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第40話 インサイド・ヘッド(3)

 ――深夜。


 澪はベッドの中で静かに眠っている。


 けれど、彼女の脳内では――とある“評議会”が臨時招集されていた。



 ◇澪評議会・臨時総会


 場所:澪の脳内・議場


 長机を囲んで、4人の澪が着席していた。


 表情も雰囲気も声すらも違う、けれど全員“澪”。


 最初に口を開いたのは、柔らかな微笑みを浮かべた澪(喜)。


 いちばん“普段の澪”に近い顔だ。



「じゃあ、始めるよ。今日の議題は――今後のことについて、だ」


 隣で腕を組む、刺々しいオーラの澪(怒)がうなずく。


「だなっ。今日こそはっきりさせとこうぜ」


 澪(悲)は涙ぼくろのような陰のある笑みを浮かべ、静かに告げる。


「そろそろ……交代してもいい頃かもね」


 澪(統合)は淡々とした顔で短く言う。


「任せる」


 澪(喜)は一瞬固まった。


「……えっ、いきなり全権委任? いや、君らしいけどさ!?」


 しかしすぐに胸を張り、ふふんと鼻を鳴らす。



「ま、まあいいや。知ってのとおり――


 もう一人は完全に僕たちの“もの”だ。


 ここまで協力してくれて、ほんとにありがとう。


 これで、ずーっと楽しく過ごせるよ!」



 得意げな澪(喜)に、澪(怒)が机を叩く。


「なんかよォ、それだと今後もお前がメインみたいじゃねぇか!」


 澪(悲)も眉を寄せ、涙ぐみながら抗議する。


「独り占めは……だめだよ……?」


 澪(喜)は、まるで「理解できないなあ」という顔をした。


「なに言ってるのさ。


 一人は“澪(喜)”しか知らないんだよ。


 その“僕”にプロポーズしたんだから、メインは当然、僕だよ?」



 澪(怒)「バッッッカお前。


 みんなで協力した結果だろうが。


 調子乗んな」



 澪(悲)「そうだよ……。


 “一人はみんなを受け入れる”って言ったじゃない……」


 澪(喜)は肩をすくめる。


「いやいや、君たちが出たら嫌われちゃうだろ?


 でも、まあ……たまには交代してあげてもいいよ?


 気が向けばね」


 その途端、澪(怒)が椅子を蹴り飛ばす勢いで立ち上がった。


「テメェ……ナメてんだろ!!?」


 澪(悲)も涙を流しながら立ち上がる。


「横暴だよ……ひどいよ……!!」



 澪(喜)は余裕の笑みを崩さない。


「だって君たち、家事とか料理できるの?


 生活力ないでしょ。


 嫁ポジ、務まんないよ?」


 澪(怒)「なっ……できらぁ!!」


 澪(悲)「わ、私だって……頑張るよ……!」


 澪(喜)「ほんとかな〜? 不安だな〜?」


 4人の間にピリピリした空気が走る。


 澪(統合)は静かに議事録だけ取っていた…





 ー次の日の朝ー


 カーテンの隙間から差し込む微かな光が、まだ眠気の残る一人かずとのまぶたを揺らした。


 ……なんだか、今日はベッドが狭い気がする。



 寝返りをうつと、むにっ。


「……ん? なんか柔らかい……?」


 ぼんやりしたまま、もう一度むにむにと揉んでみる。


 むに。むに。


 柔らかい。やたら柔らかい。


 しかも、手のひらが沈む。


(え……なにこれ……?)


 次の瞬間。



「もう、お前ほんと好きだな。ふふっ」


 耳元で女の声がした。


 眠気が吹き飛ぶ。


 一人は跳ね起き、その“柔らかい物体”へ目を向けた。


 そこには――澪が寝ていた。


 しかも、自分の胸を揉まれて満更でもなさそうな顔で。


「あ”あ”あ”あ”あ”あ”あ”!?!?

 またベッド間違えたの!?」


 悲鳴に近い声が部屋に響く。


「間違えるわけねえだろ」


 ぱちりと目を開けながら、澪が言う。


「もう夫婦なんだから、一緒に寝るだろ。同じベッドで」


「ふっ……夫婦!? いや確かに告白はしたけど!? え、よかったの? 本当に?」


「あたりめーだろ」


 堂々と、何をそんなに驚いてんだと言わんばかりに澪は胸を張る。


 そして。


 澪は一人の頬を軽く掴み、そのままちゅっと口づけた。


「……………………」


 一人の思考が一瞬止まる。


「ま、朝だしな。ご飯つくるわ」


 キスの余韻を残したまま、澪はスタスタと部屋から出て行った。


(……え、なにこの状況……)


 完全に脳が処理を放棄している一人を置き去りにし、数分後。




 

 ー澪謹製・朝食(地獄)ー


 テーブルの上に並んだ品々を見た瞬間、一人の顔がひきつる。


「……これ……は?」


「トーストとコーヒーと目玉焼きとサラダだろ? 見りゃ分かんだろ」


 澪が胸を張る。


 いや、分からない。


 トースト(と思しきもの)は黒を越えて灰色。


 目玉焼き(の元だった何か)は、もはや炭。


 サラダの上には毒々しい蛍光色のソースがかかっている。


 そして、唯一まともに見えたコーヒーに一人は希望を託した。


(……大丈夫、大丈夫。コーヒーは澪でも……淹れられる……はず……!)


 怯えながらも笑顔を作る一人。


「さあ、食べようぜ!」


「う、うん……いただきます……」


 まずはトースト。


 ガリッ。


 嫌な音がした。


(…………うん。炭の味しかしない。予想通り……!)



 急いでコーヒーに口をつけた。


 ―ブッッ!!!!


 盛大に吹き出す。


(な、なんだこれ!? 辛い!? 苦い!? いやこれコーヒーじゃない!!もう液体兵器だよこれ!!)



「え、どうした?」


 澪が首をかしげる。


 口直しにサラダを食べる。



 もぐ……。


 次の瞬間。


「………………(泡)」


 口から白い泡がぶわぁあっと溢れ、そのまま一人は椅子から崩れ落ちた。



 床に倒れた一人を見下ろしながら澪は唸る。


「あ〜やっぱりか〜。慣れねーことはするもんじゃねーな。食べなくてよかったぜ」



 指で自分の舌をちょんと触りながら、

「しゃーねえ、今日は学校休ませてやるか」


 と、さも当然かのように言い放つ。



 

 ーそのころ、澪の脳内ー


 ー澪(喜モード)「だから言ったじゃないかあああああ!! 料理やめとけってあれほど!!」


 脳内に澪(喜モード)の絶叫が木霊した――そんな朝だった。



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