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第55話 あんたは“私のもの”

 ー朝 教室にてー



 ガラリ、と教室のドアを開けた瞬間——


 ざわめきが一斉に耳へ流れ込んできた。


「昨日さ〜聞いてよ!」


「ちょっと課題写させてってば〜」


 男子も女子も思い思いに騒ぎ、いつもの朝の空気が漂っている。



 ……その中で、ひときわ目を引く存在がいた。


 黒曜石のように艶やかな長い黒髪。


 透き通る白い肌。


 整いすぎて、逆に近寄りがたいほどの顔立ち。



 ——永遠。


 彼女は当然のように視線を集め、その中心に立っていた。



「おなよう、一人かずと


 軽く手を上げ、微笑みながら声をかけてくる。


「うん……おはよう」


 一人も気まずそうに返す。


 すると、その背後で女子生徒たちがざわりと揺れた。



「……ねえ、あいつ昨日どうだったの?」


 永遠にだけ聞こえる小声で、ひとりの女子が詰め寄る。


 永遠は肩をすくめ、少し困ったように、しかしどこか楽しげに答える。


「うん、ちゃんと反省してたよ。


 今回だけは大目に見ることにしたの。


 泣きながら、私の足に縋りついてきてね——可哀想になっちゃった」



「ふーん……永遠がいいならいいけどさ。


でも、もったいないよ? もっといい男いくらでもいるのに」



「ふふっ。……でも、今回だけだから」


 永遠は意味深に微笑む。



 そして、まっすぐ一人の方へ向かってきた。


 距離ゼロになる直前、彼女は囁くように宣告する。


「——今日から、お昼と放課後は“私”と過ごすからね」



「えっ、でも……」


 慌てる一人に、永遠は唇の端をつり上げる。



「いいの。


 その件は“もう話し合いがついてる”から……ね?」


 耳元でニヤリと。


 逃げ道などない、と言外に告げて。



 一人の心臓がドクンと跳ねた。





 ―放課後・図書室―



 カツ、カツ……


 図書室の静寂に、鉛筆の先が紙を滑る音だけが響く。



 向かいに座る永遠は、黒髪をさらりと揺らしながら、淡々と問題を解いていく。



 金髪の永遠とは違い、こちらの“黒髪の永遠”は——勉強が異様にできる。


 というか、どの教科も完璧すぎた。



 ほとんど僕が教えてもらっている状態だった。



「……なんで、こんなに勉強できるの?


 運動神経も抜群だし……普通じゃないよ」




 僕が呟くと、永遠は鉛筆を口元に当て、にこっと微笑んだ。


「うーん、生い立ちのせいかな。


 教えてもらったことは“一度で理解しないと生き残れなかった”んだよ。


 ——二度目なんて、なかったから」


 軽い口調なのに内容は重く、背筋にひやっとしたものが走る。



「まあ、運動は……人間じゃないからね」


 微笑みながら、さらっと言う。


 怖いのか無防備なのかわからない。





 ―校門前 夕暮れ―


 勉強が終わり、外に出ると夕陽が世界を赤く染めていた。


 僕と永遠の影が、校庭に長く伸びている。



 永遠がふと思い出したように聞いてきた。



「でさ、XMENどうだった?


 ほとんど同じ内容でしょ。びっくりしなかった?」



「うん、面白かったよ。ラッセル・クロウもよかったし……


って、いやそこ!? ヒュー・ジャックマンじゃないっことじゃないの?」



「いいんじゃない?どっちも“本物”だし」


 永遠はからかうように笑ってから、少し声のトーンを落とした。



「……ねえ、一人。


 澪はあんたに“隠してること”があるの」


「隠してること? なに?」


 永遠は唇に指を当て、悪戯っぽく首を振る。



「それは言えない。澪と“約束した”から。


——自分で見つけて?」


 舌をちょこん、と出す。



 ふざけているのに、目だけは嘘をついていない。


 その目が、ぞくりとするほど深かった。


 永遠は、こちらを真っ直ぐ見つめた。



「いい、一人。今から大事なこと言う。


よく聞きなさい」


 夕陽が彼女の横顔を照らし、黒髪が赤く染まる。



「この世界の“違和感の正体”を探してることを、澪に悟られないで。


いい! でも、それはいずれ見つかるから安心して」



 言葉の意味を飲み込む前に、永遠はもう一つ、決定的なことを告げた。



「それと……これが一番大事」


 一歩、僕に近づく。


 影と影が重なり、永遠の瞳の奥が揺れた。



「あんたは“私のもの”。


 私があんたを捨てることは出来ても、


 あんたが私を捨てることは出来ない。」



 息が止まる。


「“私は裏切りを許さない”——忘れないこと」


 すっと視線を逸らすと、校門前に停まっていた黒塗りの車の後部ドアが開く。



 永遠はそのまま、軽やかな動作で乗り込んだ。

 

 ドアが静かに閉まる。


 車は赤い夕陽の中へ溶けるように走り去った。


 残された僕の胸の中で、もやもやとした感情が渦巻く。


 彼女の言葉は厳しくて、歪んでいて。


 だけどどこか……粘着質な愛情にも似ていて。



 その奇妙な温度が、胸の奥でじわりと広がる。



 夕陽は、僕の影をさらに長く伸ばしていった——。




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