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第34話 澪VS永遠

夕日が校舎を赤く染めていた。


 祓川高校の屋上。風が鉄柵を鳴らし、空は茜から群青へと溶けかけている。


 そこに立つのは――四人だけだった。


 沈みゆく陽の中、澪はゆっくりと手をかざす。


 結界が展開され、淡い光の壁が一人の周囲を包み込む。



「一人。そこに下がってろ」

 短く告げて、澪は背を向ける。



 光の檻に押しやられた一人は、息を呑み、言葉を失っていた。


 対峙するは、二人の永遠。


 黒髪は冷静に構え、金髪は嗤う。


「二対一でやるの? なんなら、タイマンでもいいけど?」

 黒髪の永遠が挑発するように目を細めた。



「いや……お前らごとき、まとめてでいいさ。格の違い――教えてやるよ」


 澪は静かに微笑んだ。その笑みには、絶対的な自信が宿っていた。



「いいわね。お言葉に甘えて、二対一で」


 金髪の永遠が一歩前に出る。



 その身体を、黒い靄が包み――やがて、禍々しい異形へと変わっていった。



 破れた翼。紅い肌。額に伸びる二本の角。


 その姿は、まるで夜の女帝。



 一方の黒髪の永遠は、姿を変えぬままライフルを構えた。


「君は変身しないの?」と澪が問う。



「今日はこのままで十分。……殺るつもりだから」

 その瞳が冷たく光った。



「じゃあ、準備はできたようだね」

 澪が唇を吊り上げる。


「もっとも――僕が出るまでもない。“君”に任せる」

 次の瞬間、澪の雰囲気が一変した。



 まるで別人。柔らかな声色で、頬を掻きながら呟く。


「えっ、ちょっと待って。本当に私がやるの? やめよ、ね? 戦いとか苦手なんだよ〜」



 「……なんだ、こいつ」

 永遠が眉をひそめる。



「いいからやれって」

 再び声が変わり、低く鋭くなる。



「だね。ここは君が適任なんだ」

 まるで複数の人格が交錯するように、澪が独り言を繰り返した。


「え〜……仕方ないなぁ。逃げるなら今のうち――」



 キュイィィィィン――。


 電子音。風を切る音。


 タタタタタッ!!


 ライフルが火を噴いた。



 連続する銃声が屋上に反響する。


「援護する! あいつを休ませないで!!」


 黒髪の永遠が叫ぶ。



 次の瞬間、魔法陣が展開――する、はずだった。



 だが、光の結界が一瞬で破られた。


 弾丸が空間を突き抜け、澪の頬をかすめる。


 鮮やかな紅が、風に散った。


「っく……魔導化学弾!? なんでそんなものを!」


 轟音。衝撃。結界が弾け飛び、澪の身体が屋上を転がった。


 その上に、異形の永遠が影のように覆い被さる。


 腕が、爪が、振り下ろされる。


 だが、澪はすんでのところで身を捻り、蹴り上げた。


 鈍い音。吸血鬼の体が宙に浮き、鉄柵へ叩きつけられる。


 すぐさまライフル弾が飛ぶ。


 澪は結界を再構築し、同時に床と空中に魔法陣を展開した。


 床から伸びる蔦が、永遠たちの足を絡め取る。


 空中の魔法陣が、咆哮と共に紅蓮の炎を吐いた。


「燃え尽きなさいっ!」


 業火が屋上を覆う。



 黒髪の永遠は即座に魔導式の電磁シールドを展開。


 火柱を防ぐが、その衝撃で体が吹き飛ばされる。



 異形の吸血鬼は――間に合わなかった。


 炎に包まれ、絶叫が上がる。


 「ぐあああああっ!!!」

 それでも、すぐに再生を始める。


 肉が盛り上がり、皮膚が再生する光景に、澪は眉をひそめた。


「もう……やめようよ。痛いでしょ?」

 かすかに哀しみを帯びた声。


 だが、異形の永遠は唸りを上げ、再び突進してくる。


「……っ!?」


 空中に、再び無数の魔法陣が展開された。


 一斉に火を噴く。



 爆炎、閃光、衝撃――


 だが、その背後。


 黒髪の永遠が跳躍していた。


 銀色のナイフが、夕陽を反射する。



 ザシュッ。


 刃が澪の背中を裂いた。


 熱い痛みと共に、血が滲み出す。



「くっ……だから痛いの苦手なんだってば!」


 距離を取り、瞬時に魔法陣を展開。



 ――が。


 永遠の姿が、消えた。


 視界の端。風の揺らぎ。


 死角。


「後ろっ!?」


 ナイフの閃光が迫る。



 澪は身を捻り、刃をギリギリでかわす――



 屋上に、夕陽と血の輝きが交差した。



 沈みかけた夕陽が校舎の影を長く引き、屋上を紅く染めていた。

 


「ごめん、ごめん。少し見くびってた。」


 澪の口調が、どこか楽しげに変わる。



「“あいつ”と同じ程度だと思ってたよ」


 背後で倒れ伏す吸血鬼を、親指で軽く指す。



「無駄口たたくんじゃないわよ!」


 黒髪の永遠が、地を蹴った。


 風が裂け、金属が軋むような音。



 瞬きの間に距離を詰め――刃が閃く。


 澪はギリギリのところで身をひねり、宙から杖を出現させて受け流す。

 刃と杖が激突し、火花が散った。


「ふっ!」

 杖の軌道を利用して肘を叩き込み、そのまま体当たりを食らわせる。



「ぐはっ……!」

 澪の身体が数歩後退し、背中がフェンスにぶつかる。



「ふーん、近接戦闘特化か。昔、そういうやついたな――同じ戦い方するやつ。

 ……ライバルだった」



「………」

 永遠は無言で構えを取り直す。その瞳に宿る光は、殺意そのもの。



「じゃあ――これ、避けられる?」

 澪の指先が宙をなぞる。



 瞬間、天にも地にも無数の魔法陣が展開した。


 だが、それをさせまいと永遠がさらに詰める。


「甘い!」

 澪の声と同時に、永遠の目前に魔法陣が炸裂した。



 閃光。爆風。


「やった!」と澪が口角を上げたその瞬間――。


 光の中から、永遠の姿が消えていた。



「えっ……!?」

 背後に冷たい気配。



 次の瞬間、鋭い刃が澪の背を突く。



「くっ……!」


 澪は跳び退き、血を滲ませながら距離を取る。


「光学迷彩……投影を使ったのね。厄介……」


「くっ……浅い」

 永遠の目が細められる。殺気が鋭く増す。



 しかし、その緊張を断ち切るように――



《時間がない。もう回収する。その吸血鬼もだ》

 別宇宙の澪の声が、空気の振動に混じって響いた。



 澪は舌打ちをし、ため息をつく。


「ふー……仕方ないわね。こっちの“永遠”は回収するわ。でも――また来るから」



「もう来なくていいよ」

 澪が低く返す。その瞳には、戦いの熱をまだ残したまま。



 黒髪の永遠はふっと笑みを浮かべた。


「それと、一人――あんたに言っとく。いい?」


 その声は、甘くも冷たく、呪いのように響く。


「“あんたは私のもの”。

 私があんたを捨てることはできても、あんたが私を捨てることはできないからね」



「……っ」

 澪の目がわずかに見開かれる。



「じゃあ、近いうちに――」


 永遠は背後の吸血鬼を抱え、夜の闇の中に溶けるように消えた。



 ――屋上に残るのは、風の音だけ。


 すでに夕日は完全に落ち、祓川高校は静寂と闇に包まれていた。


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