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第71話 トランスポーター

 澪のマンション前の道路が、不自然な静けさに包まれた。


 次の瞬間――


 ゴゥゥン…… と空気が震え、影のような“何か”が路地に滑り込んだ。


 街灯の光を吸い込み、輪郭すら曖昧に見える。


 漆黒の装甲車――いや、“呑み込む獣”と形容した方が近い。


 前方カウルが音もなく展開し、中から冷たい光が漏れた。


 永遠は当然のように乗り込み、

 助手席へと、大きな黒い袋――“一人”の入った袋――を押し込む。



 袋が転がる鈍い音が、車内にこだました。



 ―オートモード起動。


 目標地点まで…… 4キロ。―


 無機質な機械音声が響き、装甲車は低く唸りながら前進を始めた。



 一拍遅れ、装甲車は弾丸のように闇へと駆け抜けた。




 装甲車は、街灯の明かりを吸い取るように影の帯を引いて進む。


 最高速度。


 街の騒音さえ置き去りにする爆走。


 永遠は前を見据え、ヘルメットの下で小さく呼気を整えた。



「……4分。気づかれなければ勝ち。


 でも――気づかないはずないよね。」


 横の袋がかすかに動く。


 一人はまだ昏睡状態。目覚める気配はない。



 ―交通システム介入開始。


 目標地点まで、全信号を青に書き換えます。―



 永遠の唇にわずかな笑みが浮かんだ。


「よし……もっと速く。」


 装甲車は青ばかりの信号を縫い、都市の闇に溶けていった。



 

 その頃、遥か上空では、

 赤と青の閃光が交差し、空が千切れそうなほど震えていた。



 炎の奔流と、魔力の洪水。


 リリスのパワードスーツが赤く輝き、

 澪の世界樹の杖が青白い光を帯びる。



 その最中――


 人工知能【SMAEL】


「リリス様。“メギドの火”展開まで……25秒。


 現在、監視対象――ロスト。再探索しますか?」



「……ロスト?」


 リリスの声が一瞬だけ震えた。


 嫌な予感が、喉元に刃のように突きつけられる。


「なんで……一人が……!


 ――すぐに探して!!」


「了解。現在、高速移動を検知。


 映像送信します。」



 HUDに、黒く塗りつぶされた装甲車の映像が映る。



 リリスの顔色が一瞬で変わった。


「……っ、まずい。

 一人が――さらわれた……ッ!」


 怒号とともに、スーツの背面ウイングが展開する。



「サミー、追うわよ!!」



「光学デコイ展開。


 本体離脱、追跡開始。」


 空中に複数の虚像が広がり、

 敵の視界を攪乱する。 



 その隙に、リリスは装甲車の影を追って急降下した。



 その動きを見て、澪はすぐに異変に気づいた。



 澪(通常)

「おかしい。“メギドの火”が……展開中止された。


 理由、わかる?」



 澪(統合)

「虚像展開確認。本体は高速で離脱。


 ――緊急事態。一人に危険が発生したと予測。」



 澪は息を呑む。


 胸の奥が、鋭い氷の爪で掴まれたように痛む。



 澪(通常)

「この動き……ありえるのは……一人が狙われたとしたら――

 永遠、だよね……」



 澪(統合)

「追跡する。契約紋の反応をロックオン。」



 杖の先端が光を放つ。


 紋様の残滓が、空中に細い軌跡を描いた。



 澪(通常)

「……一人、無事でいて。」


 そして、澪は迷いなく急降下した。



 装甲車はすでに街道の奥深く、

 闇を切り裂き続けていた。



 永遠の目的地まで“残り2キロ”。


 追跡者は――二人。


 装甲車の内部スピーカーが告げる。



 ―追跡シグナル感知。


 高速接近――2件。―



 永遠の表情から笑みが消えた。



「……来たか。」



 高機動車、最後の直線へ

 永遠を乗せた高機動車は、夜の大通りを獣のように疾走していた。



 目的地――永遠の自宅まで、残り数百メートル。



 その瞬間。


 ゴオオォォォッ――!



