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第87話 ゴールド・エクスペリエンス(1)

 ドラゴニア邸の玄関。


 風がふわりと吹き、門の飾りリボンが揺れる。


「じゃあ、一人連れて帰るからね〜」

 永遠が軽い調子で手をひらひらさせる。



「はーい。また来月に返してね。」


 アウレリアは満面の“余裕の奥様スマイル”で返す。




 その隣で――



 新妻エマは無言。


 だが、その表情はどことなく寂しげ。


 まるで、遠距離恋愛の彼氏を送り出す恋する奥さんのように、

 きゅっと唇を結ぶ。


(たった数日なのに、なんでこんなに寂しいのかしら……

 きっと……これって、もう“夫婦”ってことよね……うん)


 永遠に連れられトコトコ去っていく一人。


 その背中を、エマはじーーーっと見つめ続ける。



 やがて――


 エマはそっと、下腹部に手を当てた。


(だいじょうぶ……だいじょうぶだから。


 あなたの子ども……必ず産むからね。


 ふふ……これはもう確信よ……)



 口元が、ほんのり勝ち気な微笑みに変わる。



 そんなエマの様子を見て、アウレリアが声をかける。


「エマ、そんなに心配しなくても……」



「奥様、ふふ……大丈夫です。


 これで安泰です。もう私……」


 エマはまた下腹を押さえ、誇らしげに胸を張る。



 アウレリアも“意味深すぎる笑み”を返した。


「そうなのね……ふふふ……

 じゃあ、楽しみにしておくわ。」


 ドラゴニュートの女2人が揃って含み笑い。


 なぜか玄関先の空気が、ほんのり黒くなる。



 しかし、この時――


 エマの“直感”は当たっていた。


 いや、

 当たりすぎていた。



 ただ……



 それは2人(※と一人)にとって、

 必ずしも“喜ばしい”結果ではなかった。



 帝国を揺るがす、とんでもない超問題児たちが生まれ、


 アウレリアはストレスで円形脱毛症になり、


 エマは胃痛で夜な夜な薬草茶をすすり、


 そんな未来へ――



 彼女たちは確実に、一歩踏み出していた。


 鮮血の龍姫「ルイーズ」 魔導龍「マエル」の誕生



 だが、それこそが

 ドラゴニュート帝国・黄金時代の礎となる前日譚である。








 六年後・ドラゴニア別邸

 



「パパ〜〜♡」

 そう言いながら、ルイーズ・家成・アイリアノス(5)が

 一人の膝の上に、ぽすん、と乗っかってきた。



 相変わらずの人見知りで、知らない大人にはシャッターが降りる娘も、

 パパの前ではぷにぷにほっぺをすり寄せ全開モードだ。



「久しぶりだものね。よかったわね、ルイーズ。」


 母エマがにっこり微笑む。


 ルイーズは母親譲りの運動神経と直感の良さ、

 そして父親譲りの膨大な魔力を受け継いでいた。




 ただし――



 似なくていいところまで似てしまった。



 つまり、

 圧倒的陰キャ気質である。



 幼稚園でも、

「おともだち?」と聞くと



「……パパがいい」

 と袖を掴んでくる可愛さ全開ガールである。





 一方で――



 ここにいない“もう1人”を思い浮かべる者がいた。


 すでに双子の弟マエルはアウレリアの養子となり、

「マエル・ドラゴニア」として皇族級の教育を受けている。



 帝国中から期待され、

 母親譲りの容姿と勝負勘、勝ち気で腹黒な性格、父親譲りの膨大な魔力と全属性魔導適性もちの超天才児。



 エマはふと、少しだけ胸がきゅっとなる。


(……たまには甘えてほしいのに。

 でも……あの子の未来を思うなら、あの家にいたほうがいいものね)



 母の切ない胸の痛みを押し込み、ふっと微笑んだ。



 そんな空気を知らず、ルイーズは元気いっぱいだ。



「ねっ、今日はパパと寝るの!」


「うん、もちろんだよ。」


 頭をぽんぽんと撫でられ、ルイーズは嬉しそうに目を細める。



 そして突然、首をこてんと傾げた。


「ねえ、パパとママって、どうやって知り合ったの?」


 エマが「来たわね」という顔で笑うが、内心、めちゃくちゃ動揺する。


「えーっと……そのね……パパが困ってたところに、ママが通りかかってね……

 2人で協力して乗り越えたの。それで……3日後くらいに結婚したの。

 ねっ、パパ?」



「そうだね…。 」


「ルイーズもいつか、そういう出会いしたいなあ」

 無邪気にほほえむ娘。




 一人は、その笑顔を見つめながら――



“あの頃”を無理やり脳の奥へ追いやろうとした。



(ほんとは……


 他の女の人に襲われそうになって、


 半分誘拐みたいに保護されて……


 意識が戻ったら、結婚式が終わってて……


 その夜に無理やり襲われて……できたのが、君なんだけどね……)



 絶対に言えない真実である。



 でも、

 今こうして腕の中で笑ってくれる娘がいるなら――



 それでいい。


 遠くを見つめ、心の距離だけ現実逃避する一人。


 するとエマが、ふわりと娘の頭を撫でて言った。


「あらあら。

 ルイーズ、パパはママのものでもあるのよ?

 取らないでね?」


「え〜〜っ、ルイーズのパパだもん!」


「ママのパパよ?」


「ルイーズの!」


「ママの!」


「ルイーズの〜〜!」


 膝の上で、わたわたと“パパ争奪戦”が始まる。



 一人はその真ん中で――


(ああ……幸せだけど……なんか胃が痛い……)

 とほのかに思ったりするのだった。



 ――こうして今日も、

 家成家は平和でほんのり騒がしい。



☆ここまで、読んでくださり、感謝いたします。


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