表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

198/263

第44話 それぞれのデート

次の週の日曜の夜。


 一人は、リビングで澪に告げる。


 緊張で喉が鳴る。

「……えっと。みんなに話があります。デートのことです」


 澪がパチンと手を叩く。


「おーい、みんな出てこい」


 すると――次々に雰囲気が変わりー



 ー澪(怒)「なんだ?」



 ー澪(悲)「いいよぉ〜、聞くよぉ〜……」


 

 ー澪(統合)「……」


 そして、いつもの“澪本人”が、なぜか司会者の顔をしている。


 まさにカオス。


 一人は深呼吸し、覚悟を決めた。


「はい。みなさんと……いや、全員とデートしました。


で、その結果、お願いがあります」



「ほう」と澪が顔を上げた。


 一人は手元のメモを広げる。


「まず、名前をつけます。


 ややこしいので――」


 ・怒りモード → いっちゃん


 ・悲しみモード → かっちゃん


 ・統合モード → とっちゃん


 ・ふだんの澪 → そのまま“澪”



「……異議あるか?」


 一瞬、殺気と湿気と静寂が飛んできたが、誰も何も言わなかったので続行。



 一人の要望:その①


「まず、かっちゃん


 呼ばれた悲しみ澪が、うるっと涙目になる。


「かっちゃんですが……過度なスキンシップは禁止です」


「え……」


 かっちゃんの瞳が今にも泣き出しそうに潤む。


「いや、その顔やめて!?


 話が進まないから!」


 一人は急いで説明する。


「まず、トイレについてくるのはダメ。


腕組みは歩きづらいから“恋人つなぎ”まで。


 それ以上はマジで転ぶから困る」


「で、それを指摘すると、なに泣いてるの!?

周りの客が“修羅場か!?”みたいな空気になるの!」


 かっちゃんは「そんなつもりじゃ……ないよぉ……」とすすり泣きの準備。



「だからそれ! その泣き方も!

人前でやられると俺、完全に悪い男みたいになるから!」

 さらに追い打ち。


「あと……泣きながら“キスしてくれたら許す……”ってのもアウト!

周りの目が痛い!」


 澪×4「…………」


 全部、一人の実体験なので誰も反論できない。



 映画館での地獄デート ― かっちゃん編 ―


 映画館前。


 澪は一人の腕に、ぴったり自分の腕を絡ませたまま、すり寄るように並んでいた。


「何観ようか〜?」


「ラブロマンスとか?」


「それにしようか」

 ほんのり香る澪のシャンプー、距離ゼロの密着感。


 ……ここまでは普通の“青春デート”だったはずなのだが。


「……あのさ、言いにくいんだけど、胸が当たってる……」


「ふふ、わざと当ててるんだよ。嬉しいよね?」

 その笑顔は、絵に描いたような“恋する女の顔”。



 だが一人は勇気を出して言った。

「いや、その……歩きにくいから……手繋ぎにしない?」



 ――その一言で、すべてが終わった。



「…………えっ」


 澪の顔から血の気が引き、目に涙が溜まっていく。


「一人……腕組み、嫌なの……? うぐっ……うぐっ……」


「えっ、ちょっ、待って待って!? 泣くの!? なんで!?」


 予想を遥かに超える反応である。


「なんでなの!? あいつ(別の澪)にはそんなこと言わないじゃない!


なんで、なんでなのよ!! あいつのほうがいいんだ!! 浮気だよ!!!」


 周囲のカップルも家族連れも、完全に修羅場だと思ってる。


(いや、全員同じ女なんだけど……!!)


 一人は必死で澪の肩を押さえた。


「澪、落ち着いて! 違うから! 人目! 人目!!!!」



 だが涙は止まらない。


「だって……私とは体だけの関係なんでしょ!?


遊びなんでしょ!?(※身体共有の意味である)」


「違う!! そこ誤解される!! やめて、そのワード!!」


 スマホを向ける通行人すら出始め、空気がますます地獄に染まっていく。


「僕が悪かったよ。ごめん、ね? 落ち着いてよ」


「……じゃあ……チューしたい……今すぐ……」


「ここで!? いや、無理無理無理! 人いっぱいいるから!」


「チューしたいの!!」


 駄々っ子モード発動。


 泣きそうな瞳で見上げられ、完全に観念した一人は、

 頬に軽くキスをした。



 すると――


「へへっ♡」


 澪は一瞬で機嫌を取り戻した。


 親子連れは子供の目を塞ぎ、


 学生は「バカップルかよ……」と呟き、


 スマホ撮影組は満足げに去っていく。



 ――こうして一人は“バカップル認定”の称号を得たのであった。




 上映中


 カップルシートで、密着度120%。


 澪はポップコーンもドリンクも一人の口元まで運んでくる。


「ほら、あーん♡」

(介護か……? いや、カップルシートはこういうのが正しいのか……?)


