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第86話 わたしの幸せな結婚!?(3)

 新居として用意された離れの屋敷は、こじんまりとしていながらも実に豪奢だった。


 リビングからダイニング、キッチン、寝具まで、すべて“生活できる水準”に整っている。



 式も披露宴も終わり、ドラコニア家総出での大騒ぎも一段落。



 一人とエマが離れに戻ってきたのは、とうに日付が変わった深夜のことだった。



 パーティー用の華やかな衣装から部屋着に着替えた二人は、ふかふかのベッドに腰を下ろす。



 その瞬間、一人はぐったりとうなだれた。



(うん……エマには悪いけど、今日はもう寝たい……。


 映画みたいに燃え上がるとか、現実じゃないよね……。


 エマも疲れてるし……明日から夫婦始めればいいでしょ……うん……)


 と、完全に“寝るモード”に入っていた。




 一方、エマは――握りこぶしを作っていた。


(……いよいよ。ここからが本番よ。


 絶対に……絶対に、今日孕んでやる……!!)


 決意だけで天井が割れそうな勢いだ。




 一人が布団に潜り込み、ほっと息をついた瞬間――



「おやすみ。今日はもうくたくただから、寝ようねー……」


 と優しい言葉を残して寝息を立てようとしたその時。



「――なに寝てんだーーーーー!!」



 ベリッ!!



 エマが布団を剥ぎ取った。



「ひっ!?」


 一人は冬の海に放り込まれたかのように震える。


「いや、エマも疲れてるでしょ!? ね? 寝よう? もう日付変わってるしさ!」


 一人はエマに背を向け、手をひらひらさせる。



  “寝たふり続行”の意思表明だ。


 

 しかし。


「なにヘタれたこと言ってるの!! 起きなさい!!」


 エマは一人の襟首をつかんで引き起こし、ベッドの上に正座させた。



「ちょ、ちょっとエマ落ち着――」


「落ち着いてるわよ!!」


「いやどう見ても落ち着いてな――」


「うるさい!」



 バシッ。


 軽く小突かれた。


 一人は涙目だ。


「……もう寝ようよ……明日からちゃんとするから……ね? ね?」



「ありえないわ。」


 エマは首を横に振った。


 揺れる髪がまるで怒れる女神の翼のようだ。



「いい、一人。あんたは、わっっっかってない!

 全然わかってない!!」


「えぇ……」



「私はね、いちおう貴族の端くれなの!!

 ドラゴニュート貴族の女にとって、世継ぎを産めるかどうかは死活問題なの!!」



 そう言いながら、エマはぐっと近づく。


「……えっと、その……でもムードというか……」



「政略結婚にムードなんて不要よ。


 要るのは“子種”だけよ。

 あんたの子種をよこしなさい。」



「言い方!!?」


 一人の悲鳴が夜に吸い込まれる。


 エマはすでに“一人の顔面距離ゼロ”の位置にいた。


 吐息がかかる。


 一人の顔は真っ赤。


「ちょっ……近い近い近いっ」


 一人は、必死の形相でエマに呼びかけた。



「こ、怖いよエマ! 正気に戻ろ!?


 いつものエマはさ、もっと落ち着いた女性じゃない!」



 だが、エマはブンブンと首を振った。


 その目はぐるぐる回り、どこか遠くを見ながらも強烈な執念だけは一点集中していた。



「いい? 私はね――


 自分の人生を全部、あんたにベットしたのよ!!


 絶対孕ませてもらうわ。一族の命運がかかってんだから!!」


 どストレートすぎる言葉が一人の胸に深々と刺さる。



「えーーーーーーー!?


 (そんな身も蓋もない話ある!?)」



 エマは両手を合わせて迫ってくる。


「いいから、あんたは裸になって横になってりゃいいの。


 ねっ? ねっ? ねっ?」



 目は常軌を逸したぐるぐる。鼻息は蒸気機関車。


(これで孕めば私は勝ち組……ふふふふ……)


 全身から“黒い野望”が漏れていた。



 

 一人はエマの肩に手を置き、必死に語りかける。


「いや落ち着こう! こんなテンパった状態で子供ができてもさ!


 ね!? ねっ!?」



「落ち着いてる暇はないのよ!!」


 エマの声は、半分泣き、半分怒り、そして全部必死。



「いい?あんたはおっ勃てて、子種吐き出しゃいいのよ!


 あとは私がなんとかするから!!」



「言い方ァァァァ!!」


 一人が反論する間もなく、エマは両手で一人を押し倒す。



「めちゃくちゃだよ!? 僕は夫だよ!?


