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第69話 MARRIAGE LICENSE(婚姻許可証)

数日後 ― 澪のマンションにて


 夕暮れの街の明かりが窓に反射しながら、

 澪と一人はゆっくりとマンションのドアを開けた。


「ただいま……」

 玄関をくぐった瞬間、2人の足が止まった。



 ――リビングのソファーに、“先客”がいた。


「おかえり。」


 りりはソファに座り、リモコンを握りながら大画面のモニターを食い入るように見つめていた。


 足を投げ出し、完全に“自宅の主人”みたいな態度で。

 

「な、何の用だ!!」

 澪が低く唸る。


「ちょっと待って……今いいとこだから。」

 りりは軽く手を振って制し、テレビに視線を戻す。


 じゃりん子チエが画面いっぱいに走る。


 妙にリビングがほのぼのして見えるのが腹立たしい。



 数分後――


 ぱちり、とモニターが消えた。



「いや〜……やっぱりいいわ、じゃりん子チエ。」

 満足げに伸びをしながらりりが言った。


 

 澪は耐えきれず指を突きつける。


「さっさと要件を言え!!」


「まあまあ、座りなよ。私の家じゃないけどさ。」とりり。


「君もだよ、一人。」

 当然のように言われ、一人は戸惑いながらも腰を下ろす。


 澪は座ると同時に吐き捨てる。


「ふん……お茶は出さない。」


「別にいいよ。もともと飲む気ないし。」


 りりはポケットから一枚の紙を取り出した。



 ぱさり――。


「で、用事ってのはね。これ。」


 テーブルの上に置かれた紙を、澪と一人は覗き込む。


 ――“MARRIAGE LICENSE(婚姻許可証)”


 しかも魔界の封蝋付き。

 


 りりは胸を張り、堂々と宣言した。


「魔界に行って正式に申請してきたんだよね。


 これ、認められたから――


 一人、貰っていくよ。式もあげなきゃだし。」


 そしてりりは続けて、肩をすくめて笑う。


「いや〜これでさぁ、悪魔仲間からの


 “結婚しました〜!”とか


 “子どもできました〜!”とか


 あのマウント合戦からやっと解放されるよ〜。ふふっ」


 一人と澪の顔から血の気が引く。


 だがりりはお構いなしに、さらに追い打ちをかけた。


「これを機に魔界に引っ越そうかな〜。



 あっ、それと――


 一人と結婚したら私、引退するから。


 その後のこっちの仕事は澪、よろしくね~」


 あまりにも軽い口調。


 あまりにも重大な内容。


 澪のこめかみがピキリと震えた。




 そして――。


 

「ふざけるな!!!こんなもの認められるか!!」


 澪は紙をむんずと掴み、そのまま一人の目の前で真っ二つに破いた。



 びりぃっ!

 


 紙が破れる音が静かに消えていく中、


 りりはまったく動じる様子もなく、


 むしろ落ち着いた微笑みを浮かべていた。



「認める? 認めない?」

 長い睫毛を伏せ、くすりと笑う。



「――あなたに関係ないよね?」

 破かれた紙など気にも留めない。


 まるで「そんなもの、どうでもいい」と言っているかのような余裕。



「今まで私の代わりに、主人の面倒を見てくれてありがとう。

でも今日からは――私がやるから。」


 その言い方は、完全に“後任の正妻宣言”だった。


 一人の心臓がドキリと跳ねる。


 そして、りりはさらりと付け加えた。


「その紙、下のコンビニでコピーしたやつだから。


別にいいよ。――原本あるし。」



 その瞬間、

 澪のこめかみがピクピクと大きく痙攣した。


 りりはまるで勝ち誇るように微笑む。


「式にはちゃんと呼んであげるよ。

 最前列に座らせてあげる。ふふっ。」


 完全に喧嘩を売りに来ていた。

 

 空気が張り詰め、一触即発。


 そんな空気を切り裂くように、

 澪が静かに、しかし鋭く切り返した。


「生活力ゼロの君が、僕の代わり?

ちゃんちゃらおかしいね。」


 りりの笑顔が一瞬引きつる。


 澪は肩をすくめ、さらに言い放つ。


「1日で三行半突きつけられるさ。

君、結婚とか向いてないよ。」



 りりの口角がピクリと上がる。


 怒りか、嘲笑か――判別不能の笑み。


 だが澪は引かなかった。


 胸に手を置き、はっきりと告げる。


「それに――


 僕も一人と誓約してる。」


 その声音は揺るぎなく、誇らしげだった。


「だから渡さないし、渡せない。」



 りりの金色の瞳がギラリと光り、

 澪の紫が炎のように燃える。


 二人の間の空気が、ビキビキと音を立ててひび割れそうになった。



 修羅場。

 


 りりは眉をひそめ、ため息をついた。


「ふーん……まあ、そのくらいのことはすると思ってたけど……

 仕方ないかぁ。」


「まあ、そうだろうね。」と澪もそっぽを向く。

 


 その横で、一人は2人の険悪な空気に押しつぶされそうになりながら口を開いた。


「あ、あの……2人とも、話せば――」


「いや、無理。」とりり。


「だね。同感だ。」澪。


 声が完全に揃った。

 


「あ、あのさ……僕は、澪のことが――」

 一人が言いかけた瞬間。

 

 りりの瞳が、不気味なほど静かに沈んだ。


「私はね……君の“心の奥底”を知ってるんだよ、一人。」


 一人の喉がひくりと鳴る。


「ほんとのことを知っても――

 それでも“澪を選ぶ”って言えるのかな?」


 その声は甘いのに、底に刃が潜んでいた。

 

 澪が立ち上がる。

「りり。……やろうか。 」



 りりはすっと立ち上がり、髪をかきあげた。

「うん。そうだね。」



 澪は一人を振り返る。


「一人はここで待ってて。」



「話せば――」


 と言いかけたが、2人はもう聞いていなかった。

 

 リビングの扉が閉まる。


 澪とりりが向かい合い、

 静かに、しかし確実に――



 二人の“戦い”が始まろうとしていた。


☆ここまで、読んでくださり、感謝いたします。


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