 指摘したら泣く。


 泣くと修羅場になる。


 修羅場になると周りの視線が刺さる。


 刺さると心が死ぬ。


 ――よって、一人は諦めた。




 上映後・トイレ問題


「ごめん、トイレ行ってくる」


「うん、いいよ」

 と言いつつ、腕を離さない。


「えーっと……澪? トイレ行きたいんだけど……」


「うん、一緒に行くよ?」


「いや、だから……」


「なーに? 一緒だよ?(当たり前でしょ?)」


「腕、離して……」


「離れ離れになるんだよ。いいの?」


「うん、三分くらいかな」


「三分!? 三分も!?


 一人は私と“三分”も離れ離れになれるの!?


 この気持ちは……私だけなの……?」


「いや、そこまででは……ないかな……」



「やっぱり!!


他の女(別の澪)のほうがいいんだ!!


浮気だよ!! ひどいよ!!」



 そして――泣く。


「逆に僕も女子トイレのほうには行けないよ!?」


「行けるよ! 行くんだよ!」


(無理だし。捕まるし)



 限界を迎えた一人は腕を振りほどき、

「ごめん、もう無理」


 と全速力で男子トイレへ。



 後ろで――


「いやーーーーーーー!!」


 爆音絶叫。


 戻ってくれば、当然のように修羅場。


 そして当然のように、

「チューしたい……」


 と拗ねられる。




 舞台はふたたび、澪の家のリビング。


「それと“とっちゃん”ですが……会話はキャッチボールですので、できれば返事ください。なるべくね」


 困ったように眉を下げながら一人がそう告げる。


 ー澪(統合)「了解……」


 その素っ気なさに、一人は小さく笑った。


「でも、それが“とっちゃん”だからね。無理して変えなくてもいいから……。ただ、なんか俺だけモノローグ読んでるみたいで寂しいからさ」


 ー澪(統合)「……了解」




 ー遊園地でのことー


 入園ゲートをくぐると同時に、楽しげな歓声と軽快な音楽が広がっていく。だが、隣の澪はというとーー


「じゃあ何に乗ろうか?」


「…………」


 完全なる無反応。


(……え? え、テンション低くない?)


 一人は気を取り直して次の提案をする。


「うーん……ジェットコースターとか……どう?」


「了解……」


 テンションは低いが、返事だけは早い。


「じゃ、次はコーヒーカップとか?」


「了解……」


「お化け屋敷とか?」


「了解……」


 すべて「了解」で片づくラインナップ。


 まるで自動音声。


(き、気まずい……! これマジで俺だけ実況してるやつだ……!)


 まさか“了解”一本槍になるとは思っていなかった。


 沈黙に耐えきれず、一人はおそるおそる尋ねる。


「あの……澪。今日は楽しんでくれてる?」


 澪は少しだけ視線を上げ、

 無表情のまま、しかし言葉はほんの少し柔らかかった。


「……楽しい……」


 そのわずかな声に、胸がふっと温かくなる。





「……最後に、“いっちゃん”ですが……」


 一人は、まるで解雇通知でも言い渡すような、妙に神妙な顔で切り出した。


 ー澪(怒)「なんだ」


 腕を組んで睨みつける“いっちゃん”こと怒りモードの澪。


 その圧は、銃火器よりも人を黙らせる。


「……酒癖が悪いです。デートでは禁酒です」


 一瞬、空気が固まった。



 ー澪(怒)「んなこと、できるわけねえだろ。何いってんだ。酒飲まねぇで、何がデートだよ」



 開き直り方が豪快すぎて、一人は一瞬、自分の耳を疑った。


(……だめだ、こりゃ)


 悟りの境地に達した顔で、一人はそれ以上何も言わなかった。


 その様子を黙って見ていた、通常モードの澪。


 ー澪(通常)「…………」


 無言だが、明らかに心の声はこうだ。


(だから言ったよね。コミュニケーションに問題があるって……)


 額に手を当て、小さくため息をつく。

☆ここまで、読んでくださり、感謝いたします。


評価ポイント、ブックマーク登録 していただければ、励みになります。


今後もよろしくお願いします!



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