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第25話 眠るもの

――深夜。


静かな寝息が部屋に響く。


澪は、横で眠る彼の頬をそっと指でなぞった。だがそれは自然な眠りではない。彼女が施した魔法によって強制的に落とされた眠りだ。


「……ごめんね。ちょっとだけ、私用を済ませるから」


ベッドから身を起こした澪の視線が、闇の奥を射抜く。


カーテンの隙間すら揺れない静寂――だが次の瞬間、空気が裂けた。


「……で、話って何? モルガディア」

姿を現したのは、長い赤髪を炎のようにたなびかせた女。


艶やかな笑みを浮かべながらも、その双眸は冷たい光を帯びていた。


「我が盟友――イゾルデ・タナトス」


「こんな所まで呼び出して……何のつもり? しかも、その男をわざわざ眠らせてまで。本気なの?」


赤髪の魔女の問いかけに、澪は一歩も退かずに答えた。

「本気よ。私……彼と結ばれたいの。協力してくれない?」


「……はっ」

イゾルデは小さく鼻で笑う。その響きには侮蔑と、微かな恐怖が入り混じっていた。


「バカじゃないの。あんた、自分が何をしようとしてるか分かってる? 世界を滅ぼすつもり? するにしても、狙うのは“不死の無効化”だけにしなさい。――その男の中に何が眠ってるか、理解してる?」


「…………」


「悪いことは言わない。今ここで殺しなさい。不死の無効化なら、こいつを犠牲にしなくても方法はある」

冷酷な言葉。だがそれは真剣な忠告でもあった。


澪は瞳を閉じ、一瞬だけ迷うように沈黙し――やがて、静かに口を開いた。

「知ってる。分かってる。でも……それでも私は、彼と結ばれたいの。悪い」


イゾルデの目が細くなる。

「……ごめん。協力できない。不死化の実験とは次元が違う。これは“ヤバすぎる”。しかも成功率は低すぎる」


「……聖女の血が手に入っても?」


「……それでも二割切るわね。二十パーセント以下。成功の保証なんてどこにもない」


重苦しい沈黙が流れる。だが澪は諦めない。

「……じゃあせめて――こっちの“原初の吸血鬼”について教えて」


イゾルデの眉がぴくりと動く。

「原初……ああ、聞いたことがあるわ。そいつは――アドラステイア・アンブロージア」


その名が告げられた瞬間、部屋の温度が下がった気がした。

「……聖女の血を飲んだ女よ。最初にして最悪の“不死者”。」


「………………」

澪の心臓が高鳴る。


「なるほど……いいこと聞いたわ」

口元が、ぞくりとするほど艶やかに吊り上がる。


「なんとか……なるかもしれない」


赤髪の魔女が目を細め、何かを読み取ろうとする。


だが澪はもう視線を逸らさない。彼女の中で、すでに何かが固まっていた。

「……もう少し時間がいるわね」

囁く声は、闇に吸い込まれて消えていった。



――澪の“本気”は、誰も止められない。


☆ここまで、読んでくださり、感謝いたします。

次回の更新は、9月10日の6時です。

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