閑話休題 夢 幼き日の思い出(1)
その日の夜―― 一人の部屋
夢を見た。
そこに、本来あるはずのない記憶。
けれど、胸の奥では“確かにあった”と告げてくるほど、あたたかく、懐かしい夢だった。
愛川家。
りりは小さな声でつぶやいた。
目の前にいるのは、幼児といってもいいほど幼い“少年”。
2人は仲良くソファに並び、おやつをぽりぽりつまみながら、テレビを見ていた。
「あ〜もう、またこぼして……」
小学生のりりは、タオルを持って少年の口元を拭きながらため息をつく。
「ご、ごめんなさい……」
少年は申し訳なさそうに手を縮める。
その姿があまりに小動物みたいで、りりの口元がふっと緩んだ。
「いいよ。……可愛いしね」
そう言うと、りりは少年の体を膝の上に抱き寄せた。
まるでふわふわのぬいぐるみみたいに、ぎゅっと。
「ふふ……仲がいいのねぇ」
キッチンから覗くりりのママが、優しく微笑む。
りりは頬を膨らませて言う。
「最近さ〜この子、毎日うちに来てるんだよ。私のこと“お嫁さんにする”んだってさ。
……はぁ、こんな手のかかる夫じゃ、先が思いやられるよ」
言葉とは裏腹に、その声はどこか嬉しそうで、
りりは少年を自分の胸にぎゅうっと抱きしめた。
愛おしさが止まらない。
抱きしめるたびに、胸の奥があたたかくなる。
「ふふっ……」
りりは小さく微笑んだ。
――その時。
ピンポーン。
玄関のチャイムが鳴り響く。
「あの、すみません。もしかして……うちの子が……!」
慌てた声。
少年の母親だ。
夢の中のりりは、少年の小さな手をぎゅっと握ったまま、
そっと扉の方へ顔を向けた。
まるで、離したくないと訴えるように。
ー澪のマンション 一人の部屋ー
ピピピピピ――
耳元で鳴り響く目覚まし時計のアラームに、一人はゆっくりと目を開けた。
朝の光がカーテンの隙間から差し込み、部屋の空気を淡く照らす。
寝ぼけた頭が現実へ引き戻されるその瞬間、
胸の奥に、妙な“余韻”が残っていた。
まるで――何か温かい夢を見ていたような。
彼はベッドの上で身体を起こし、ぼんやり呟いた。
「……りりさん……もしかして……」
手が震える。
昨夜の夢の断片が、鮮明に蘇る。
――小さな家。
――小さなソファ。
――小さな自分を抱きしめて笑う少女。
「……思い出したよ。りり“ねえちゃん”だ……そうだよ……」
喉がきゅっと詰まる。
「僕の……初恋の人だ」
胸が熱くなる。
あまりにも懐かしくて、あまりにも突然で。
そして、あまりにも――今のりりとは違いすぎて。
「……随分変わっちゃったけど……」
ぽつりとこぼした瞬間。
彼は両手で顔を覆った。
夢の中のあの温もりと、今の現実があまりにもかけ離れていて。
けれど確かに、心の底では震えていた。
“やっと思い出した”という安堵と、
“思い出してしまった”という動揺と。
そのどちらも隠すように、
彼はしばらく、顔を覆ったまま動けなかった。
☆ここまで、読んでくださり、感謝いたします。
評価ポイント、ブックマーク登録 していただければ、励みになります。
今後もよろしくお願いします!




