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第83話 ドラゴニア邸 心理戦

アウレリアは、じっと永遠を見つめた。


「失礼ながら……あなた、アドラステイア嬢ではなくて? アンブロージア家の?」


 永遠は目を瞬かせ、軽く肩をすくめた。


「そうです。前の体が使えなくなって……今の身体に。」


 その言い方があまりに軽くて、アウレリアは思わず苦笑する。


「ふ〜ん。何度か社交界でお会いしたことがあるんですけど……

 私を覚えてない、とは?」


「どうでしょうね。勘当状態なもので。」


 アウレリアは片眉をあげた。


 その表情は、次の言葉への布石だった。


「そう。で——あなた、何者なの?」



 永遠は、わざと深い溜息を吐く。


「じゃあ、そろそろお暇しましょうか。一人を、ありがとうございました。」


 その立ち方が、あまりに自然で。


 まるで「この話、終わり」と宣言したかのよう。



 アウレリアは微笑んだ。


「本人もそうだけど、アンブロージア家に“あれほどの使い手”はいないはずなのよ。」


 永遠の足が止まる。


「アドラステア嬢とは懇意なの。

 彼女は、うちの屋敷に何度も訪問してるわ。


 口調、性格、体捌き、纏う雰囲気——


 全部が別物なの。」



 永遠は振り返り、やや冷たい表情で言う。


「でしょうね。でも、私もアドラステイア・アンブロージアなの。本物の。」



「……なるほど。」

 アウレリアは笑みを深めた。


 だが、その瞳には鋭い光が宿る。


「いいわ。あなたが—— 一人の主人なのね。

 それで、話がしたいわ。」


「断る。」


「まだ何も話してないけど?」


 永遠の答えは、即答だった。


「言いたいことはわかるわ。でもね。あれは“関わっていい相手”じゃない。」


 アウレリアは静かに問いかける。


「教えてくれないの?」


「知らないほうがいいわ。」

 永遠の声が一瞬で冷える。



「私はね、この瞬間に、そのメイドとあんたを殺して、

 一人を連れて帰ることもできるのよ。」


 エマが反射的に構える。


 その気配だけで空気が張りつめる。



 だが——


 アウレリアは、その手を一振りで制した。


 顔色ひとつ変えない。


「でしょうね。でも、それをすれば——


 あなたはお尋ね者。ここにいられなくなるし、実家にも“偽物”だってバレる。」


 永遠の眉がピクリと動く。


 アウレリアは続ける。


「もちろん、“番人”と“始末屋”にも居場所がバレるわ。


 ここの映像はすべて自動で流れるようにしてあるの。」



 永遠は頭を掻いた。


「うーん……なかなかやるわね。こっちのアウレリアは。 」



 アウレリアは満足気に微笑む。


「で、条件は?」



 アウレリアは紅茶を置き、ゆっくりと言った。


「たまにでいいのよ。一人を貸してくれたら。

 そうね、月に2〜3日くらい。私も既婚者だし。」



 永遠はあからさまに呆れた顔をした。


「……なら、対価として、こっちの条件も飲んでもらうわよ。


 でも、知らないほうがいいと思うけど。」


 アウレリアは余裕の笑み。


 永遠は苦々しい吐息。


 豪奢な居間には、

 上品な香りと、張り詰めた殺気だけが残っていた。






 ドラコニア別邸の玄関前。


 黒塗りの車の横で、永遠は腕を組み、ぷくりと頬を膨らませていた。


 さっきまで大貴族と静かな殺気でやり合っていた人物とは思えない。


「あんた、ちょっと目を離すとすぐ女作って!帰ったらお仕置きだからね。」


 一人は飛び上がらんばかりに慌てる。


「で、でも!違うんだよ永遠!


 色々なくて……トイレットペーパーとか、箸とか……

 それ買いにコンビニ行っただけで……」


 言い訳の途中で、腕の震えが自分でも分かるのだろう。


 あの襲撃の恐怖がよみがえる。


「すごく怖い目にあってさ……」


 永遠は 一人の腕をぐいっと掴んだ。


「ほら。行くわよ。」


 ドラコニア家の車のドアが開き、

 2人は中へと乗り込む。


 後部座席に腰を下ろすと同時に、車のドアが静かに閉まった。


 黒塗りの車は、夜の庭園を抜けて滑るように走り出す。



 

 その走り去る様子を、

 ドラコニア別邸の窓からアウレリアが眺めていた。


「……しかし、信じられないわね。」


 隣に控えるエマは、まだ少し肩を上下させていた。


 さっき永遠に喉を斬られかけた緊張が抜けていない。



 そして、去っていく車を眺めながら——


「でも、まあ……一先ずは、殺し合いは避けられたし。」


 その声は穏やか。


 しかし瞳の奥では、別の色が渦を巻いていた。


 黒く、甘く、粘つくような——



“欲望”の色。


「ふふ……

 あの子とは、まだ終わってないわ。」



 アウレリアの視線は、

 走り去る車の後ろ姿を追い続けていた。


 その表情は獲物に恋をした捕食者のもの。


 夜の国の風に揺れるカーテンの向こうで、

 彼女は青い髪をかき上げ、静かに笑った。




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