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第68話 バカップル爆誕

 ―同時刻 永遠の自宅・客間―



 夜気が揺れるような沈黙の中。


 永遠の家、その客間では、宙に浮かぶパネルが淡く光っていた。



 そこに映るのは――別宇宙の澪たち。


 通信の向こう側の空気までもが張り詰めているようだった。



 永遠は、背もたれに深く腰を預けながら、

 ひどく場慣れした声で切り出す。


「近い内に――りりと澪の間で、ひと騒動ありそうなの。」



 その言葉を聞いた瞬間、

 通信の向こう側で亜紀の指がぴくりと動く。



 永遠は続けた。


 声は落ち着いているのに、どこか獲物を追い詰める捕食者のような…


 不気味な静けさを纏って。


「武器庫にあったエクソスーツ送ってくれない?


 重武装型のやつと、隠密特化のやつ。


 それと――魔導重火器。……できればビーグルも欲しいわ。」



 まるで休日の買い物リストのように言うが、

 内容は完全に戦争準備だった。



 亜紀は短く息を吸い――返す。



「……いいわ。見繕っとく。


 でもね永遠……裏切らないでよ。」


 その声音には、冗談ではない緊張が混ざっていた。



 だが永遠は――


 その瞬間、口角をゆっくりと吊り上げた。



 それは、人間というより“夜に潜む蛇”の表情だった。


 音さえなく獲物の喉元へ忍び寄る捕食者の冷ややかさ。



 そして視線を隣へ向ける。




 そこにはもう一人の永遠――



 金髪の彼女が、腕を組んで立っていた。


 黒髪の永遠が静かに口を開く。


「――話があるの。金髪の私に。」


 金髪永遠が眉をひそめる。



「なに?」



 黒髪永遠は、じっと相手を見つめ、

 声を落とした。



「“夜の国”だけど――

 こっちにもあるの?」



 部屋の気温が、一瞬で数度下がったような錯覚が走る。


 金髪永遠の目が細くなる。


 しん、とした客間に、緊張が積もり続けていく。








 次の日の朝 ― バカップルの2人―



 いつもの朝食のはずが――


 今日はまるで新婚旅行先のペンションの朝のようだった。



 狭いテーブルに“並んで”座り、肩が触れ合う距離。


 2人とも頬がゆるんでいて、箸を持つ手すらぎこちない。



 澪が、ご飯をそっと箸に乗せ、

「はい、一人。あーん♡」


「うん。じゃあ、今度は僕からも……あーん♡」



 ――朝からバカップルが爆誕していた。



 周囲に誰もいないのをいいことに、

 2人はもう完全に自分たちの世界に入り切っている。

 

「僕さ、一人と離れて授業とか受けられないよ」


 澪は頬を染めながら、箸をくるくる回して嬉しそうに言う。



「どうしようかな……魔法で2年になろうか?

 同じクラスで過ごすんだ♡」



「それ、いいね。席は横になれる?」


「もちろんさ。もう絶対離さないからね♡」



 

 こうして――



 手を繋いで登校し、


 当然のように同じクラスに入り、


 当然のように隣の席に座り、


 当然のように世界をラブで包み込むバカップルとなった。

 

 

 そして、射殺すような視線が落ちる


 その“ラブ空間”の中心に2人がいる教室。



 しかし――そこにひとつだけ、暗い影があった。



 永遠。


 教室の扉にもたれ、腕組みし、

 まるでスナイパーの照準のような冷たい視線を一人に向けている。



 一人はその視線に気づき、全身がビクリと震えた。



 背中に氷の刃が刺さるような、あの感覚。



 澪も気づいて振り向き――、



 くいっ、と勝ち誇ったウインク。



 その瞬間。


 永遠の血液が、静かに、そして確実に沸騰した。



 

 昼休み ―



 チャイムが鳴り、昼になった瞬間だった。



 永遠は勢いよく一人の襟首を掴み上げる。



「――あんた。ちょっとこっち来なさい。」



 ずるずるずるっ!



 一人は抵抗も虚しく、

 まるで掃除したての雑巾のように引きずられていく。



 クラスメイト:

「え?」「あれ修羅場じゃない?」「死んだ……?」



 校舎裏



 風が止まり、空気が張りつめた。



 永遠は一人の両襟をつかみ、

 バンッ!と壁に叩きつける。



「おい。お前……どういうつもりだ。


“裏切ったのか、私をッ?”」


 その目は、泣き出しそうな怒りと、捨てられた子犬のような寂しさが混じっていた。




 

 その時、凛とした声が割り込む。


「――待ちなよ。」


 澪だった。


 永遠は振り返り、眉を寄せる。


「あんたさぁ……どういうつもり?


 学校では“私に優先権”があるはずでしょ。」



「ああ……うん、そうなんだけどねー」


 澪はわざとらしく頬を赤らめ、両手で頬を包む。



「昨日さぁ……一人と“霊の誓約”しちゃって♡


 しかもね? 一人の方から言ってくれたんだよ〜


 ほんと……参っちゃうよね。ねぇ♡」


 くねくねくねっ。


 永遠の眉がぴくり。



 ……が、あまりにもバカップルすぎて怒りがマヒした。



「だめでしょ。戻しなさいよ……」


 意外にも静かに言う永遠。


 澪は肩をすくめ、妙に素直な声で言う。


「あっ、うん。そうだね〜……戻すよ。」


 その軽さが逆に不気味だったが、澪は気にする様子もない。


 一人の手を取ると、まるで “恋人の散歩” みたいな調子でその場を去っていく。



 手を繋ぎ、ひそひそ笑いながら背中を遠ざけていく2人。



 永遠は、ただ静かにそれを見送っていた。


 ――表情は一切変わらない。


 だが、2人の影が完全に消えた瞬間。



 永遠はゆっくりと顔を俯け、

 そして、口元を――にたりと歪ませた。



「……ふーん。まあ、いいわ。」

 押し殺した声は、どこか“愉しんでいる”ようですらあった。


 さっきの怒りは、ただの表面。


 その奥には、もっと重くて暗いものが燻っている。


「この調子で――絆を結べばいい。」


 かすかに嗤いが混じる。


 爪がぎゅっと掌に食い込んでいるのに、本人は痛みすら感じていないようだった。



「……本当のことを知ったとき。」


 永遠は小さく息を吸い、囁くように続けた。


「その時が――楽しみね。」


 永遠の影が長く伸びる。


 風が止まり、校舎裏の空気が凍りついた。


☆ここまで、読んでくださり、感謝いたします。


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