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第50話 永遠の提案

 ー次の日 放課後 映画研究会 部室ー



 少し湿った埃の匂いがする、小さな部室。


 夕陽が窓から赤く差し込み、古びたソファやDVDの山を橙色に染めていた。


「さて、今日は何を観ようか?」


 澪が、いつもの調子でリモコンをくるくる回しながら言う。


「うん。時間が短いアニメかな?」と一人は棚のケースを眺めつつ答えた。



「なら、『言の葉の庭』とかどうかな。季節はちょっと早いけど。」


 澪がDVDケースを指で軽く弾く。


「いいね。梅雨前だけど、雰囲気は合うよ」と一人も微笑む。



 夕陽が二人の間を、柔らかく照らしていた――



 そこに、すっと影が入り込む。


 黒髪が滑り落ちるような美少女、永遠とわが静かに口を開く。


「うーん、それもいいけど……ホラー観たい。少しおとなしいの。


『ゾンビランド』でもいいよ。部長が観せてくれなかったんだ。ホラー苦手でさ。」


 一人は、苦笑しながら頷く。


「ああ、そうだったね。ホラー禁止だった。」


「ホラー禁止したことなんて、一度もないぞ。」


 澪が眉をひそめる。


(……永遠のやつ、わざと記憶を混ぜてるな。)


 心のどこかがざらりと逆撫でされる。


「えっ?なんでだろう。」


 一人が首をかしげた。


 永遠が、わざとらしいほど優しい笑顔で一人に近づく。


 その仕草に、澪の視線が鋭くなる。


「君、いたのか。気が付かなかったよ。」


 澪が素知らぬ顔で言う。


「いや、それは無理あるよね。昼休みも三人でここにいたけど……


 澪、永遠のこと完全に無視してたし。」


 一人が苦笑まじりに指摘する。


 永遠は肩をすくめた。


「ほんと非道いよね。同じ部員なのに。ねっ、一人?」


「う、うん。それは――」


 言いかけた瞬間、澪の声が空気を裂いた。


「おい、一人!なんでそいつの味方するのさ。


 **“お前は誰の男”**なんだ、言ってみろ!」


 部室が凍りつく。


 夕陽すら、ピタリと止まったかのよう。


「ご、ごめんなさい……澪の、です。」


 一人は肩を落とし、小さく縮こまるように答えた。


 澪の口元がわずかに吊り上がる。


「聞いただろ、永遠。一人は“僕の男”なんだ。


 だからもう、いい加減諦めて帰れよ。」



 永遠は小さくため息をつく。


 その瞳は、静かな湖の水面のように揺らぎひとつない。


「ふーん。可哀想に。騙されて、束縛されてるんだ。」


 すまし顔でつぶやく。


「束縛なんてしてないさ。


 一人の方からお願いしてきたんだからね。


 ――そうだろ? 一人。」


 澪が横目で一人を見る。


「う、うん……そうだね。 」


 一人の声は、どこか痛々しいほど弱かった。


 永遠はその様子を見て小さく笑った。


「まあ、そうだろうね。」


(……そうなるように仕向けたんだけどね。)


 心の中だけで呟く。


 永遠は突然、軽い声で一人に向き直った。


「あのさ、一人。急で悪いけど、先に帰ってくれない?


 澪と“女同士”で話したいの。」


「ふん。いいよ。話聞いてあげる。」


 澪は挑発するように腕を組む。


「ねえ……喧嘩しないでよ。」


 一人が心配そうに声をかける。


「うん、大丈夫。澪が手を出さなければね。」


 永遠が柔らかくウインクする。


「ああ、すぐに終わらせるさ。一人、先に帰ってて。


 すぐ戻るから。」


 澪が笑うが、その目はまったく笑っていなかった。


 一人は戸惑いながらも、鞄を手に取る。


 扉を開ける。


 夕暮れの廊下に、長い影が伸びる。


「……じゃあ、後で。」


 そう言い残して、一人は部室を後にした。



 ――扉が閉まる音は、やけに冷たく響いた。


 残された部室には、澪と永遠だけ。


 夕陽は赤さを深め、影を伸ばしていく。



 そして――


 ついに二人が、正面から向き合う。


 扉が閉まり、一人の気配が遠ざかる。


 沈黙。


 夕陽の赤が部室を染め、机や棚が長い影を伸ばす。



 澪が歩み出る。


「まず、話をする前に……君ら、聞き耳立てるの得意みたいだから。」


 指先が空をなぞった瞬間、

 バチッと空間が震え、床に鮮やかな魔法陣が展開された。



 光が花びらのように舞い、部屋全体を包み込む。


 永遠の瞳がわずかに細くなる。


(……盗聴防止の結界か。)


 光が収束すると、部室は外界から完全に隔離された。




 澪はソファに腰を下ろし、鋭い視線を永遠に向ける。


 永遠は気にも留めず、優雅に髪を払って反対側に腰かけた。


「そんな邪険にしないでよ。」


 澪は目を細める。「で、話って?」



 永遠は足を組み、あごを軽く上げた。


「一人の記憶――いずれ戻るわよ。」


 空気がひりつく。


 澪は表情を変えずに返す。


「戻ったら? どうにかするさ。」


 永遠は小さく笑った。


「ふーん……記憶が全部戻ったら、

 あんたとの関係、どうなるかしらね。」



「変わらないよ。」


 その言葉は固く、揺るぎなかった。


 永遠の瞳に、わずかな興味の光が宿る。


「へえ……大した自信ね。」


 澪の拳がわずかに震えた。


 しかし声は静かで冷たい。


「帰りなよ、永遠。」


「帰らないわ。」


 永遠は微笑む。柔らかいが、どこか猛獣のような微笑みだった。



「一人の中の“あの存在”も、そろそろ黙ってないでしょうし。」


 澪はその言葉に、まるで待っていたかのように返した。


「問題ない。むしろ――さっさと目覚めてほしいくらいだね。」


 永遠の眉がぴくりと上がる。


「ふーん……そうは思えないけど?」


 永遠はゆっくりと体を乗り出し、

 澪の目の前まで顔を寄せた。


「ねえ、澪。


 ひとつ――提案があるの。」


 口角がゆっくりと上がる。



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