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第56話 約束

 永遠は、こちらを真っ直ぐ見つめた。


「いい、一人。今から大事なこと言う。

 よく聞きなさい」


 夕陽が彼女の横顔を照らし、黒髪が赤く染まる。


「この世界の“違和感の正体”を探してることを、澪に悟られないで。


 いい? でも、それはいずれ見つかるから安心して」


 言葉の意味を飲み込む前に、永遠はもう一つ、決定的なことを告げた。


「それと……これが一番大事」

 一歩、僕に近づく。


 影と影が重なり、永遠の瞳の奥が揺れた。


「あんたは“私のもの”。


 私があんたを捨てることは出来ても、

 あんたが私を捨てることは出来ない。」



 息が止まる。


「“私は裏切りを許さない”——忘れないこと」

 

 すっと視線を逸らすと、校門前に停まっていた黒塗りの車の後部ドアが開く。



 永遠はそのまま、軽やかな動作で乗り込んだ。


 ドアが静かに閉まる。


 車は赤い夕陽の中へ溶けるように走り去った。


 残された僕の胸の中で、もやもやとした感情が渦巻く。


 彼女の言葉は厳しくて、歪んでいて。


 だけどどこか……粘着質な愛情にも似ていて。


 その奇妙な温度が、胸の奥でじわりと広がる。



 夕陽は、僕の影をさらに長く伸ばしていった——。





 ―同じ頃・某寺院内の墓地にて―



 寺院の裏手。風の通り道になった古い墓地には、

 しゃらり、と風鈴のように竹林が鳴る微かな音だけが響いている。



 澪は静かに墓前に立っていた。


 夕陽に照らされた白い指先が、線香の煙を優しく払う。



 その顔はいつもの柔和な笑みではなく……



 なにかを押し殺したような、硬質な表情だった。


「……約束は、守るから」


 澪は手を合わせ、瞼を閉じる。



「必ず添い遂げる。


 家も……全部、守るよ。


 あなたたちが残したものは、全部」


 風が吹き、髪が揺れる。



 そこは——家成家の墓。


 墓誌には、いくつもの名前が刻まれている。



 その中に、ひときわ新しく彫られた文字があった。




 ―― “家成 一人”





 澪はその名を、指先でそっとなぞった。


 まるで語りかけるように、優しく……けれど執着的に。



 夕陽が長く伸び、

 澪と墓石の影が重なっていく。



 その影は、まるで互いに絡み合い、分かちがたく結びついているように見えた。


 薄暗く染まる墓地に、澪の声だけが静かに落ちる。


「……だから、安心して眠ってて」


 空気がひやりと冷えた気配がした。


 だが澪は気にも留めず、ただ長い影の中で手を合わせ続ける。



 夕陽は沈みかけ、

 寺院の鐘が遠くで鳴っていた——。





 ―夕暮れの帰り道―



 放課後の街はオレンジ色に染まり、一人はカバンを肩にかけながら自宅へ向かって歩いていた。




 そのとき——



 ゴォッッ!! と低く響くエンジン音。


 歩道のすぐ横に、大型バイクが滑り込むように寄り添って止まった。


 フルフェイスのヘルメットが、ゆっくりとこちらを向く。


 カシャン、とバイザーが上がる。


「よっ。……この前は世話になったね。」


 ヘルメットの隙間からのぞく唇。



 そして、ツナギ越しでもわかる曲線的な体つき。



 艶めく視線の主は——



 りり。


「りりさん…? こんばんは。今日はどうしたんですか?」


「ん〜、借りっぱなしのシャツ返そうと思ってさ。

 ついでに家まで送るよ。乗りな」



 気軽な口調とは裏腹に、視線の熱がやけに近い。



「いや、その……シャツは返さなくてもいいですよ。姉さんが、この前のこと怒ってて…」



「うんうん。澪、嫉妬してるね。ふふっ」


 その笑みは、どこか楽しんでいるようだった。


「でもね、一人。澪のことは気にしなくていいんだよ。


 話、通してあるから。」



 バイザー越しの目が妖しく細められる。


「えっ……そうなんですか?


まあ、他の子にも許可あるし……りりさんにも、ってことですよね?」




 その瞬間——


「……他の子?」


 声が一気に低くなる。


 ヘルメットの奥から放たれる視線に、背筋が冷たくなった。


「えっと、クラスメートですけど……」



「ふーん。モテるんだ。


 私というものがありながら、浮気?」


 微笑んでいる。


 けれど目がまったく笑ってない。


(やばい……っ! りりさん、近い……!)



「う、浮気だなんて! 僕、陰キャの非モテですよ……!」



「ふ〜ん。まあ、いいけど」


 そう言いながら、りりはバイクを軽く叩いた。



「ほら。乗りなよ」



 ——断れる空気じゃない。


 一人はぎこちなく跨り、りりの背中に手を置く。


「ちゃんと掴まって。

 落ちたら死ぬよ?」



 言われるまま、ぎゅっと抱きつく。



 その瞬間、手の甲が柔らかい存在に、ほんのかすかに触れた。


「っ……!」


(や、やわ……)



 背中越しに香る甘い匂い、ツナギ越しの体温。


 耳元でりりがふっと笑う。



「緊張してる? 可愛いね」


 一人の心臓が跳ね上がる。


「じゃ、行くよ——」



 次の瞬間。


 凶暴なエンジン音が爆発した。



「ぎゃあああああああ!!!!!」


 悲鳴は、風にちぎれて空へ消える。


 バイクは夕暮れの街を引き裂くように、

 とんでもない速度で走り去っていった——。




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