


 絶え間なく再生しながらも美味しそうに焼けていく肉。


「おかわりどうぞ」と震えるスープ。


 どれも一人には食べられる気がしない。



 魔界ファミリーの歓声が続く。


「二人に幸あれーー!!」


「末永くお幸せにーー!」


「子供ができたら絶対抱かせてねーー!」


「祝いに村ひとつくらい滅ぼすねーー!」



 ……物騒だが悪意はない。


 ここにいる全員、本当に祝ってくれている。



 こうして——


 魔界史上もっとも“涙と筋肉と角と呪い”に満ちた披露宴が、

 盛大に幕を開けたのだった。



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