第19話 所有紋を入れられて
数時間後――
ベッドの上で、二人並んで横になっていた。
灯りは落とされ、カーテンの隙間から差し込む月明かりが、永遠の横顔を淡く照らしている。
「そろそろさ――二人のときは“永遠”って呼びなよ」
彼女がくすっと笑いながら言った。
「私も“一人”って呼ぶから。もう呼んでるけど」
照れ隠しなのか、いたずらっぽい声色。
その響きに胸がちくりと甘く疼く。
「うん。永遠――わかった」
名前を呼んだ途端、彼女の肩がびくりと震えた。
横顔に浮かぶ赤みが月光に透けて、たまらなく可愛い。
「……それでね、今さらなんだけど」
永遠は布団の端をいじりながら、声を少し落とした。
「私、人間の子供……産めるんだよ?」
「えっ」
思わず間抜けな声が漏れる。
「もしかしてさ、人間じゃないから安心してた?」
茶化すような笑みを浮かべてはいるけれど、耳まで赤く染まっていた。
僕は息を吸い込み、真剣な顔で答えた。
「わかった。もしそうなったら、きちんと責任を取るから。男として」
永遠の目が見開かれ、次の瞬間、顔を両手で隠すように俯いた。
「っ……あ、いや、たぶん大丈夫なんだけど……」
その仕草が、逆にこちらの心臓を刺激する。
(真面目かよ……こいつ)
と、小さな声で呟いているのが聞こえた。
沈黙がしばらく続き、永遠は少し呼吸を整えると、またふっと視線を上げた。
「それとさ、その額の傷――」
真剣な瞳がこちらを射抜く。
「多分、それが人外を引き寄せてる。なにか心当たりない?」
「……えっ」
不意を突かれ、言葉が詰まる。
「誕生日の日にできたんだよね。よくわからないんだ」
永遠はしばらく僕を見つめ、それから微笑んだ。
「うん、大丈夫。何かあっても、守ってあげるから」
「……ありがとう。永遠。君がいてくれて、本当に助かってる」
その言葉に、永遠の頬が再び真っ赤に染まる。
そして、布団の中で足をばたばたさせながら、視線をそらした。
「……………………いいよ。また映画バトルしようよ」
(永遠:こいつ、ところどころでキラーワード出すんだよな……)
永遠が、ふっと意味ありげに笑う。
「忘れてたけど…ほら、おへその下。見てみて。」
指先でそっと示された場所を覗き込むと、淡く輝く紋章が浮かび上がっていた。まるで刻印のように、皮膚の上に神秘的な模様が広がっている。
「うわっ、なにこれ!? なんでこんなとこにっ――」
驚きの声を上げる僕に、永遠は口元を吊り上げる。
「これね。私の“所有紋”なの。これがあると、大抵の人外は手を出してこないから、安心して。」
「え、そ、所有……って。僕の体に!? いや、なんでそんな大事なものを、こんなとこに……」
視線がどうしてもその紋に吸い寄せられてしまう。場所が場所だけに、目のやり場に困るのだ。
永遠はベッドに肘をつき、わざとらしく小悪魔みたいに微笑んだ。
「だって、この位置だと……エロいでしょ? なんか、こういうのって……エロゲーっぽくない?」
「……! そんな理由でっ!?」
顔を真っ赤にする僕を見て、永遠はぷっと吹き出す。
(魔女の悔しがる顔が目に浮かぶわ。ふふふ……これで完全に私のものね)
彼女は得意げに笑いながら、わざと指でその紋章をなぞる。
「ねぇ、ここ触られると、なんか特別に感じない? ……所有されてるって、ちゃんと自覚するでしょ?」
「ちょ、ちょっと永遠……ッ、やめ――」
声を抑えきれずに裏返る僕。
永遠は楽しそうに目を細めて、さらに悪戯を重ねる。
「やっぱり……エロいじゃん。ふふっ、似合ってるよ、私の“所有物”♡」
月明かりに照らされながら、二人のじゃれ合いはどこか神秘的で、それでいてコミカルで。
けれど間違いなく、熱を帯びた夜を確かに形作っていくのだった。
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