 もう少しこう、優しく――」



「そんな余裕あるかぁぁぁ!!


 こちとら命がかかってんのよ!!!」



 完全に“修羅”。


 火事場の馬鹿力で一人を押さえ込む。


 エマはごそごそとポケットから何かを取り出した。


「ほら、これ飲みなさい!!」


「え、なに!? まってそれなに!?」


「ドラゴニュート特製・ドラゴン強壮薬!!」


「やばいものじゃない!?!?」



 返事する前に


 ゴクッ!!


 無理やり口に押し込まれる。



「んぐっ!? んぐっ……ぷはっ!


 あれ……なんか体が……?」



 火照る。


 妙に熱い。


 脈が早い。



「だ、だめだこれ絶対やばい……!」


 エマは勝ち誇ったようにニッコリした。



「天井の染み数えてる間に、きっと終わるわ。


 ――たぶんね。 」



「たぶんってなにーーーーーー!?」



 部屋の明かりが――



 パチン。


 と消えた。



 次の瞬間。


「いやあああああああああああああ!!!!!」


 一人の絶叫が屋敷に木霊した。




 ――その頃。



 ドラコニア本邸のバルコニーでは、

 アウレリアが望遠鏡を構えていた。



「……ふふっ、始まったわね。


 明日は朝からステーキとドラゴンドリンクを用意しておこうかしら。」



 満月に照らされながら、彼女は優雅に笑った。

 


 そして――



 朝。


 天井の染みは、数えきれないほど数えた。


 新居の離れには、

 どこか悟りを開いたような顔をした新婚の夫と、

 満足げに光る瞳をした新妻の姿があったという――。



 次の日ー朝食


 朝日が差し込むダイニングテーブルの上には――

 分厚いステーキ、特大うなぎ、すりおろし山芋、牡蠣、牡蠣、そして牡蠣。


 完全に“目的が明確すぎる”食卓。


 もちろん準備したのは、

 朝から機嫌の良いアウレリアである。


「しっかり食べてね。体が一番だから。」


 にこやかスマイル。悪魔的余裕。



 エマはツヤッツヤの肌で答えた。


「奥様、ありがとうございます。


 食後にもう何ラウンドかしますので、ふふふ…」


(*※発言内容の破壊力が強い*)



「そう、それよね。


 私も昔、新婚のとき主人に食べさせたわ~。


 効くのよ、このメニュー。」



 まるで“今日は大量発生するぞ”みたいな顔だ。



 エマも大きく頷く。


「でも本当にすごいんですよ、奥様!


 一人と寝ると元気になるんです!

 全然疲れないし、昨日より肌にハリがあって……」



「わかるわ。それ、わかるのよ……ふふっ」


 女二人が目で“同志”の合図を送り合う。




 一方の一人は――無言。


(ごめん。無理です。寝たいです。


 寝かせてください。今日というか、もう一週間寝たいです……)



 言ったら地獄が深掘りされるため黙秘。



 アウレリアが首を傾げた。


「なんか元気がないわねぇ……


 あっ!思い出した。


 我が家の秘伝のドラゴンドリンクも用意してあるの。


 これ、新婚当時、主人に飲ませたら“飛んだ”のよ。ほんとに。」




「奥様、それは素敵です。


 食後、主人に飲ませますね。」


 エマが満面の笑みで答える。


(心の声:これで今日も勝ち確。)



 一人だけ震える。


(いや絶対ダメなやつだよね!?!?飛ぶってなに!?)




 食後

 お腹パンパンの一人の口に、

 怪しげなドリンクが差し込まれる。


「ほら一人、あーんして。」

 エマが口角を上げる。悪魔化。



「ふふっ……ドラゴニア家秘伝よ。飛ぶといいわね。」



「んぐっ!? ちょっとまっ……ぐっ……!


 んぐっ、んぐっ……ぷぁ……!


 な、なにこれ……めちゃくちゃ不味い!!


 これ絶対危険物だろ!!?」



 叫ぶが手遅れ。


 数秒後――


 一人の心臓がドクン、と跳ねる。


 鼓動が加速し、体温が急上昇。



「あれ……なんか……


 体が……あ、熱……ッ……」



 そして――



「エ、エマ……


 君が……ほ、ほしい……」



 目が虚ろに揺れながら、

 エマに抱きついた。



 エマはゆっくりと微笑む。


「ふふふ……そうね。


 欲しがりなさい。一人。


 今日もいっぱい、ね?」



 こうして一人は――


 翌朝からすでに

「種馬(本人の意志ゼロ)」生活を送り始めたのであった。


☆ここまで、読んでくださり、感謝いたします。


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