 上空から、灼けるような赤光が降り注いだ。


 リリスのパワードスーツが、真紅の残光を引きながら急速接近する。



 背部スラスターが青白い尾を曳き、

 両腕のランチャーから小型ミサイルが三発、一直線に射出された。



 警告に近い威嚇だが――威力は本物だ。


 ミサイルは車体周辺の障害物を次々と破壊し、

 爆炎が夜を灼く。破片が高機動車に降り注ぐ。



 次の瞬間、高機動車の通信が強制的にジャックされた。


『……止まりなさい。

 そのままなら、破壊するわよ。』


 リリスの声は、冷静だが刃のように鋭い。



 永遠は鼻で笑い、通信に応じた。


「撃てるものなら撃ってみればいいじゃない。

 ――こっちには“人質”がいるんだから。」



 そう言った直後――


 高機動車のすぐ脇で、

 爆発。



 炎柱が立ち上り、道路一帯を赤く染める。


 リリスは――“本気で撃っていた”。


 人質ごと破壊する覚悟で。


 永遠の表情からさすがに微笑が消えた。



 火の粉を浴びながらも、高機動車は減速しない。


 むしろ炎の中へ突っ込むように加速する。


 永遠の自宅が視界に入った瞬間――



 鋼鉄製の門を、そのまま体当たりで粉砕。



 金属音と火花を散らしながら、

 玄関先まで猛進した。



 しかし――


 玄関前に、リリスが立っていた。


 全身装甲。


 光学照準。


 目の縁から赤いグラフィックが走る。



“もう逃がさない”と、その姿が語っていた。


 高機動車は急ハンドルを切り、

 ギリギリで衝突を回避する。



 その反動で、後部ドアが開き――



 黒い外骨格のエクソスーツをまとった永遠が飛びだした。



 永遠の肩部ユニットが展開し、

 内部からガトリング砲がせり出す。



 キュィィィィン……!


 回転音が夜の空気を震わせ――



 次の瞬間、

 大量の魔導化学弾が一直線にリリスへと放たれた。



 青と白の光弾の雨。


 着弾地点が次々と爆ぜ、煙と土埃が視界を奪う。



 リリスはスラスターで舞い上がり、

 煙の中から光弾を反撃として撃ち返してくる。



 その閃光は、まるで天からの雷撃のようだった。



 二人の攻撃は、数十秒続いた。



 まさに戦争だった。


 永遠は自動制御オートモードにエクソスーツを移行すると――



 崩れ落ちた高機動車の横で、一人の入った袋を抱えた。



 そのまま、手首の端末を起動し――



 バチッ!!


 光学迷彩が発動。



 永遠の姿は亜空間へ引きずり込まれたように“消えた”。


 銃火の嵐が止むと、

 玄関周囲にただ煙だけがゆっくり立ち込めていた。



 風が吹き抜け――



 ようやく視界が開けた頃には。



 永遠の姿はもうなかった。



 リリス


「……っ、このっ……!!」


 怒りを押し殺した声が、装甲の中で漏れる。




 そこへ――


 青白い残光とともに、澪が降り立った。


 その目は、恐怖と焦りでわずかに揺れている。



 二人は屋敷へ駆けこみ、

 地下へ続く階段を一気に駆け降りた。




 そこにあったのは、

 巨大な魔法陣が焼け焦げ、消えかけた光のみを残す光景だった。



 転移陣の周囲には、複数の封印痕。



 魔界と地上を繋ぐ痕跡。



 けれど――



 それは、もう終わってしまった。



 リリス

「サミー、転移先を特定して。」



 AI

「転移先は――魔界です。


 しかし、その後に“別の転移陣”が自動展開されています。


 転移を繰り返していると推測されます。」



 リリス

「追跡できないよう、転移を多段化してるのね……!」



 澪は拳を握りしめ、壁を打った。


 小さな音だったが、悔しさが詰まった音だった。



 澪

「……くそっ。


 あいつ……ずっと……この瞬間だけを狙ってたんだ……!!」



 地下室に、澪の悔痛の声がいつまでも響いた。





☆ここまで、読んでくださり、感謝いたします。


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